休日の後の仕事
「ご馳走様でした。ふぅー美味しかったぁー」
僕は両手を握り合わせて神に祈る。
「いつもと同じ味付けだが、気分が変わるとそこまで味覚が変わるんだな」
アイクさんは物珍しそうな表情を浮かべながら僕を見ていた。
「昨日までほとんど味がわからなかったんですけど、今日はしっかりと感じられました。美味しいし、お腹も膨れましたし、最高でした!」
「そこまで言ってくれるとありがたいな。それで、この後はどうするんだ。また散歩に行くのか?」
「それもいいですけど、昼寝しようかと思います」
「そうか、好きなだけ寝るといいさ」
「はい!」
僕は昼食を終えたあと、部屋に戻りベッドに寝ころんだ。
膨れているお腹を摩りながら目を瞑り、黒卵さんを抱きしめる。
――あぁ、こんな昼間から寝られるなんて……。最高だな……。
昼食後、僕は二時間ほど昼寝して起きた。
現在の時刻は午後三時。
僕はもう一度散歩に出かけて体を動かした。
「体の調子がいいぞ。腕も足も軽い。今、走ったらすごく早く動けそうだ。でも、今日は激しい運動を制限されている。この動きたい欲は明日に取っておこう。今日は体を全力で休めるんだ!」
僕は散歩を終え、アイクさんのお店に戻ってきた。
特にやりたいこともなく暇なので乾いた布を借りて黒卵さんの殻を磨く。
「こうやって黒卵さんの殻を磨くのは初めてかも。お風呂ではたまに洗っているけど、今日は元気を貰ったし恩返しをしないとね」
僕は夕食の時間まで黒卵さんを磨き続けた。
光沢は全く出ないのだが、肌触りが良くなっている気がする……。
自己満足だが無心になれるいい時間だった。
僕は黒卵さんを綺麗にしたあと、食堂に向う。昼と同じように開いている席に座り、夕食を待った。
アイクさんはテーブルに昼と同じ食事を並べる。
今、見ても美味しそうだ。
「いただきます!」
「おう、残さずに食えよ」
「はい!」
またしても一口目から涙が出るほど美味しかった。
毎日こんなに美味しい料理を食べていたのに味を感じていなかったなんてもったいなすぎる。
――明日からまた仕事が再開されるけど、味をちゃんと感じられるだろうか。少し不安だな……。
「何だ、何か不安そうだな」
アイクさんは僕の心境を読み取り、当ててきた。
「あ、いえ……。明日からも今日と同じように味を感じられるか不安で……」
「今のお前なら大丈夫だ。睡眠時間さえ確保しておけば何とかこなせる。味もちゃんと感じられるはずだ」
アイクさんに言われると妙に安心感があった。
「確かに、明日からは昨日より辛いかもしれない。だが、お前は変わった。昨日のお前とは全くの別人だ。明日仕事をしたらきっと驚くぞ」
「そう言われると明日の仕事が楽しみになってきました」
「それじゃあ、今のうちに明日からの仕事内容を伝えておく」
「は、はい!」
朝七時に朝食。その後、ビラ配りを二時間で終わらせて、残りの丸太に取り掛かる。
鐘がなったら昼食を取り、残りの丸太にもう一度取り掛かる。
午後五時からビラ配りを二時間で終わらせて戻る。
夕食を得て残りの丸太に取り掛かり午後一一時に風呂に入りゼロ時に寝る。
アイクさんの話を聞き、僕は耳を疑った。
「ビラ配りは未だに三時間を切れていないのに、一時間も縮めて二時間って……」
「安心しろ。ただの目標だ。いつも通り全力でやればいい。時間を気にすると昨日と全く同じだからな、気をつけろ」
「は、はい! 頑張ります!」
僕は夕食を終え、食後の運動に店の周りを少し散歩した。
少し冷たい夜風が、お腹が膨れて体温の上がっている僕の肌を掠めていき、凄く心地よかった。
一時間ほど歩き、アイクさんのお店に戻ってくる。
お風呂に直行し、三〇分ほどお風呂のお湯にしっかりと浸かって体を癒す。
お風呂を出て寝る準備を整えたら、午後一〇時頃にベッドに寝ころんだ。
僕は少し眠れなかったので、一時間ほど窓を開けて星空を見ていた。
時間の流れがとてもゆっくり流れている夜だった。
この街の領主邸で今、シトラは何をしているのだろうか。
辛い思いをしていないだろうか。考えれば考えるほど、シトラが心配で仕方がない。
――あと少し、待っていてくれ。僕が必ず助け出してみせるから。
「ふぁー。眠たくなってきた……。よし、しっかり寝て明日の仕事を頑張ろう」
僕は窓際の椅子から立ち上がり、ベッドに再び寝転ぶ。
「黒卵さん、今日は本当にありがとうございました。明日からも僕を見守っていてください……」
僕は黒卵さんを抱きしめながら深い眠りに着いた。
眠っている間。
体が引き締まっていくような変化を感じ、眼を覚ましそうになるも、どこからか痛みを引き抜かれているような引力を感じる。
そのお陰で眼を覚まさずにぐっすりと眠れられた。
☆☆☆☆
アイクさんのお店で働き出して九日目、期限まで残り五日。
「んーはぁー。気持ちよく寝れたー。さて、今の時間は……。午前六時五五分か。丁度いい時間だ」
僕はベッドから降りて黒卵さんの入っている革袋の紐を持ち、部屋を出る。そのまま、調理場に向った。
「おはようございます!」
「キース君おはよーう。今日も元気いっぱいだね」
ミリアさんは既に朝食を食べていた。
僕はミリアさんの隣にある朝食の前に座り、手を合わせる。
「いただきます」
僕は朝食をいただき、活力にすぐさま変換する。
「うん、ちゃんと美味しく感じられる。昨日だけ特別じゃなかったんだ」
「キース君。今から仕事でしょ、頑張ってね」
「はい! 頑張ります。ミリアさんもお仕事、頑張ってください」
「ええ、私もキース君に負けないくらい一生懸命に働くよー」
「朝から元気なのはいいが、早くいかないと朝の会議に遅れるぞ。お前は一応受付たちの部長なんだからな。その自覚をもって……」
「はいはい、わかっていますよー。私、家ではこんなんだけど、ギルドではきっちりしているんだから。家では甘えたいのー」
「はぁ、さっさと行け。弁当忘れるなよ、水筒と財布は持ったか、それから……」
「もう! アイク、私はあなたの娘じゃないの。それくらいちゃんと持っている……。あれ、財布がない……」
ミリアさんはバックに手を伸ばすが、苦笑いが出ていた。
「ほらな、どうせ部屋だろ。早く取りに行ってこい」
「は、はい!」
ミリアさんはしっかり者に見えて結構抜けている部分がある。
その点アイクさんはきっちりかっちり、そのお陰で二人の相性がいいのか、微笑ましい夫婦だ。
「キース、何にやにやしている。お前も今日から仕事だろ。さっさとビラを配ってこい」
「はい! わかりました!」
僕は皿を水の入った大きな木桶に入れておく。
その後、食卓に置いてあったビラを持ってお店を出た。
「よし、走るぞ!」
僕は踏み込むためにお腹と両脚に力を入れ、右足から前に出し、左足で地面を蹴った。
「うわっ!」
左足裏に着いていた地面が抉れたせいで体勢を崩し、僕は前に転がる。
「な、何が起こったんだ。ってビラが散らばってしまった。早く集めて配りに行かないと」
僕は地面に落ちているビラをすべて集めて再度走り出した。
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