ウィリディス大聖堂
「い、今のキースさんは王子様系の超カッコいい姿なんですから、髭はいりませんよ。もっと年を取って渋くなったころなら、ものすごく似合うと思います。……大人っぽ過ぎるキースさんに可愛い子ネコちゃんなんて言われたら……」
ミルは鼻から血を流した。綺麗なワンピースに血があと少しで付くつくところだった。布でギリギリで止めたのでよかった。
「す、すみません。大人っぽ過ぎるキースさんを想像したら鼻血が出ちゃいました……」
「もう、想像なんてするからでしょ。でも、キースが年老いた時の想像なんて、私には出来ないけど……」
シトラは僕の顔を見ながら目を凝らす。
「ムムム……。キースが年を取ったら私達も年を取っちゃうじゃない。そう考えたら想像したくなくなっちゃった」
シトラは溜息をつき、まだ一六歳なのにもう、歳老いた姿を見てしまったかのような溜息をついていた。
「僕はシトラがいくつになっても愛し続けるよ。安心して」
僕はシトラの頬を撫でながら伝えた。実際、シトラがお婆ちゃんになったとしても僕は好いていられる自信がある。愛は冷めると言うが、僕はシトラを尊敬しているので冷めたとしても問題ない。まあ、冷める気もしないんだけど……。
「じゃあ、行こうか」
僕たちは家を出てウィリディス大聖堂に向かった。
そこに行きつくまでに沢山の露店が並ぶ通りを見て回る。朝食用にブルーベリージャムが乗った生地を焼き上げた品を買う。
温かい紅茶と共に朝の優雅なひと時を露店の賑わうテーブル席で楽しむ。
今日は快晴なので澄み渡る青空がとても心地よい。これだけ心地よいと心が浮足立つように軽くなる。ミルとシトラもそうなのか、紅茶の匂いを嗅ぎ、甘い料理を食べて賑やかな市場の雰囲気を全身で浴びていた。
「キースさん、ここ、いいところですね。皆さんが朝から頑張ろうと言う気力にあふれていてとても楽しいです。
「そうだね。天気がいいから皆のやる気が漲っているとわかるよ。それだけ今日が良い日だと言うことだ。旅行の日が晴れてくれると凄く幸せな気持ちになるね」
「ぼくはキースさんといるだけで毎日が幸せですけどね」
ミルは微笑み、甘いお菓子をパクリと食べる。
「上手いことを言うね」
「事実ですからね」
ミルは微笑み、空を眺めていた。
「ま、キースと一緒に生活しているだけで幸せなんだけどね」
シトラは僕に聞こえるようにぼそっと呟く。
「シトラも優しいね」
僕はミルの発言に乗って来たシトラに感謝の気持ちを伝え、今日は良い走り出しが切れた。
朝食後、ゆっくりと歩きながらまったりとした旅を楽しんだ。すぐ目的地に行かず、一歩ずつ足を止めるくらいの速度で市場を見回っていた。
そんなまったりしていたら昼頃になってもウィリディス大聖堂にたどり着けず、食べ歩きをしていた。このままウィリディス大聖堂にたどり着けなかったらどうしようかと思っていたがシトラとミルはこれはこれで楽しんでいた。
仕事を毎日毎日していたので、今日みたくまったり出来る日はあまり無い。仕事のことなど一切考えず、ただただ歩いてウィリディス大聖堂を目指すだけ。これも大切な時間だ。
昼食を露店で得たあと、ようやくウィリディス大聖堂が見えて来た。大聖堂の建物は大量の蔓が纏わりついており、とても幻想的だ。ただ、この蔓もアルラウネの仕業だと思うと痛々しい傷跡のようだ。
でも、建物が潰れる心配はなさそう。たとえ潰れても僕が浮かせれば問題ない。安心して中に入れる。
僕たちは周りの建物よりも何倍も年季が入っているウィリディス大聖堂の中に入り、長椅子に腰掛ける。周りにも多くの人々が座って何かを拝んでいた。
「じゃあ、少し長い間、僕たちも拝もうか。寝ていても良いけど周りの人に迷惑が掛からないようにね」
「わかりました」
ミルは頷き、僕の隣に座った。
「そうね。静かに拝む場所だものね」
シトラも僕の隣に座った。
僕たちはそれぞれ祈り合う。
僕はこれまで生かしてくれたことに感謝する。神様が助けてくれなかったら僕はフレイに焼き殺されていたかもしれない。そう思うと、今こうやって拝めていることがありがたいことなんだと思い直す。
神様に助けてもらったぶん、これからもしっかりとお返しするつもりだ。一日一善。これさえできれば神様も僕を生かしてよかったと思ってくれるかな。
祈っているのか眠っているのかわからない時間を過ごし、頭がすっきりした状態で目を開ける。シトラとミルは完全に眠っていた。涎を垂らしそうになるほどっ子地良さそうに眠っており、起こすのも悪いなと思ってそのまま拝み続けた。
シトラとミルが眠ってから三〇分ほど経った後、二名は目を覚ました。
「う、うぅん……。くぅう~っ」
ミルは両手を伸ばし、筋肉を解した。
「ふ、ふぅー」
シトラは口もとを拭い、腹式呼吸をして気分を整える。
「二人共、よく眠れた」
「キースさん、ぼくは眠ってなんていませんよ。ずっと祈っていたんです」
ミルは完全に寝ていたように見えたが、本当に眠っていなかったのだろうか。
「ま、ミルが寝ていても寝ていなくても僕はどっちでもいいよ。気分がすっきりしてくれたらそれだけで十分。疲れは取れた?」
「はいっ! ここまで歩いてきた疲れが綺麗さっぱり取れました!」
ミルは手を挙げて元気よく頷く。
「まったく、ずっと寝てたから疲れが取れたんでしょ」
シトラはミルの方を見てはにかみながら呟いた。
「な、なにを言っているんですか。まあ、確かに祈っていた記憶はないですけど……」
「やっぱり、ずっと寝てたんじゃない」
「そう言うシトラも寝てたでしょ」
「うぅ、はい……」
シトラは潔く認め、視線を下に向けた。
僕たちはウィリディス大聖堂の中でざっと一時間くらい祈っていた。まあ、祈っていた者一名、眠っていた者二名だ。でも、周りを見渡せば寝ているものも少なからずいる。それだけこの場所眠りやすいのだ。
僕は目をつむっているだけで眠気が冷めてしまったのでこれからも元気に活動できる。
感謝の気持ちとして大聖堂に置かれた募金箱に金貨を入れようとした。
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