緑色の勇者でも嫌がること
「引っこ抜いてブスリ。引っこ抜いてブスリ。引っこ抜いてブスリ」
僕はマンドラゴラを引っこ抜いて眉間にナイフを突き刺すと言う行為をざっと二〇回繰り返した。
「よし、今日はこれくらいにして帰ろうか」
「はい。もう、雨に濡れるのは嫌です」
ミルは体を震わし、水しぶきを放った。
薬草採取と魔物の討伐を終えた僕達はウィリディスギルドに向って走って移動した。
「キースさん。お疲れ様です」
ウィリディス領の受付嬢さんは僕の名前を覚えてくれていた。覚えようと意識してくれないと覚えられないはずなので、優しい人だとわかる。
「お疲れ様です。今日は雨だったので薬草採取と魔物の討伐を行ってきました」
僕は採取した薬草と討伐したマンドラゴラが入った袋を受付台に置く。
「拝見します」
女性は麻袋を手に取り、中身を見る。薬草の方はいつも通り五株ずつ。マンドラゴラが入った麻袋を手に取り、口を開いた時……。
「きゃっ、ま、マンドラゴラ!」
女性は椅子から離れ、尻から床に倒れてしまうほど驚き、両耳を塞ぐ。だが、特に何も起こらない。
「え……、な、鳴かない……。もう、死んでいるんですか? い、いや、生きてる」
受付嬢は恐る恐るマンドラゴラの葉を引き、全体を見た。手足が少し動いているが叫ばない。眉間を攻撃されて仮死状態になっているだけだ。
「か、完璧な処置……。緑色の髪以外の人が仮死状態のマンドラゴラを持ってくるなんて初めて見ました」
「スリープとかを使って眠らせてから引っこ抜くと言う方法が手引きで書かれていましたけど、その方法で採取する人はいないんですか?」
「マンドラゴラは魔法が効きにくい魔物なんです。失敗したら死ぬかもしれない魔物をわざわざ狩ったりしません。完璧に採取できるのは緑の勇者様くらいです。彼女はマンドラゴラの声にも耐性がありますし、必要になった時は採取をお願いしているんです。凄く嫌な顔をされますけど……」
「へぇ……、緑の勇者さんが嫌がるなんて相当嫌なんでしょうね。あの方は根っから優しい方ですから」
「はい、そうなんですよ。耐性があると言っても不快なのは変わらないそうです。体がぞわぞわする不快音だと言います。なので、キースさんに採取してもらえるとすごくありがたいです。ありがとうございます」
受付の女性は頭を下げ、笑顔で感謝してくれた。
「ギルドマスターを呼んできます」
受付嬢は立ち上がり、ギルドの奥に向かう。少ししてベルデさんが走って来た。
「はぁ、はぁ、はぁ……。て、天然物のマンドラゴラかどうか、しらべさせてもらいます!」
興奮しているベルデさんは僕が採取したマンドラゴラを手に取り、しっかりと鑑定していく。
「間違いなく天然物の草のマンドラゴラだ。それが二〇本……。す、すごいですね。魔法を使わず、どうやってこの数を」
ベルデさんは緑色の瞳を輝かせながら僕に訊いてきた。
「えっと……。秘密です」
「そうですか。私達にもできることなら教えてほしいんですけどね……。マンドラゴラの葉と根は多くの薬に使われているので必須の薬草なんですけど、効果が強い分、採取するのが難しくてですね……」
「受付嬢さんも言ってました。緑の勇者くらいしか真面に取ってこれないんですよね」
「はい。ですから、これだけ多くのマンドラゴラを持って来ていただいて大変感謝しております。マンドラゴラ一体で金貨一〇枚で買い取らせていただきますので、今回は金貨二〇〇枚の報酬となります」
僕はマンドラゴラと薬草の買い取り金額を受け取り、家に帰る。
家に帰ると、シトラは室内の窓に着いた結露を拭き取っていた。
「お帰りなさい。雨の中ご苦労様」
シトラは僕の前にやってきて優しい言葉を掛けてくる。
「ただいま。はい、今日の報酬」
僕は報酬の半分をミルに渡したあと残った中金貨一〇枚をシトラに渡した。
「今日はやけに重いわね。って、中金貨かいっ!」
シトラは僕の頭に金貨を投げて来た。僕は一瞬脳震盪を起こしかけたがすぐに治り、床に落ちたお金を拾う。
「僕のお金はシトラが管理して。ミルは自分で管理するらしいから、お金でがみがみ言い合わないようにね」
「はぁ……、もう、がみがみ言い合うような金額じゃないでしょ……。キースはお金を全然使わらないんだから」
「まあ、この土地代を稼ぐよ。八〇日、マンドラゴラを二〇本討伐すれば稼げる。辛い作業じゃないし、淡々としっかり稼ぐさ」
「もう……、頼もしいわね」
シトラは僕のお金をしっかりと握り締め、管理してくれた。
「ぼくのお金は領主になるキースさんのために領主邸の資金にします」
「まだ開墾もしていない土地だから、気が早すぎるよ……」
僕は苦笑いを浮かべながら濡れた服を脱ぎ、洗濯籠に入れた。
ミルとアルブ、僕はお風呂に入り、雨で冷えた体を暖める。
シトラは夕食を作ってくれた。お風呂から出ると、香辛料を沢山使った料理の良い匂いがしてくる。匂いからしてカレーだった。
「凄い。クサントス領じゃないのにカレーが食べられるなんて」
「市場を見ていたらカレーに使える香辛料が沢山売っていたから匂いと味を頼りに作ってみたの」
シトラはスープカレーを作っており、木製の皿に盛る。湯気が立ち昇ると香辛料の複雑に絡み合った良い匂いが広がる。疲れた体が料理を求めており、お腹が鳴った。
テーブルの上に料理が並び、両手を握り合わせて感謝の気持ちを神に伝える。祈りを終えた後、僕たちはカレーを美味しくいただいた。
シトラが作った料理はカレーの味その物でパンが進む。
「凄い、本場の味そっくりだよ。シトラの才能なんじゃない」
「鼻が良い者なら出来るわよ。褒めたってなにも出ないからね」
シトラは尻尾を振りながら喜んでいる。彼女の喜んでいる姿を見ることが出来るだけでいい一日だ。
「はぐはぐはぐはぐはぐはぐっ」
ミルはスープカレーを勢いよく口に掻きこむ。あまりにも美味しそうに食べるので僕が食べているパンも美味しく感じる。ミルが美味しそうに食べるだけで僕が食べる品も美味しくなるなんてお得だ。
シトラが作った料理を食べ終え、シトラはお風呂、僕たちは食べた食器の後片付けを行い、役割を分担する。
皿を洗い終わった後は食卓で勉強して少しでも頭をよくする。シトラがお風呂から出て来た後も勉強を続け、午後九時にベッドに入る。
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