アルラウネと緑の勇者
「く……。あまりにも範囲が広いどうすれば……」
「今すぐ、アルラウネを倒さないと領民が何人も死んでしまうわ」
「はわわ……。まさか、アルラウネがあそこまで知性を持っている魔物だなんて知りませんでした」
ミルは要手を頬に当て、顔を青ざめさせている。
「すぅ、はぁ……。すぅ、はぁ……」
プラスさんは呼吸を整えていた。恐怖からか、はたまた、やる気からか……。どちらにしろ、彼女に頑張ってもらうほかない。
「プラスさん。アルラウネを引き付けてください。シトラとミルは根を破壊して人々を助けて回りって。僕は人々を助けながらアルラウネの急所目掛けて攻撃します。アルラウネの即死攻撃に一番体勢があるのはプラスさんです。僕は攻撃を完全に防ごうとすると吹っ飛ばされてしまいます。だからあの狭い足場で戦うのは難しい。でも、プラスさんなら……」
「む、無理無理無理無理無理無理無理っ!」
プラスさんは顔を真横に振りまくっていた。早すぎて顔が三つに見える。
「無理じゃありません。プラスさんはアルラウネにとって強敵なんです。僕達が援護します。この危機的状況を救えるのは勇者しかいません! ウィリディス領の勇者はプラスさんでしょ!」
僕はプラスさんの肩をがっしりと掴み、大きく揺らす。彼女が頑張ってくれなければ、多くの死傷者が出るのは確実。僕たち以上にアルラウネに耐性があるプラスさんにしか引き付け役は務まらない。
「わ、私なんて名ばかりの勇者で……」
プラスさんは下を向き、ぼそぼそと呟く。とても弱々しくて、枯れかけている花のようだ。
「きゃぁああああっ! た、助けて、緑色の勇者様っ!」
「う、うわぁあああっ! な、なんだこれ。た、助けてくださいっ! 緑色の勇者様!」
「うわぁ~んっ! 勇者のお姉ちゃん、助けてっ!」
プラスさんが渋っている間に、アルラウネが生やした根は人々を捕まえ、魔力を吸い出していた。学園に植えられていたマンドラゴラを食し、力を取り戻したのだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ……。どうしよう、どうしよう、どうしよう……」
「プラスさんなら戦えます。絶対に戦える。別に勝たなくてもいいんです。足止めをしてください。僕が隙を見て確実に倒します」
「うぅ……。キース君……、私が死ぬ前に助けてね……」
「わかりました。プラスさんが限界を迎えたら僕も戦います。でもプラスさんだけで充分戦えるはずです。自信を持ってください。あのアルラウネに倒されずに勝てたら、他の勇者にも負けないと証明できます。今までの緑色の勇者とは違うぞと心の中で大きな地震が得られるはずです」
「うぅ。頑張ってみる……」
プラスさんは上を向いた。そのまま、アルラウネの方を見る。
「アルブ、プラスさんをアルラウネのもとに連れて行って」
「わかりました」
アルブはプラスさんの背中を掴み、持ち上げてアルラウネの元まで飛ぶ。
「シトラ、ミル。僕達は根に捕まっている者達を助けるよ。地面から出ている太い根を切ればその先に繋がっている人達全員を助けられるはずだ。急ぐよ!」
「了解!」
シトラとミルは頷き、人々の声や緑色の魔力を頼りに太い根を見つけては切り裂いていく。それだけで大勢の人々を助けられた。
願わくばあの巨大な根を切れば、吸収が一時的に止まるはずだ。
中央に生えている巨大な根は高く聳え立ち、地上一〇〇メートルを優に超えていた。プラスさんはアルブによってアルラウネのもとに到着。アルラウネは逃げることなく頂上で待っていた。逃げる必要もないと言うことか。
「うわぁ。なんか、面倒臭いのが来た……。前もこんな奴に追い返された気がする。なんだっけなぁ。緑色の勇者って言ってた気がするけど……。こんな顔だたかな?」
「はぁ、はぁ、はぁ……。私は……、私は! プルウィウス王国ウィリディス領出身の緑色の勇者! プラス・クーロン! 僭越ながら倒させてもらう!」
プラスさんは大きな大きな声を出し、アルラウネを威嚇した。子犬が吠えているようにしか見えないが、声を出すことは気持ちを高ぶらせるのに効果があるため、間違いじゃない。
「うるさいなぁ。そんな大声出さなくても聞こえているよ……。じゃあ、死ねっ!」
アルラウネは初っ端から口を開け、高密度の緑色の魔力を放った。木偶人形が僕に放った時みたく玉状ではなく、壁のような大きさの一撃だった。声が出ていたら辺り一面にあの高密度な魔力が広がっていたと考えると恐ろしい。
「くっ!」
プラスさんは真正面から攻撃を受けた。だが、魔力の濃度が全く同じなので致命傷にならない。
「はあっ!」
プラスさんは怯まずレイピアを引き抜き、アルラウネの眼球に突き刺した。
「ぐっ……。でも痛くも痒くもないね」
アルラウネはあっという間に回復し、拳を作ってプラスさんを殴る。だが、プラスさんのレイピアが拳に当たり、アルラウネの攻撃が停止した。その間にプラスさんは隠していた毒付きの武器をアルラウネに投げる。
全ての武器は体に刺さるが、致命傷とは言いにくい。
「なに、このこざかしい真似。痛くもかゆくもないってば!」
アルラウネはプラスさんに攻撃を受け、意識を集中させていた。拳、脚、魔力の攻撃という具合に何度も何度も攻撃を繰り返している。プラスさんはミルとシトラの鍛錬が功を奏し、肉弾戦の力が大変上がっていた。
そのおかげで腕や足が振り切られて生まれる突風が雲を吹き飛ばさんとするほどの高火力の攻撃を回避できていた。
プラスさんは回避するたびにアルラウネの体に小さなナイフで小さな傷を入れていく。だが、すぐに再生され、なんの意味も無さそうだ。それでも少しずつだがアルラウネの動きが鈍ってきたように見える。
「な、なんだ。体が……。重い」
アルラウネは自分の動きが鈍くなっていくことに気づいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。今更気づいたんだ。でも、もう遅い。あなたの体の中に大量の毒が流れている。傷を回復させても毒は消えない……」
プラスさんは息を荒げ、拳を持ち上げていた。とても地味な戦い方だが、アルラウネの体は少しずつ崩れている。毒が効いている証拠だ。
「あぁ……。こりゃ、大変だ……」
アルラウネはプラスさんから少し離れ、体の状態を確かめていた。部分部分に青黒く変色し、毒が蝕んでいるとわかる。
「領土のために首を取らせてもらいますっ!」
プラスさんはナイフを使ってぐずぐずになっているアルラウネの首に狙いを定め、攻撃に出た。だが……。
「くっ!」
プラスさんの攻撃はアルラウネの腕に止められた。狙いが見え見えだったのが先読みされた理由だろう。
アルラウネはナイフが突き刺さっている腕でプラスさんの腕を掴む。




