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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第二章 シトラの為に……

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圧倒的に休息が足りない


 八日目の夜。


「グググ……。ま、まだ持てないのか……。何で持ち上がらないんだ。数日前よりは確実に力が付いているはずなのに、どうしてこの斧は持ち上がらないんだよ!」


 僕の体の見掛けは大して変わっていない。だが、鍛えられている気はする。体力はもちろんついた。筋力も上がっているはずだ。

 それなのに大きな斧はビクともしない。もう、その場で固まっているとしか思えない。


「明日で残り六日。まだ丸太は切り終わっていないし、薪にもできてない。このままじゃ時間が足りない。こうなったら、寝る時間すら削るしかないぞ。時間さえあれば終わるんだ。人の限界を越えられれば……」


 僕が徹夜を考えていたら、頭上に岩が落ちてきたかと思うほどの衝撃が走る。


「痛っつ! あ、アイクさん。何するんですか!」


「キース、今、深夜も働こうと考えただろ。それはダメだ。お前の体が持たない」


「でも、時間がないんですよ。最近、成長している気が全然しないんです。残り六日しかないのに丸太はまだ五本残っています。薪にしなければいけない丸太の一部が残っているんですよ!」


 僕は裏庭の隅に山のように積まれた丸太の一部を指さした。


「それでも、深夜に動くのはダメだ。お前の体は常に限界を超えている。それなのに夜寝なかったらお前は死ぬ。過労死ってやつだな」


「し、死ぬんですか?」


 僕はアイクさんの発言で沸騰していた頭が一瞬で冷やされる。


「ああ、動き過ぎると死ぬ。限界を常に超えていても死ぬ。そうだな……。今のお前には休養が必要だ。明日は休め」


「はぁ! ちょ、あと六日しかないのに休んでいられませんよ!」


「いや、休んでもらう。明日は何の仕事もするな。仕事以外で一日を過ごせ」


「そ、そんなぁ……」


 僕はアイクさんに仕事をするなと言われてしまった。ただでさえ時間が無いのに休むなんて、訳がわからない。


 ――確かに最近は集中しきれていない時もあるけど、進んでいないよりはましだと思って作業を無理やり行ってきた。それなのに仕事をしちゃいけないだなんて…これで達成できなかったらどうするんだ。


「ほ、本当に大丈夫なんですか。もしこの一日を休んだせいで達成できなかったら……」


「このまま続けても俺が出した課題は達成できないと、お前も気付いているだろ」


「そ、それはそうですけど……。でも、まだ成長できるかもしれません。死に物狂いで仕事して限界を何度も超えていれば今以上の力を出せるかもしれない……」


「いや、それはないな。今のままだとお前は絶対に成長できない。休養が仕事量に対して圧倒的に足りないんだ」


「休養が足りてない? でもちゃんと寝てますよ……」


「ゼロ時に寝て午前三時五五分に起きるのがちゃんと寝ていると言えるのか?」


「え……。まぁ、少し短いですね」


「少しどころじゃない。どう考えても睡眠時間が全く足りていない」


「でも、アイクさんがその時間に起きろって……」


「はぁ……。俺がどんなにきつい仕事をやらせても、器用にこなせちまう奴らがいる」


「そんな人たちがいるんですか……」


「ああ、いる。そいつらは魔法を使ってズルしている可能性が高いんだが、仕事を見ていない俺は判断が出来ない」


「確かにアイクさんは僕につきっきりになれませんよね」


「そこでだ。十分な睡眠時間が取れないと魔法が使えなくなると言う人の特質を突く」


「え、人って寝ないと魔法が使えないんですか? まぁ、僕は元々使えませんけど」


「睡眠不足の時は魔力を練る操作が一気に難しくなるんだ。加えて判断力も鈍るし、体の力も出なくなる。俺はズルい奴を雇いたくなかったんでな」


 アイクさんは腕を組みながら堂々と話していた。


「睡眠を削らせるのは一番きつい諸行だ。ズルい奴ってのは、初めは仕事が出来ていたのに一週間過ぎたあたりから一気に何もできなくなっていくんだ」


「うぇ……。なんか、怖い……」


「最終的に朝起きる気力すらなくなる。そうなった場合そいつらは魔法を使っていたと判断していた。だが、お前は元から三原色の魔力を持っていない白髪だった」


 アイクさんは僕の頭に手を置き、白い髪をつまんでくる。


「課題を出すとき睡眠時間を削る必要はないと思ったが、万が一、キースに特別な力がある場合が考えられた。一週間を過ぎた今日まで見せてもらった」


「アイクさん、さすがに慎重すぎませんか……」


「ま、昔に苦い経験があるだけだ。どうやらお前は本当に何の力も持っていないらしい。だが、体質なのか回復力が異常だ」


 アイクさんは僕の体の特徴を理解しているようだった。本当に僕をちゃんと見ていてくれたんだ。

 家族にもまともに見てもらえなかったのに……。


「全力を常に超え続けていたにもかかわらず、四時間睡眠で精神は安定し、肉体の破壊もほぼ起こっていない。人間か? と疑ったが、好きな相手を叫びまくるくらい、性欲があるみたいだからな。確かに人間だろう、と俺は判断した」


「そ、そんなに大きな声で名前は叫んでいませんよ」


「いや、『シトラ! 絶対に助けてやるからな!』と心の声までだだ漏れだったぞ」


 僕はアイクさんに言われて顔がありえないくらい熱くなった。


「俺が出す課題に耐えるやつは珍しい。と言うかここまで残ったのは初めてだ。そこで、明後日から仕事の課題を変更する。内容はほぼ同じだかが睡眠時間を延ばして仕事を続けてもらう。今回は拒否するなよ」


「は、はい。わかりました。えっと、明日は普通に休めばいいんですよね?」


「そうだ。好きな様に過ごすといい。一日中寝ていてもいいし、街を散歩してもいい。してはいけないことは体を酷使することだ」


「わかりました」


「ただし、食事はしっかり取ってもらうぞ。時間は七時、一二時、一九時だ。その時間だけは起きて来いよ」


「了解です!」


「なら、さっさと風呂入って寝ろ! 今日の仕事はここまでだ!」


「は、はい!」


 僕はアイクさんに怒鳴られてお店に戻った。

 またもやミリアさんが酔いつぶれていたが、今回は無視してお風呂に直行する。

 体をしっかり温めて疲れを癒したあと、歯を磨いてトイレに行って部屋に戻った。


 現在の時刻は午後一一時三〇分。


 久々にゼロ時を切らずに眠れる。しかも明日は早く起きなくてもいい。


「黒卵さん……。久しぶりにしっかりと眠れそうですよ。お休みなさい……」


 僕は黒卵さんを抱きしめながら眠った。ほのかに温かく、胸に丁度収まる大きさなのが心地いい。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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