地震の影響
「はぁ……。よかった。二人共、もう心配いらない」
「うう……、怖すぎて足が震えています」
ミルは長い地震に恐怖していた。
「建物の中にいたら危険ね。早く仕度して外に出ましょう」
シトラは裸体のまま立ち上がった。下着を身に着け、昨日着ていた服をもう一度着る。
「さ、ミルも出る準備をして」
僕は自分の身とミルの身を起こし、服を着る。
「は、はい」
ミルは下着をつけ、昨日と同じ服を着た。
「すやぁ……」
アルブは地震なんて全く感づいておらず、猫のように丸まって眠っていた。
僕はアルブを抱きあげ、部屋の中に忘れ物がないか確認した。
「よし、忘れ物はない」
「忘れ物はないですけど、忘れていたことはありました」
ミルは僕の頬を両手で持ち、口づけしてくる。
「おはようのキスを忘れていました」
ミルは満足したのか満面の笑みに変わる。
「地震のせいで日ごろの習慣を忘れちゃってたわ」
シトラも僕に軽くキスしてきた。
「おはよう」
シトラは頬を軽く赤らめる。
「うん、おはよう。二人共、今日も元気よく目覚めてくれてありがとう」
僕はミルとシトラに感謝の気持ちを伝え、お返しのキスをした。宿の外に出て辺りを見渡すと、壁に亀裂が入った建物が多くあり、もう少し強い揺れが起こっていたら完全に倒壊していたと思われる。
僕は見つけた罅割れに触れ、無傷で直しておく。ただ、外装が直っただけでは何の意味もない。地震に強い建物以外は大きなダメージを受けてしまったのか、家が傾いたり、石の塀が崩れていたりと軽い地震でも大きな被害が出ていた。
「あの大きさの地震でも案外壊れるんですね……。森に棲んでいた時は全然余裕でしたけど、街で地震が起こったら怖すぎます……」
ミルは身震いし、耳をグワングワン動かして警戒していた。
「自然の驚異だもの。怖いに決まってるわ」
シトラは耳と尻尾を立たせ警戒している。
「二人共、警戒しすぎて気疲れしないようにね。家に帰ったら飲み水の確保と食料、衣類なんかを倉庫に置いて準備しておこう。事前の準備があれば怖がる必要無いでしょ」
「そうですね。準備をしておけば何も怖くないです」
ミルは両手を握り、少し落ち着いた。
「じゃあ、乾パンと干し肉、ドライフルーツ、はちみつを保存食用に買って行きましょ」
シトラの提案で僕たちは保存食を買いに市場に向かった。長期保存できるため、一ヶ月分の量を買い、木箱を倉庫に運んだ。
「ふぅ。これで一安心だね。鼠や鼬が食べないように威圧しておこう」
僕は魔力を広げる。熊が背中を木に擦りつけ縄張りを作るように、僕も魔力を広げ、威圧しておく。そうすれば、鼠や鼬と言った動物達は寄り付かない。
僕たちの家は外傷がなかった。地盤や建物の構造が地震に強いのかもしれない。
「はぁ……。まだ住んでから日が浅いですけど、家にいると落ち着きます……」
ミルは椅子に座り、息を整えていた。
「猫族は狭いところが好きらしいし、安息地帯も作るでしょ。だからじゃない」
「確かに、そうかもしれませんね。ぼくたちは大抵ビビりなので、安心できる場所を求めちゃうんですよね。特に強者のもとにメスは寄りついちゃうわけですよ」
ミルは家に帰ってきて早々、僕の膝の上に乗ってくる。そのまま抱き着いてきた。
僕はミルを優しく抱きしめて背中と後頭部を撫でる。
「あぁ~ん、もう、安心感がお腹いっぱいですぅ~」
ミルは僕にぎゅうぎゅう抱き着いてきて尻尾をピンと持ち上げていた。
「明日から仕事を再開して、また八日後に旅行しよう」
「はいっ。また、旅行しましょう!」
ミルは大きく頷いた。
「そうね。また旅行しましょう」
シトラも頷き、今回の旅行は終わった。
旅行から帰って来た日、僕は回復草の種を準備していた畑に植えた。土をかぶせ、水をたっぷりとあげる。少しでも大きくなるように念じながら育てる。
「三カ月くらいで収穫時期になるのか。案外早いんだな」
回復草の育て方が種の裏に書いてあり、日当たりの良い場所で地面が乾燥しすぎないように注意し、他の雑草に栄養を奪われたり、害虫に食べられないようにする必要があるらしいので施設栽培を推奨していた。施設栽培できる道具がないので手作業で手間暇かける必要がありそうだ。
「まあ、良いか。楽しそうだし、頑張って育てよう。君たちも頑張って大きくなるんだよ」
僕は回復草に声を掛け、日当たりの悪い畑に移動する。そちらに解毒草の種を植え、水をたっぷりと与えた。ほぼ同じ注意書きがされており、日当たりの悪い場所で育てること以外回復草と同じだ。しっかりと育てられたら自分でポーションでも作ってみようかな。
僕は畑の作業を終え、家に戻る。シトラとミルはお菓子作りをしていた。どうも、非常食に買った品が食べたくなり、普通に食べる用にも買っていたらしい。
乾パンにはちみつが付けられたドライフルーツが乗っており、とても美味しそうだった。
僕は手洗いうがいをしてからコーヒーミルに珈琲豆を入れ、挽く。粉を濾紙を引いた抽出機に入れ、沸かしたお湯でしっかりと蒸らしながら珈琲を淹れる。
「あぁ……。ぼく、珈琲の苦い味は嫌いですけど、この香りは好きです」
ミルは鼻をスンスン鳴らし、心を穏やかにしていた。
「私も苦いのは苦手だけど香りだけなら紅茶にも負けてないわね。やっぱり挽き立ては違うわ」
シトラも鼻をスンスンと鳴らし、尻尾を振っている。
「なんで、キースさんは紅茶じゃなくて珈琲を飲むんですか?」
ミルは首を傾げながら訊いてくる。
「なんでと言われても……。僕にもわからないな。無性に飲みたくなると言うか、癖になると言うか……。甘い品に苦い珈琲が丁度良いなって気づいてさ」
「甘い品に甘い紅茶もいいですよ」
ミルは紅茶が入ったティーカップを見ながら言う。
「否定はしないよ。それぞれ好みがあるからさ」
僕はコーヒーカップの中に溜まった黒い液体の匂いを嗅ぎ、頭がすーっとする感覚を楽しむ。
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