心の傷
ただ、プラータちゃんは笑いながらボロボロと泣いていた。彼女は黄色の魔力しかもっていないので、魔力暴走を起こす可能性は低いが精神状態があまりよさそうじゃない。
魔力視で体を見ると魔力の流れが不規則で体調が悪そうだ。
「プラータちゃん。こんばんわ。どうしたの、体調でも悪いの?」
僕はプラータちゃんを放っておけず、彼女に話し掛けた。
「あ……。き、キースさん」
プラータちゃんは僕に話しかけられてから、僕たちの存在に気づいた。結構近づいていたのに一切気づいていなかったらしい。
「そんなに泣いて、どこか痛い所でもあるの? 先生に殴られたりした?」
「な、何でもないです……。き、気にしないでください……」
プラータちゃんは視線を下げ、なぜ泣いているのかも教えてくれなかった。
「気にしないわけにはいかないよ。なんで、泣いているの。辛いなら僕に相談して。今の僕なら、プラータちゃんをもっと助けられる。だから……」
「やめてください! キースさんは私のことなんて気にしないでください! これ以上、優しくしないでくださいっ! わ、私は、私は……、キースさんなんて大っ嫌いなんです! 神様みたいにに優しくて世界で一番カッコよくて、何でもすぐに頼りたくなっちゃうようなキースさんが大っ嫌いなんです! もう、話し掛けないでくださいっ! これ以上、惨めな思いをさせないで!」
プラータちゃんは僕の手を勢いよく払い、泣きながら走って行った。
「プラータちゃん……」
どうやら僕はプラータちゃんに嫌われていたらしい。何か、嫌われるようなことをしただろうか。少しお節介すぎたのかもしれない。
ただ、彼女に嫌いと言われ、胸のあたりが信じがたいくらい痛かった。ライアンの本気の一撃を食らった時以上かもしれない。ただ一言、嫌いと言われただけなのに……。なぜ、ここまで心臓が抉られるような痛みが……。
「プラータちゃん、なんであんな嘘を」
「わからないわ……」
ミルとシトラは小さな声で話し合っており、僕に何も教えてくれなかった。
「二人共。何かわかったの? なら、教えてほしい。なんで、プラータちゃんは僕を嫌っていたの?」
「……もしですよ。シトラさんが別の男性と結婚していてキースさんが出会った時にすでに幸せそうにしていたらどういう気持ちになりましたか?」
ミルはたとえ話をして来た。
「え……。シトラが僕と合う前に結婚していて幸せそうにしていたら……。そ、それは……。ものすごく辛いよ。でも、シトラが幸せそうにしているのなら……、潔く引くかも」
「じゃあ、その幸せそうなシトラさんが何もうまくいかないキースさんに手を刺し伸ばして来たら……。もちろん、近くにシトラさんが溺愛している男性がいる状態で」
「えぇ……。く、苦しい……」
僕は胸を締め付けられるような窮屈感を得た。嬉しさと悲しさが合わさったような、でも、もう願いは叶わないと言う心の痛みが強くなっていく。
「多分、プラータちゃんは今のキースさんと同じ状況なんだと思います。今、ただでさえ苦しいのに、もう、自分の憧れの人が善意で手を刺し伸ばしてくる。嬉しいけど、苦しい。そんな状況が辛かったんじゃないですかね」
「でも、そんなのどうしたら……」
「どうするもこうするも、プラータちゃんの問題よ。彼女がどうしたいか、尊重するべきだと思うわ。彼女が会いたくないと言っているのに会いに行くのは違う。彼女もきっと今頃凄い後悔しているはずよ。嫌いじゃない人に嫌いっていうのは辛いもの……」
シトラはプラータちゃんが走って行った方向を見つめていた。
「僕はただ、プラータちゃんに幸せになってほしいだけで……。苦しめるつもりなんて」
「これだから鈍感は……」
シトラは溜息を吐きながら、威圧してきた。僕が何をしたわけでもないのに……。
「まあ、この問題はプラータちゃんの問題よ。どうするのか、あの子が決める。私達は私達の生活を続ければいい」
シトラは僕の手を取り、歩きだす。
「そうですね。プラータちゃんはプラータちゃんの人生があります。自分の望む未来は自分でしか手に入れられない。ここで潰れるならそこまでの女の子なんですよ」
ミルも僕の腕を掴み、歩く。
「プラータちゃん……。僕は君に嫌われていても……気にしない。王都の駅で初めて会った時、白髪の僕に気兼ねなく話しかけてくれたのは君が初めてだった。そんな君が助けを求めるのなら、僕は何でもする……」
魔力視に映る乱れた黄色の魔力の者に向って小さな声をかけた。きっと彼女に届いていない。でも、僕の感謝の心持が変わることは絶対にない。
「じゃあ、シトラ、ミル。行こうか」
僕たちは値段が少し高い宿に向かった。お風呂に入り、体を清めた後、キングベッドの上で三人で並ぶ。
「……物凄くしたいけど、プラータちゃんを思うと悪い気がして来たわ」
「……そうですね。ぼくたちだけ、キースさんを独占しちゃってます。でも、こんなカッコよくて優しくて頼りになるキースさんに抱かれたい女なんてこの世界に五万といますよ。少女の姿が頭をよぎっているからって気にする必要は……」
シトラとミルはいつもならとっくに食いついてくるほど身が燃えるのだが、今日は魔力の流れが穏やかだった。
「シトラ、ミル。僕の胸に耳を当てて心臓の音を聞いて。眠たくなったらそのまま寝ればいいし、気持ちが上がるのなら、僕は二人を愛する」
「なによ、そのキザっぽい言葉……。気持ち悪い」
シトラは僕の胸に耳を当てた。
「わかりました」
ミルも僕の胸に耳を当てる。
僕はシトラとミルの頭を優しく撫でた。少しすると、両者は視線を僕に向けてくる。その瞳は沸騰しそうなくらい熱っていた。
プラスさんが作った避妊具を早速使ってみた結果、僕の感度は上がった。だが、シトラとミルの感度も大きく上がり、普段通りに行ったら死にそうになっていた。
「こ、これ、らめれすぅ……。いつもより、刺激が強すぎて……、し、死んじゃいますぅ」
「あ、あぁ……、あぁ……」
「し、シトラさぁん、し、しっかりしてくらさぃ。ぼ、ぼくだけじゃ、キースさんを受け止めきれません」
ミルは気を飛ばしているシトラに手を伸ばす。だが、僕はその手を握りしめ、少し強引に引き寄せる。
「ごめん、ミル……。止まれそうにない」
「ちょ、ちょ、き、キースさん、こ、これ以上は……んんっ」
僕はミルを抱きしめて唇を奪い、最大限に愛した。八〇分もしないうちに両者とも伸びてしまった。
「こ、これは、駄目だ。歯止めが利かない……。リーフさんの品の方が扱いやすいな」




