学園長
「凄いね、プラータちゃん……。私には無理だよ……」
少女はプラータちゃんを一人にして部屋を出ていく。
プラータちゃんは教室の掃除を終えてから飛び出して帰った。
「プラータちゃん……。君は何も恥ずかしがることなんてないのに」
僕が握り拳を作ると、ガラスや床にバキ、ビシっと亀裂が入る。
「き、キースさんが滅茶苦茶怒っちゃってます……」
「お、落ちついて。怒っても仕方がないわ。あの男に勉強を教えるつもりがないんだもの」
「自分達の領土の者には献身的な良い学園なのかもしれないけど、他の領土の者になるとここまで露骨に差別するのか」
「勉強はまだいいですけど、仕事のお金を払わないのは最悪です! とんだ詐欺ですよ!」
ミルは手を持ち上げ、怒りを露にする。
「そうよね。子供達にとって時間はとても大切な資源なのにこんな糞みたいな詐欺に使わされるなんて。働かせるだけ働かせておいて対価を払わないなんて奴隷と同じじゃない」
「学園の教育方針を変えさせるために必要なことはわかる?」
「とりあえず学園長の影響が大きいと思うから、直談判すればもしかしたら変わるかも」
「そうだね……。プラータちゃんがこれ以上悲しむ顏は見たくない。昔は送り届けることしかできなかったけど、今の僕なら彼女のために動くことができる」
僕は学園長がいると思われる場所を探す。学園の地図を学園内で見つけ、学園長室という場所に向かった。
「学園長、他の領土から来た子供の授業を行った残業代は……」
「出るわけがないだろう。お前は教師なんだからな。だが、ガキどもが働いた分の報酬はくれてやる。ありがたく思えよ」
「ありがたや、ありがたや」
学園長室の扉の奥から大人同士の会話が聞こえた。扉が開くと、先ほどプラータちゃんたちに授業紛いなことをしていた男が出てくる。
「ははっ、あんな楽な授業は無いよなぁ。楽して稼げて最高だ。さて、今日はどこに飲みに行こうかなぁー」
男は革袋を持ち、足取り軽く学園内を歩いていく。
「どこの領土にもゴミっているんですね」
「まあ、人間の本性なんてあんなもんよ」
ミルとシトラは目を細め、歩いていく男性を睨んでいた。
僕は学園長室の扉の前に立ち、ゆっくりと開ける。
「なんだね。もう、出す金はないぞ」
椅子に座り、葉巻を吸っている緑髪のおじさんがいた。
「こんばんわ。少しお話をよろしいですか?」
「ん……。白髪……。その年齢で白髪だと。珍しい者がいるんだな」
おじさんは葉巻を吸うのを止めず、白い煙を口から吐き出していた。
「あなたはこの学園の学園長で間違いないですか?」
「いかにも。私がこのウィリディス学園の学園長だ」
「そうですか。じゃあ、今すぐに他領の子供達の教育の方法を変えてください」
「なに? なぜ、白髪の男にそんなことを言われないといけないんだ。他領の子供達にしっかりと教育を施している」
「問題を出して答えられなかったら仕事の報酬を取るなんてあまりにもひどすぎる……」
「なーに、勉強前のちょっとした運動にすぎん。統計学的に立証された正しい勉強法だ」
学園長は長時間の労働を運動と言って聞かなかった。
「逆に無料で勉強を教えてもらえるだけ感謝してもらいたいくらいだ。こっちはただでさえ低い給料で働かされて大量の税金を払っているんだ。それにもかかわらず他領の子供達の教育を無料で行っているんだぞ。その体制にケチを付けようって言うのか」
学園長は立ち上がり、僕の前に立って白い煙を吐いた。
「……先ほどこの部屋から出た男性に渡した子供達のお金はどこから発生しているんですか。ウィリディス領の学園は領土の税金から多くの者が無料で教育を受けられる。教師は税金を貰って生活しているはずです。なら、子供達に配るお金はどこから来るんですか。本当は子供達にお金を渡すように上からの命令が出ているんじゃないんですか?」
「……ガキ、あんまり詮索するとどうなっても知らんぞ」
学園長は僕を睨みつけてくる。
「実力行使ならいくらでもしてください。でも、するなら勇者順位戦で優勝した橙色の勇者に勝てるくらいの人数をあつめないと無理だと思いますけどね」
僕は一歩前に出た瞬間、押さえていた無色の魔力を解放する。
部屋いっぱいに広がった無色の魔力は巨大な気圧を生み、耐えられなかった学園長は床に押しつぶされる。
「うぐぐぐぐぐぐぐぐっぐぐぐっ! な、なんだこれは……。あ、藍色魔法の加重か? いや、魔法は発動していないはずだ……。じゃ、じゃぁ、ただの魔力……」
「あんまり魔力を出しすぎると建物ごと壊れちゃいそうなのでこれでも押さえていますよ」
「ぐ、うぐぐ……。た、立てん……。ただの魔力に押しつぶされるなど、ありえん……」
「あまり手荒な真似はしたくないんです。でも……、国の宝である子供達の未来を作る勉強や時間、お金を奪っているあなた達がどうしても許せません。あなた達は何のために教師になったんですか? 子供に勉強を教えるためですよね? 子供の将来を良くするためですよね? そんな大人がなんで犯罪に手を染めているんですか……。物凄く不愉快です」
「は、白髪野郎……。お前はどこの領土から来た……」
学園長は苦し紛れに呟く。
「僕は王都から来ました」
「王都……。貴族だったが白髪だったから捨てられたってところか。まあいい……。ウィリディス領に住んでない奴は知らないかもしれないがな……、この領土はバカみたいに大量の借金を背負ってんだよ……。二〇年前にあったアルラウネ襲来時の復興のために他領から金を集めた影響でな」
「大量の借金……」
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