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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第五章:ウィリディス領の実態

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緑色の勇者邸

「行ってきます……」


 朝八時、栽培所から出てきたのは項垂れたプラータちゃんだった。


「プラータちゃん……」


「あ……。き、キースさん、プラスさん……。お、おはようございます! 今日もいい天気ですね! じゃあ、私は仕事があるので失礼します!」


 プラータちゃんは僕の横を勢いよく走って行った。


「キース君、プラータちゃんと知り合い?」


 プラスさんは振り返り、僕に訊いてきた。


「はい。知り合いです」


「そうなんだ。プラータちゃんはほんといい子だよね。もう、私の妹みたいなものだよ。でも、最近は凄く元気がないの。どうしちゃったのかな」


「プラータちゃんはプラスさんの家で寝泊まりしているんですか?」


「えっと、部屋を貸していると言うか、二食部屋付き給料ありの薬草栽培の仕事を両親の方がしていて、プラータちゃんも一緒に泊っているの。普段はあまり喋らないけど、この前は勉強を熱心に聞いてきたなぁ。ああいう子に報われてほしいよね」


 プラスさんは前を向き直した。そのまま、屋敷がある方に向って歩く。


「ここが私の家。植えてある品はほとんど薬草なの。残っている品は種を取るようだから、使えないんだけどね」


 プラスさんは門から屋敷の庭に入り、庭園内に造られた道を歩く。そのまま扉の前に到着した。扉を開くと広間が広がっており、フルーンさんが立っていた。


「ようこそ、緑色の勇者邸へ。歓迎する」


 フルーンさんしか立っておらず、使用人はいないようだ。


「初めましてキースさんの『妻!』のミルと言います! よろしくお願いします」


 ミルは妻の部分を強調し、頭を下げた。


「初めまして同じくキースの妻のシトラと言います。よろしくお願いします」


 シトラは物静かに自己紹介をおこなった。


「こちらこそ初めまして。バカ弟子から話は聞いているよ。この雑魚を鍛えてくれてありがとう。私はフルーン・クーロンだ。よろしく」


 フルーンさんは口が悪いのか、プラスさんを言葉で弄っていた。この前の抱き合いからして仲が悪い訳ではないと思うが、こういう師弟もいるんだな……。


「さて、実際、私はキース君に何をお礼すればいいのかわからなくてね。要望を聞こうと思って来てもらったんだ。キース君の要望が無ければミルとシトラの二人が望んでいることを聞きたい。まあ、私は神じゃないから何でもかんでも出来るわけじゃないが、出来ることならとことんするよ。こんなおばさんでよければたらふく奉仕でもしてあげようか」


 フルーンさんは大人の色気を醸し出していた。匂いからして媚薬紛いな品を持っているのだろう。薬に関してはリーフさんと同じくらい知識がありそうだ。


「えっと、とりあえずアルラウネについて聞きたいです。フルーンさんが追い返したと聞きましたし、本も読みましたけど、当の本人から話を聞きたいんです。辛いかもしれませんがいいですか?」


 僕はアルラウネが来る可能性を考慮し、情報を少しでも手に入れておきたかった。


「まさか、アルラウネの話を持ちかけられるとはね……。実際、私が書いた本を読んだのなら、あの話はほぼ真実だ。嘘なのは死者数くらいかな……」


 フルーンさんは耳が痛い話を持ちかけられたのか、眉間を摘まみ、頭痛を感じているような表情を浮かべていた。


「じゃあ、弱点や攻撃方法などは全て正しいと言うことですね?」


「ああ。正しい。アルラウネも普通の魔物と同じように魔石や首が弱点だ。触手に掴まれたら骨は折れ容易く拉げられる。軟体動物のような根っこで地面を海を割るように移動する。人型の場合がほとんどで、幻覚によって一番殺しにくい相手に見える時がある。ほんと、厄介な相手だ。根が体に突き刺さったら魔力を吸われ、あっと言う間に養分だ。今、考えただけでもよく追い返せたよ……」


 フルーンさんは腕を掴み、軽く震えていた。


「ま、こんなこと、本を読めば書いてある。しかし、なぜそんなことを聞いてくるのかな?」


「西側の平野に花のマンドラゴラが大量発生していました」


「……う、嘘だろ」


 フルーンさんは顔面を蒼白させ、ソファーにどさりと座り込んでしまった。


「嘘じゃありません。はっきりと見てきましたから。どうも異常な数でアルラウネの出現が近いのかもしれません」


 僕はフルーンさんに現状を伝えた。


「はは……。悪いことは言わない。すぐにウィリディス領から出た方がいい。ここにいるのは危険だ」


 フルーンさんは両手を握りしめ、長い緑色の髪を耳に掛ける。


「いえ、僕は逃げませんよ。絶体絶命と言う環境は逆に好機です。アルラウネを倒してウィリディス領の借金を全て返済してしまえばいい。そうすれば、ウィリディス領の景気は元に戻るはずです」


「な、なにを言っているんだい。アルラウネは幻覚系の耐性を持っている者にしか倒せない。現代最強の藍色の勇者でも無理だ。巨大なアルラウネの討伐実績はほぼ全てが緑色の髪を持つ者になっている。エリクサーが作られた年代から考えても一〇〇年以上前だ」


「つまるところ、アルラウネは一〇〇年の周期で復活する。ここで倒せば一〇〇年間は平和だと言うことです。例え倒せなくても二〇年間は猶予が空く。でも、ここで倒した方がいいに決まっている。また、悲劇が起こる前に確実に倒しきるんです」


「アルラウネに会った覚えが無い若造が何を……!」


 僕はフルーンさんに手の平を向け『無音』を掛けた。すると、フルーンさんの体から音が一切出なくなる。


「え……。師匠は口を動かしているのに、声が聞こえない……」


 僕は『無音』を解き、フルーンさんを喋らせる。


「い、今のはいったい……」


「僕は相手から発する音を無に出来ます。この力で多くのマンドラゴラを駆除してきました。この力はアルラウネにも効くはずです。でも、相手の声を止めている時、アルラウネの行動を止めることはできません。そうなったら総力戦になります。だから、アルラウネについてもっと詳しく教えてほしいんです」


「……はぁ、キース君が現れたのは神の思し召しか……。今の力を見せられて何もしないわけにはいかないな……。私が知っている情報を全て教える」

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