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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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幸せを閉じ込める

 僕は自分の髪を撫で、髪型を軽く整える。

 シルクのワンピースは金貨五〇枚。今の僕なら簡単に買えてしまう。でも、だからって何でもかんでも買ってあげるわけにはいかない。内心、ものすごく買ってあげたいと言う気持ちが沸き出て来ている。

 もう、すぐ店内に走り、ワンピースを一括で購入してしまいたい。でも、ここは我慢だ。

 プラータちゃんが僕に頼めば何でも買ってくれるなんて言う考えを持ってほしくない。僕も彼女に何でも買ってあげたいなんて言う考えを実行しないようにする必要がある。


 お金の感覚は関係に基づく。プラータちゃんにとって金貨五〇枚の服は物凄く高い買い物だ。僕にとってはちょっとした買い物でも、彼女にとっては人生で一度あるか無いかという買い物だろう。悩んだり考えたりするのが当たり前。あの服が欲しいから頑張れるかもしれないし、あの服を着れたら幸せかなと考えるかもしれない。そう言う感情の変化がプラータちゃんを大人にしてくれるはずだ。今の僕が出来ること……。僕はそれを考え、思いついた。


「プラータちゃん。試着してみようか」


 僕は軽く微笑み、彼女の手を引く。


「え、で、でも……。迷惑になるんじゃ……」


「迷惑なんて誰も思わないよ。マネキンが着ているより可愛いプラータちゃんに着てもらった方が服も喜ぶ」


「も、もう、またそんな発言をして……」


 プラータちゃんは耳を赤くし、頭を縦に動かした。


 僕達は服屋さんの中に入る。胸から金貨一枚を取り出して店員さんに話しを通した。すると、お金は要らないと言ってプラータちゃんの手を引いていく。

一八分ほど待っていると、黄色の髪を綺麗に結い、花飾りを付けたプラータちゃんが戻って来た。白いワンピースと同じくらい透明感の強い肌が合わさり、綺麗の一言以外出てこない。


「ちょ、ちょっと、服が可愛すぎませんか……。わ、私、こんな高い服着た覚えが無いんですけど……」


 プラータちゃんは黄色の瞳を右往左往させて極度に緊張していた。まあ、着ている服が金貨五〇枚なのだ。少しの汚れも付けたくないのだろう。


「プラータちゃん。凄くよく似合ってる。お姫様みたいだ」


「うぅ……。は、恥ずかしすぎますっ!」


 プラータちゃんは綺麗に整えられた髪型によってすっきりとした顔立ちが丸見えになっており、顔が真っ赤なのも鏡ではっきりとわかってしまったから小さな両手で顔を隠し、僕に背を向けた。


「お客様ー。記念に写真などいかがでしょうか?」


 お店の方は魔法で瞬間を切り取って特殊な紙に映し出す魔道具を持って来た。


「お願いします」


 僕は金貨一枚を支払い、写真を撮るための場所に移動した。

 白い板が沢山置かれた場所で、僕はプラータちゃんをお姫様抱っこしながら写真を撮る。

 写真を撮ってから三〇分ほど経った頃、店員さんは写真とネックレスを持って来た。

 どうもチャームに小さな写真を入れられるらしい。


 僕は欲しかったので迷わず買った。僕……、店員さんに上手く利用されている気がするが、金貨五〇枚の服を買うよりいいだろう。


 金貨一枚でネックレスを買い、チャームも金貨一枚。質は悪くないので、簡単に壊れたりしないはずだ。水に濡れても問題ないようになっており円形のチャームを開くと、先ほどの写真が載っている。どちらも笑顔で、ただ見ているだけで元気が貰える写真だった。


 ネックレスとチャームは着替えてきた後のプラータちゃんの首に掛ける。派手過ぎない質素なつくりになっており、彼女の大人の魅力をぐっと引き上げた。髪型はそのままで髪飾りはそのまま受け取ってもいいと言われたそうだ。髪型を整えるだけでも全然違う。


「き、キースさん、これは……」


 プラータちゃんはチャームを手の平に乗せ、プルプルと震えながら僕を見てきた。


「プラータちゃんへの贈り物。受け取ってくれる?」


 僕は彼女と同じ目線になり、小さな手を包むようにしてチャームを握らせる。


「う、うぅ」


 プラータちゃんはチャームを開き、先ほどの笑顔の部分が入っている姿を見た。


「う、うぅ……。うわぁああああああんっ! 幸せ過ぎて死にそうですっ~!」


 プラータちゃんは幸せの過剰摂取によって泣き出してしまった。受け取れる幸せの限界量を突破してしまったらしい。

 僕は泣いている彼女の体に幸せを閉じ込めるようにそっと抱きしめて宥めた。


「ひっぐ、ひっぐぅ……。キースさん、ありがとうございます……。大切にします」


 プラータちゃんは目の下を赤くし、泣き止んだ。チャームをぎゅっと握りしめ、深々と頭を下げる。


「喜んでもらえてよかった。辛い時があってもそれを見て幸せを思い出してくれたら嬉しい。僕はプラータちゃんの幸せをいつまでの願ってる」


 僕は現像した写真を受け取り、写真立てを購入した。風化しないように空気を完全に抜き、密閉する。


「これでよし」


 僕は写真立てをたたみ、上着の内側に入れる。


 プラータちゃんとお店を出て三時のおやつに喫茶店に入る。


「キースさん、一日で私をどれだけ幸せにしたら気が済むんですか……。もう、頭がどうにかなっちゃいそうです……」


 プラータちゃんはチャームを見ながらにんまりした笑顔を浮かべ、にやけ顔が納まらない。ケーキと紅茶を購入し、美味しくいただいた。


 喫茶店で一時間ほどおしゃべりをした後、綺麗な景色が見れる場所に移動した。

 ミルとシトラと来た覚えがある城壁だ。質素なつくりの監視塔から見える花畑が綺麗だと知っているため、プラータちゃんにも見てほしくてやって来た。観光客がいるなか、僕とプラータちゃんも屋上に移動し、北西に見える広い花畑を見つめる。

 あの花畑の多くがマンドラゴラだといったい何人の者が知っているだろうか。知らない方がいいこともあると、何となく思ってしまった。この甘い香りも生き物をおびき寄せるためのマンドラゴラの香りかと思うとむなしくなる。

 でも、あえて言わない。なんせ、プラータちゃんの顔が今日一番輝いていたから……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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