プラスさんの師匠
次の日、僕とプラスさんは早々に病院に向かった。危篤状態になっていたのはプラスさんほどではないが完璧に近い緑色の魔力を持つ女性だった。
「先々代緑色の勇者。私の師匠だよ。二〇年前にアルラウネを退けた凄い武勇伝を持ってるの。まあ、本人は当時のことを語りたがらないけどね……」
プラスさんはベッドで眠る女性を見ながら呟いた。
「では、治させてもらいます」
僕は脳に問題があると思い『無傷』で頭を治した。すると、先ほどまで意識が無かった女性が目を覚ます。
「し、師匠!」
プラスさんは自分でも治せなかった師匠が目を覚ました姿を見て、すぐに覗き込む。
「プラス……。なんだい、その不細工な泣き顔は……」
女性は手の平をプラスさんの頬に当てた。
「うぅ、目を覚まして一言目が不細工って……。酷いですよ」
プラスさんは泣きながら師匠の手に擦りついていた。まあ、彼女からすれば親も同然の方だろうから仕方がない。
「で、そっちのイケメンはプラスの彼氏か結婚相手かい?」
「ち、違いますよ! 彼は師匠を治してくれた恩人です!」
「なんだ、プラスが治してくれたんじゃないか。はぁー。感謝しそうになって損した」
緑髪が伸びた四〇代後半に見える女性は前髪を掻き揚げ、僕の姿を見てくる。
「白髪。珍しい髪色だな。にしても色男だな。私が若ければすぐに求愛したところだ。どうだ、このへっぽこなバカ弟子を貰ってくれないか? 私が言うのもなんだが、案外いい女だ」
「も、もう! 師匠、そう言う話しは良いですから! そもそも左手の薬指を見れば結婚していることくらいわかりますよね!」
「ルークス王国は一夫多妻制が認められている。別に犯罪じゃない」
プラスさんと師匠さんは本当の親子みたいに長い長い話合いをしていた。
「えっとすみません。時間がないので元気になったのなら僕はもう……」
「ああ、すまない。自己紹介だけでもしておこう。私の名前はフルーン・クーロン。昔は緑色の勇者もしていた」
フルーンさんは胸に手を当て、軽く頭を下げた。
「初めまして。キース・ドラグニティと言います。よろしくお願いします。元気になったらまた聞きたいこともあるので、伺ってもいいですか?」
「もちろんだ。治してもらったお礼もしたいしな。回復は早い方だからまた近いうちに会おう」
「はい。わかりました。では、プラスさん。今日のところはこの辺で失礼します」
「う、うん。ありがとう、キース君。師匠を治してくれたお礼は絶対にするから!」
プラスさんは握り拳を作り元気な声を出した。しっかりと眠れたのか、昨日以上に目力が強い。
「にしても、今日は静かだな……。こんな日は二〇年ぶりだ……。というか、耳鳴りが聞こえないんだが?」
フルーンさんは両耳に手を当て、音を拾うように顔を動かすも、嫌な音が鳴らないことに気づき、瞳からほろりと透明なしずくがこぼれる。
「ああ……。静かだ……」
「はい……。静かです」
フルーンさんとプラスさんは抱き合い、共に静かなウィリディス領を味わっていた。
僕はフルーンさんの病室から出てそのまま家に戻る。
ミルと共にマンドラゴラを駆除して回る。
今日も一日中走り回り、マンドラゴラを駆除していった。
リーフさんが言っていた不作という言葉は全くの手違いで豊作にも程がある。だが、採取していたフルーンさんが倒れ、栽培数が著しく落ちたのが市場に出回らなくなった原因だろう。
一日に一地域を駆除して回り、五月に入った。
アルブの誕生日を迎え、一年経っても大きさが変わっていないことに気づく。多少は大きくなっているかもしれないけど。
五月五日、プラスさんが家に来てから七日が立ち、明日は休みの日となっている。
「シトラ、ミル、明日はプラスさんの家に行かない? 七日前にフルーンさんと言うプラスさんの師匠を助けたんだけど、退院して復帰したそうなんだ。お礼がしたいから来てほしいって言われていてさ」
僕は食事の席でシトラとミルに伝える。
「えぇ~。せっかくのお休みなのに……」
ミルは明らかに嫌そうな顔を見せてきた。
「まあ、勇者の家に行けるなんて珍しいから案外貴重な体験ね。私は別にいいけど」
シトラは案外乗り気だった。プラスさんとも仲が良いので嫌悪感が無いのだろう。
「キースさんとシトラさんが行くと言うのなら、ぼくも行きますけど……。時間が余ったらデートしてくださいね」
ミルは仕事で鬱憤が溜まっているので発散しないと爆発してしまう。爆発したら手が付けられないので潔く了承した。
僕達はお風呂に入り、疲れを流した。僕はシトラとミルをしっかりと寝かせた後、鍛錬と勉強を行い、自分を磨く。
五月六日。プラスさんとシトラは早朝から殴り合っていた。
「はあっ!」
シトラの力強い拳がプラスさんに向けられる。
「はあっ!」
プラスさんの拳もシトラに向く。数日前に比べて恐怖心が減り、立ち向かえるようになっていた。だが、まだまだ詰めが甘いのでシトラに攻撃を入れることは出来ていない。
「はぁ、はぁ、はぁ……。あ、ありがとうございました……」
プラスさんは疲れから草原に倒れ、息を荒げている。
「じゃあ、行きましょうか」
僕は私服に着替え、プラスさんの前に出る。
「え、印象が全然違うんだけど……」
プラスさんは上半身を持ち上げ、僕の全体像を見た。
「まあ、服装が全然違いますからね」
「私服のキースさんはやっぱりとてもカッコイイです~」
ミルは僕に抱き着き腰をくねらせていた。
いつもはここまでくっ付いてこないが、今日はベタベタに甘えてきた。我慢させてしまっているので、仕方がない。
彼女は長袖のニットとロングスカートを履いていた。シトラの方は厚すぎず、薄すぎないシャツと長ズボンを履き、軽い印象に見える。
プラスさんは体を起こし、僕たちと共に緑色の勇者邸に向かう。
プラスさんが住んでいる屋敷にフルーンさんも住んでいるらしい。どんな場所かと思い、やって来たら薬草の栽培所だった。
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