仲間の到着
「はぁー。倒すとかやめてほしいなー。私はただ、種族を増やすためにやってきただけだよ。この前は準備不足でうざい女に邪魔されて一回帰ったけど、今回は大量の魔力を食べて成長したし、もっともっと強くなってきたからあなたの膨大な魔力、食べちゃうね」
アルラウネは太く長い根を蛇のようにうねらせながら僕目掛けて伸ばしてきた。視界が埋め尽くされるほどの量で、人間の攻撃よりはるかに速い。
「飛刃」
僕はフルーファを左手に持ちかえ、左腰に掛けてあるアダマスの柄を握り、ぐっと押し込んでから魔力放出状態にした後、思いっきり引き抜いた。ダイアモンドに溜められた僕の魔力が放出され、三日月状の刃となって巨大な木の根を引き裂く。そのまま、アルラウネの巨大な本体に直撃し、バックりと割った。
「うへぇ……。いったぁ……。叫びたいのに叫べないのって案外辛いね」
アルラウネの巨大な体に入った傷はあっという間に再生され、傷が付いていたとは思えないほど元に戻る。全身が緑色の魔力の化け物だ。そりゃ、ただの傷では倒しきれそうにない。
「じゃあ、もっともっと行くよぉっ~!」
アルラウネを模した木偶人形は両手を上げ、飛び跳ねていた。タコのようにうねる八本の巨大な木の根が僕のもとに弧線を描きながら向かってくる。
「スゥ……。プルウィウス流剣術、マゼンタ撃斬っ!」
僕はアダマスを鞘に戻し、フルーファの柄を両手で持って流れるような踏み込みを行い、大地から戻ってくる力をフルーファに流してそのまま頭上から振りかぶる。すべての動きを一つの動作に入れ、気の流れを八本の根が集まる先端に打ち込んだ。すると、根は地面に落ち、野菜のように容易く潰れる。木の根と本体が繋がっているため、僕は木の根を足場に全力で走った。
「プルウィウス流剣術、イエロー連斬!」
太い木の根は足場に丁度よく、足場がバキッと割れるくらいの脚運びで加速し、アルラウネの本体まで一瞬で移動した。そのまま、フルーファを連続で切り込もうとした時……。
木偶人形の口が僕の方を向いていた。真緑の光の輪が浮かび、魔力が打ち込まれる寸前だった。
「死んじゃえ~」
脳内に響くアルラウネの念話が聞こえ、視界に緑色の魔力の光が見える。
「『無限、対象:僕の体と緑色の魔力』」
僕は咄嗟に『無限』の限定着けを行い、木偶人形から発せられた高濃度の緑色の魔力を受けた。緑色の魔力と無色の魔力によって圧縮された空気の反発によって僕の体は勢いよく吹き飛ばされる。アルラウネの後方に吹っ飛ばされたが、好都合だ。領土と反対側にいれば、奴は僕を追って……。
「えぇー、今のも死なないの。どんな魔法を使ってるか全然わかんない。なんか、倒せる気しないし、無視しよー。あっちの方が弱くて倒しやすいし、少なくても沢山集めれば、お腹いっぱいになるくらい魔力があるしー」
アルラウネは僕を無視してウィリディス領に向って行く。以前の時より知識が上がっているらしく、バカみたいに魔力を追う個体じゃなくなっていた。
「くっ! 待てっ!」
――どうする、僕一人の魔力量より、領土にいる人間の魔力量の方が多いから興味を持たれていない。このままじゃ、僕の方に意識を向けさせられない。
「はぁ、はぁ、はぁ……。や、やっと着いた……」
北西に到着したのは雰囲気からしてシトラとミルだ。
「シトラ! ミル! 魔力視を使うんだ! 緑色の魔力が口から吐き出される。その攻撃を受けたら即死だ! 絶対に攻撃を受けちゃ駄目だ!」
僕は大声を出してシトラとミルに叫ぶ。耳栓を付けていたら聞こえないかもしれない。でも、ミルの耳は物凄く良い。だから、耳栓をしても僕の声が多少聞こえるはずだ。
「え……、わかりました! シトラさん、魔力視を使ってください。どうやら、声を止めるだけではアルラウネの即死攻撃を防げないそうです。緑色の魔力が原因のようなので、当たらないように気を付けて行きましょう」
「はぁ……。討伐難易度特級の魔物を相手にしていると思うと、私も成長したのね」
「ブラックワイバーンの方が威圧感が大きいですけど、即死攻撃を持っているとなると厄介ですね。アルラウネの本体がいる胚珠の中に突っ込んで首を抉り切ってやりましょう」
「ミルちゃん、戦いになると物凄く頼りになるわね」
「戦いになるとってどういう意味ですか。ぼくは普段から頼りになる者ですよ!」
「二人共! 喋っている暇なんて無いよ!」
僕は大きな声で叫ぶ。すでにアルラウネはミルとシトラの前に根を張り、素早い攻撃を打ち込んでいた。
「ふっ!」
ミルとシトラは互いに左右に走り、太い根の攻撃を回避する。だが、根はシトラとミルと追尾し、逃がしてくれない。
「獣の魔力は少ないからいらないんだけどなー。邪魔だから殺しておこうー」
アルラウネは獣族の攻撃が驚異となるとわかっているのか、シトラとミルを逃がさずに巨大な木の根を鞭のように振るって攻撃する。根が叩きつけられた地面は凹み、振り抜かれただけで突風が舞う。辺りの草木は容易く潰れていた。
橙色武術祭優勝経験のある僕とシトラ、準優勝のミルをもってしても巨大な八本の木の根を巧みに使ってくるアルラウネに上手く近づけない。
「くっ! この根をまずどうにかしないと、戦いにならないわよっ!」
シトラは木の根を蹴り飛ばし、粉砕するも木の根はすぐに再生した。
アルラウネは鋭く尖った先端をシトラ目掛けて休みなく突き刺す。シトラに攻撃は当たらなかったが、地面に根が突き刺さり、深く潜っていく。半球状の凹みが生まれ、僕たちを殺すための威力に申し分ない。
「はぁ、はぁ、はぁ。お、お待たせしました。う、うわっ! で、でっかぁ……。こ、こっわぁあ……」
緑色の勇者であるプラスさんが到着した。巨大な花のような姿をしているアルラウネを見て目と口をあんぐりと開けていた。
驚くのも無理はない。アルラウネの体は地面から二五メートルはあった。ブラックワイバーンの三分の一と言えば小さく聞こえるが、巨大な根も含めたら横に数百メートルはあるだろう。木偶人形が一八〇センチメートルと人間の大きさだ。花弁が集まる胚珠の中に本体がおり、柱頭の上にエリクサーの原材料になる素材が沢山ついていた。
「プラスさん! この太い根を止めてください! その間にシトラとミルが本体目掛けて攻撃します!」
僕は戦いながら考えを回し、有利な状況を作り出そうと努力する。
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