できる男
「あ、味は物凄く美味しいですけど……。大きな器でほしいです……」
ミルは大食いなので、一口で終わってしまう。
「ミルちゃん、こういうのはお腹を一杯にするんじゃなくて舌や鼻、目で楽しむものなの。だから、五感でもっと楽しんでみて」
シトラはこういう穏やかな場所での食事が好きなので、微笑みながら料理を食べていた。
「うう……、ぼくはお腹がいっぱいになる方がいいです……」
「ミル、何でも経験だよ。シトラに言われた通りにやってごらん」
「キースさんがそう言うなら……」
ミルは小さく頷き、コース料理を楽しんでみることにしたようだ。
二品目が食べ終わったころ、コーンポタージュとパンが置かれた。今回はちゃんと一皿分あり、香りからして美味しそうだ。
「スゥ……ハァ……、良い匂いですぅ。お腹が空きすぎて何でも美味しそうに感じます」
「手間がかかっている料理ね。しっかりと味わっていただきましょうか」
シトラはおしとやかにスープを飲む。ものすごく美味しそうに食べるので、料理人の腕は本物のようだ。
スープとパンを食した後、海鮮料理が出て来た。魚の蒸し焼きで、身がほろほろと勝手に解れるくらい柔らかい。お腹に溜まるわけではないが、料理を食べているなと言う感覚がひしひしと得られて、いつもの食事と全く違った。
「魚、タコ、イカ、どれも美味しいです。触感も楽しい、これが海の匂いって言うんですかね。いつか、海にも行ってみたいです」
ミルは少し楽しくなってきたのか、料理をしっかりと味わっていた。
「そうね。少し独特な匂いがするし、これが海の匂いなのかもしれないわね。行ったことが無いからわからないけど」
シトラも食材を噛み締め、頭の中で想像するように目を瞑る。
「海はカエルラ領にあるから、ウィリディス領を観光し終えた後に行ってみる?」
「いいですね。カエルラ領はウィリディス領の一個下ですし、海を見に行きたいです!」
「そうね、海は一生のうちに一回は見に行きたいわね」
「じゃあ、決まりだね。ウィリディス領の後はカエルラ領に行こう」
僕もカエルラ領の海を想像しながら料理を食べた。その後、シャーベットが出て来た。どうやらお口直しの一品らしい。甘味はなく、ひんやりとした氷のようで口の中がさっぱりした。
「甘くないシャーベットを食べるなんて斬新ですね……」
「甘いシャーベットが食べたくなってくるわ……」
ミルとシトラは一口でシャーベットを食べきり、次の料理を待つ。料理が運ばれてくるとミルとシトラは耳と尻尾を大きく動かしていた。
「に、肉です。肉ですよ」
ミルは泣きそうになっており、今すぐ食べたそうにしている。
「ほ、本当に肉ね。やっと肉が食べられるのね」
シトラも肉が大好きなので、すぐにくらいつきそうなほど前のめりになっていた。
グラスに葡萄酒が注がれ、華々しくテーブルを飾る。
「じゃあ、乾杯」
僕たちはグラスを持ち、葡萄酒を飲む。すっきりとした味わいで、とても美味しかった。肉はナイフを刺しただけで簡単に切れ、歯が要らないほど柔らかい。
霜降りが多いのか牛肉の脂が口に広がる。でも、くどくない。
美味しい肉料理を堪能し、デザートが出された。甘味のある品で満腹感と胃腸の動きを助ける効果があるらしい。確かに、お腹がいっぱいと言う訳ではないが満足感はある。上品な味わいのバニラアイスで葡萄酒といただくとより一層楽しめた。デザートを得た後、珈琲が出て来た。小さめのカップでミルクや砂糖菓子が付いており、ミルとシトラも難なく飲めている。すべての料理が出終わった。
「ふぅ……、こういうのも悪くないですね……」
ミルは甘い珈琲を飲みながら呟く。
「そうね……。月に一回くらい来たいわ……」
シトラも大変喜んでくれた。
「じゃあ、会計してくるよ」
僕は会計をして来た。四人分で金貨三二枚。一人金貨八枚の料理だ。案外安い? いや、僕の金銭感覚が狂っている。普通に高い。シトラが山なんて買うから……。
僕は中金貨三枚と金貨二枚を支払い、お店を出た。
「キースさん、ごちそうさまです」
ミルは耳と尻尾を振り、感謝してきた。
「ま、デートの夕食にしては良い所だったんじゃないかしら」
シトラもツンとしながら耳と尻尾を動かし、喜んでいた。
「料理を食べたら眠くなってきました……」
アルブはおねんねの時間で、すやすやと眠る。
「じゃあ……」
僕が何か言いかけると、ミルとシトラはソワソワし始める。
「今日は観光とデートと言うことで、宿に泊まろうと思う。いいかな?」
「き、キースさんといられるのならどこでも……」
「ま、まあ、家に帰るのもちょっと億劫だし……」
ミルとシトラはぼそぼそ言いながら尻尾を振っている。僕もお酒が入っているため、体が熱くなっていた。アルブを肩に乗せ、シトラとミルの手を握る。どちらも手汗がぐっしょりで、血流が良いとわかる。
「じゃあ、行こうか」
「は、はい」
ミルは僕の手をぎゅっと握り、ついてきた。
「え、ええ」
シトラは力は入れないものの、軽く握ってついてくる。
ウィリディス領の高級宿にやって来た。温泉があるらしいので、選んだがミルとシトラは目を丸くしていた。来ると思っていた場所が違ったのかな。
拾い個室が用意されており、部屋に入ると落ち着きがあるお部屋で、とても静かだった。寝室と食事ができる居間、綺麗な夜景が見えるお風呂場があり、とても広い。
「き、キースさんってこんなに出来る男性だったんですか?」
「し、知らないわよ。こんな場所に来ると思ってなかったし……」
「二人を楽しませようと思って準備してたんだよ。大切な妻を楽しませるのも夫の役割でしょ」
僕はアルブを枕の上に置き、ブランケットを掛ける。
「ど、どうしましょう、シトラさん。ぼく、キースさんにメロメロです」
「そ、そう言うことははっきり言わない方が良いと思うわよ。わ、私もだけど」
僕たちは荷物を置き、脱衣所に入った。
僕はミルとシトラの服をそっと脱がせる。なぜ、僕が脱がす必要があるのかわからないが、二名が脱がせてほしいと言うので仕方がない。
お風呂の浴槽に三人で入り、体を温めた。窓ガラスから見える夜景がとても綺麗で、森の中でお風呂に入っているようだ。
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