学園長
壊れた体は大量の無色の魔力による自己回復によりすぐに治ったが、大きな隙になってしまう。
実際、脚に根が巻き着き、魔力を吸われていた。アダマスで切り裂いて今は無事だが、連続で食らったら魔力を一気に持っていかれる。
「…………」
アルラウネと思われる木偶人形は口をパクパクと動かして何かを喋っていた。だが『無音』の影響で何を言っているか全く聞こえない。
「駆除させてもらう」
僕はアダマスの柄をしっかりと握り、力強く踏み込んだ。今こそ、日ごろの鍛錬の成果を発揮するときだ。
「プルウィウス流剣術、イエロー連斬!」
稲妻の速さで木偶人形の背後を取り、八連撃を放った。雷が落ちたかと思うほどの衝撃音と岩石が弾けるほどの威力が生まれ、木偶人形はばらばらになる。
「……本体はどこだ」
僕はアルラウネの偽物を倒した。どうも用心深い魔物のようで、本体は地中の中にいる可能性が高い。魔力視を使うが、辺りが緑の魔力だらけで、アルラウネの本体を見つけるのがとても難しかった。
「どこだ。どこにいる。早く見つけないと……」
魔力に反応している根も緑色の魔力を含んでおり、どこに伸びているか見つけるのは至難の業だった。
「危険だけどやるしかないか」
僕は地面か伸びてくる根を一本しっかりと掴み、大量の無色の魔力を送り込んだ。無色の魔力は緑色の魔力の中にあると光って見えるので、僕の魔力が地中に伸びていく場面が見えた。
この根はいったいどこに伸びているのだろうか。僕は移動しながら無色の魔力を追う。すると、なぜかウィリディス領の方に向っていく。もう、ウィリディス領の中にいるのかと焦りながら僕の魔力を追いかけた。
城壁の地下を通り、そのままウィリディス領の中に入って行く。僕は城壁を飛び越え、魔力を追い続けた。
――嘘だろ。もう、ウィリディス領の中にいるのか。さっきのは意識をそっちに向けさせるためだとでもいうのか。
僕がウィリディス領の中に入ったころ、放送が大きな音で鳴った。
「緊急事態発生。緊急事態発生。アルラウネの出現の可能性があり。直ちにウィリディス領に住むすべての者は耳栓を付けるか、両手で耳を塞いでください。繰り返します。アルラウネの出現の可能性があり。直ちにウィリディス領に住むすべての者は耳栓を付けるか、両手で耳を塞いでください」
ウィリディス領全体に響き渡りそうなほど大きな音が街の至る所に設置された魔道具に伝わり、危険を知らせる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。本体はどこだ……。本体は……」
僕は全力疾走と魔力の吸収によって体力が奪われていた。フルーファは家に置いてあり、手に持っているのはアダマスだけ。
アルラウネは膨大な魔力を持っているはずなので、フルーファの能力も使う予定だった。だが、まさか、今日来るとは……。いや、元から領土内にいたのか。
無色の魔力を追い、やってきたのは学園だった……。
「学園……。でも、ここは来た覚えがあるし」
僕は学園の中に入った。白い光りを放つ魔力があったのは学園の花壇だった。
「ここにアルラウネの本体がいるのか……。でも、魔力視で本体が見えない。北西から感じた嫌な気配は本当に嘘だったのか?」
僕ははっきりとしない視界に悩まされた。何かしらの魔法に掛かっているのではないかというくらい視界がぼやける。
「『無限、対象:僕の体の中にある緑色の魔力と無色の魔力』」
僕は体内に含まれている緑色の魔力を無理やり引きはがした。すると視界のぐらつきやぼやけると言った現象が無くなり、はっきりと見える。
僕が掴んでいたのはアルラウネの根っこではなく、学園の花畑に生えていたマンドラゴラの根だった。だが、領内に生えていたマンドラゴラは全て駆除したはず。マンドラゴラが夜中の間にどこからか移動してやってきたと言うのか。
「どういうことだ。なんでマンドラゴラが……」
僕は辺りを見渡した。数多くのマンドラゴラが学園の花壇に植えられている。子供達が育てていたのはただの花のはずだ。もう、何者かがこの場に植えたか、移動させたとしか考えられない。
「マンドラゴラは雄と雌がいて、アルラウネは雌しかいない。雄はどちらかに食われ、雌は根を伸ばし至る所に同種を出現させる。引っこ抜けば叫び、聞いた者は死ぬ。ほんと、厄介な魔物だよな……」
花壇にやってきたのはウィリディス学園の学園長だった。手に持っているのはマンドラゴラが入っている植木鉢だ。花壇を掘り、土ごとマンドラゴラを植える。
「なにをしているんですか……。さっき、北西の方角でアルラウネの木偶人形を見ました。もう、近くに来ています。早く避難してください」
「あぁ、避難するとも。アルラウネが王都の方に向って行ったらな」
「王都の方に向って行ったら? 何を言っているんですか。北西の方角から来て王都に向って行ったらって、ウィリディス領を突っ切らせることになるじゃないですか」
「ああ……。そうだとも。アルラウネは北西の方角から毎回やってくる。何が原因でその方向からやってくるかはわからない。だが、言えるのは緑色の勇者でなければアルラウネを倒すことができないと言うことだ。ウィリディス領はアルラウネの進行を食い止めるために作られた領土だ。城壁も敵国とアルラウネを見張るために作られた。敵国の見張りは無くなったが、アルラウネの見張りは続けられていた。だから、城壁を壊させてもらった……」
学園長はいったい何を言っているのだろうか。なぜ、そんなことをする必要があるのか、僕には全くわからない。
「学園長。落ち着いてください。今、アルラウネはどこにいるんですか」
「アルラウネは北西からやってくる。もう、すぐそこまで来ているはずだ。マンドラゴラが密集した場所に集まる習性がある奴は外の花のマンドラゴラを食した後ここに来るだろう。ここを食い荒らしたあと、王都方面にマンドラゴラの密集箇所が連発している。マンドラゴラを食い漁りながら強力になり、力を付けた状態で王都方面に向って行く」
「な、なんでそんなことを……」




