綺麗好き
「えっと、ミルちゃんのお願いが感度を上昇させる薬だったが、発売前の激薄避妊具でも構わないだろうか? えっと、太さは……」
「そうですね、キースさんのはこれくらいです」
ミルは親指と中指をくっ付けず、三センチメートルほど開けて円を作った。
「なるほどなるほどー。キース君は立派なんだね~」
フルーンさんはミルに紙箱を手渡した。
「ありがとうございます! もし、使い勝手がよかったらお金を出して買わせてもらいます!」
ミルは元気よく紙箱を受け取り、満面の笑みを浮かべながら紙箱を抱きしめる。
「あの、プラスさん……。こ、これ、キースのやつを作れませんか?」
シトラはプラスさんが作った模型を手に取り、
「型があれば……」
プラスさんはシトラの耳元でぼそっと呟いた。
「じゃあ、型を取ってきますから、作ってもらえますか?」
「本物があるのに、模型が必要なの?」
僕はシトラの意味不明な行動に首をかしげる。
「う、うるさい。あんたは黙って型を取られていればいいの!」
シトラは頬を赤らめながら本気の表情を向ける。何をやっけになっているのか……。
「わ、わかったよ。でも、プラスさん。売ったりしないでくださいね。さすがに恥ずかしすぎるので……」
「も、もちろん。絶対に売らないよ」
プラスさんは手を挙げてはっきりと誓った。
フルーンさんに薬を貰い、完全に力が入った状態の模型を取ることになった。なんで、こんな目に合うのか、僕も不思議でならないが、妻たちが本気なので協力せざるを得ない。
粘土で半分ずつ模られ、ものすごく恥ずかしい思いをした。
「えっと、仕事や鍛錬など色々大変なので、一ヶ月くらいで出来ると思います。それまで楽しみに待っていてください」
プラスさんはくぼんだ粘土が入った箱を手に持っており、僕の模型が作られるのかと思うと顔が熱くなる。
「もちろん、楽しみにしています。鍛錬のお礼はそれでいいです!」
シトラは物凄く楽しみにしており、なにが楽しみなのか、僕に説明してくれなかった。
勇者邸を出たのは午後三時を回ったころだった。今日は休みの日だったので、この時間から観光を始める。ただ、行ける場所は限られているので、少し考える必要があった。
「さて……。どこに行くか……」
「そうね。もう、遅いし、近くの喫茶店でお茶をする程度でもいいわ」
「まあ、仕方ないですね。キースさんに色々疲れさせてしまいましたから、これ以上は望みません」
シトラとミルは少なからず僕に無理をさせたと思っているのか、負担がかからないように配慮してきた。でも、ここで甘えていいのかという男の誇りが現れた。
喫茶店に行くにしても適当な喫茶店ではなく、有名なお店にしようと決め、ウィリディス領の冊子を見て覚えた場所に向かう。
お店の雰囲気からすでに老舗感が漂い、建物が草花で覆われていた。もう、廃墟なのでは、と疑うほどだが、経営中の看板が建てられかけており、建物の中に入れる。
僕たちは建物の中に入り、店員さんに連れられて空いている席に座った。楽器を弾いている女性がおり、お店の中で演奏会が行われているかのような穏やかな時間が流れている。
「綺麗な音です……」
ミルは耳を動かし、音楽を穏やかな顔で聞いていた。
「そうねぇ……。凄く良い音楽よね」
シトラも尻尾を振りながら口角を上げ、優しい笑顔で身を揺らしている。
「じゃあ、注文しようか」
僕は紅茶とチーズケーキ、シトラは紅茶とショートケーキ、ミルは紅茶とチョコレートケーキ、アルブはスポンジホールケーキを頼んだ。
「いただきます」
僕たちは神に感謝した後、購入した品を食す。
「シトラ、ミル。もし、アルラウネが出てきたら、間違いなく僕が狙われる。そうなった時、二人は僕に構わず、アルラウネの本体を狙ってほしい。ものすごく危険な役目だけど、二人の火力に期待してる」
「ええ、キースに負担を掛けないようにすぐ決めてやるわ」
シトラは拳を握り、やる気を見せた。いつ現れるかわからないが、作戦を立てておけば、いきなり現れても対処できる。
「僕はキースさんの子供を産むまで絶対に死にません。だから、安心してください。アルラウネをぶっ倒して大金を手に入れて大きな家を建てるんです」
ミルもやる気をみなぎらせ、金色の瞳を輝かせていた。ほんと、頼もしい妻たちだ。
「アルブ、君の力も存分に使う。僕とアルブの二人で能力が二つ使えるはずだ。一つは『無音』を必ず使うから、アルブはアルラウネの声を常時封じて」
「了解です! 一言たりとも叫ばせません!」
アルブは顔をケーキの粉塗れにして元気よく答えた。皆、自分達の力を存分に振るえば、倒せる。そう考えていた。
「ふぅ~。いい具合にゆったりできたね。少し歩いてお腹を空かせたあと、夕食を得に行こうか」
僕は立ち上がり、お会計を済ませた後、シトラとミル、アルブと共に歩いた。
ゆったりした空間なのに、至る所にマンドラゴラが生えており、とても気が散る。
前までは全然気にならなかったのに、駆除している身からすると部屋の中で掃除しきれていない埃を見つけた時のような不快感が襲って来た。
僕は案外綺麗好きなのかもしれない。
二時間ほど歩くと、お腹が良い具合に空いてきた。今日はバイキング方式が取られた料理屋さんに入り、食べ盛りな僕たちの胃袋をこれでもかと満たす。高級な料理もいいが、こういうおバカな料理も僕たちは大好きなので、楽しみながら食事した。
午後八時。沢山食べてお腹が膨らんだ僕たちは夜の道を歩く。
「はぁ……。お金、少しは貰えるようになったけど……。勉強、楽しくないなぁ……。仕事している方が楽しいなぁ……。って! な、なに言ってるの。ダメダメ! 一杯勉強して、頭がよくならないと。お花や薬草の勉強も続けていつか立派なお花屋さんになるの……」
僕たちの前方からプラータちゃんだと思われる少女が歩いてきた。学園帰りだろうか。夕方まで仕事をしてこの時間まで勉強をしていたのかもしれない。
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