フルコース料理
「注文は以上ですね。では、ごゆっくりお楽しみください」
店員さんは伝票をテーブルの上に置き、石を乗せて飛ばないようにした。そのまま、他のお客さんのもとに向かう。
「じゃあ、神様に祈ってからいただこうか」
僕たちは両手を握り合わせ、神に祈る。
「よし、食べよう」
僕はスプーンとフォークを皆に配る。始めにがっついたのはミルだった。
「んーっ! 肉汁があふれ出てきますぅ」
ミルはナイフでミートボールを切り、フォークで口に運んでいた。食べ始めると手が止まらず、次から次に手が伸びる。
ウィリディス領のお店なので、パンはおかわり自由、水は飲み放題。ミルはパンにミートボールを挟んでがっつき、泣きそうなほど微笑んでいた。
「ハム……。あぁ、チーズが蕩ける……」
シトラはナイフでミートボールを切り、チーズを溢れさせた後、フォークで刺して全体にチーズをからめてから口に運んだ。
「キースも食べる? 美味しいわよ」
シトラは僕の口もとにフォークを差し出す。
「ありがとう」
僕はチーズに絡められたミートボールを食し、心を躍らせた。さすが牛肉、舌に乗った時のうま味の出方が段違いだ。パンと食べて丁度良いぐらいに味付けが濃い。
僕は鶏がらスープに入っているチキンボールをスプーンで半分に割り、スープと一緒に掬って口に運んだ。鳥の優しい出汁が出ており、薄味だが僕にとっては丁度良い品だった。
「ハグハグハグハグハグハグハグハグ……」
アルブは顔をミートボールに突っ込み、口もとを汚しながら勢いよく食べる。合いの手にパンを挟み、速度を少し落とした。途中から僕が食べさせる形式をとり、咀嚼を増やしてお腹を膨らませる作戦に出ると効果てき面。一杯食べ終わるころにはアルブも満足そうな表情を浮かべていた。
「はぁー、食べましたぁ……。美味しすぎてもう一杯行けちゃいそうですけど、さすがに太っちゃうので今日はこれくらいにしておきます」
ミルは全て食べきっており、お腹を摩る。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったわ」
シトラも食べ終わっていた。僕も腹八分目にギリギリ届かないくらいくらいで食事を終える。
僕は会計を済ませ、お店の外に出た。
「ふぅー、ちょっと歩かないとすぐに太っちゃいます……」
ミルは足踏みしながら運動をする。昼食後に運動と言うことで、僕たちは自然公園にやって来た。遊具や遊び道具は無いが、自然が遊び場のようになっており、歩いたり、走ったり、木に登ったり、釣りを楽しんだりできる。観光客やウィリディス領の住民も多く利用している場所だ。
「ああ……、キースさんと散歩が出来るなんて平和ですね」
ミルは目を細め、悟っていた。
「そうね。こんな大自然の中で散歩が出来るなんて良い場所だわ……」
シトラは散歩が好きなので尻尾を振り、口角をあげながら歩いていた。
「すやすやぁ……」
アルブはお腹いっぱいになり眠くなったのか僕の腕の中で眠っていた。
僕たちは自然公園の中を歩いた。そのまま自然を一杯感じながら、心地よいひと時を過ごす。
公園を歩き終わるころ、午後三時になり喫茶店に足を運ぶ。
ミルとシトラはケーキと紅茶を、僕はケーキと珈琲を買った。テーブル席に座り、談笑しながらおやつを楽しむ。
おやつを食べた後はもう一度繁華街を歩き、見知らぬ発見がないか観察していく。
楽しい散策で、時間が過ぎるにつれて繁華街の景色が変わっていった。夜になると危険な領土が多い中、ウィリディス領は夜でも露店が出ており、お酒を提供している。何なら酔って歩いている方がいるくらいだ。加えて道端で寝転がり、泥酔してしまっている者もいる。
「あんなの財布を盗まれたら終わりですよ。何なら他の領土なら奴隷にされます」
ミルはお酒に酔っぱらい、地面で寝ているものを見て、若干引いていた。
「ほんとよね。あんな姿を見たら人攫いに合うのが普通だわ。でも、誰も見向きもしないし、逆に怖いわね」
シトラもミル同様に引いていた。
「安全すぎていいのか悪いのか、人の価値観が変わっちゃってるよ。こんな場所にフレイが来たらどう思うんだろう……」
「周りの同調圧力に負けて静かになりそうですね。まあ、お酒を飲ませるのは絶対に駄目ですね」
ミルは苦笑いを浮かべながら呟いた。
僕たちは夕食を得る飲食店に向かった。冊子にも乗っている有名なお店で新鮮な食材を使った料理がとても美味しいらしい。加えて男女で行くと多くの女性が喜ぶと言うお店だ。予約制なので、シトラとミルに知られないように事前に準備しておいた。
「キースさん、ここですか?」
ミルは高級な料理店の前に立ち、少々緊張していた。
「そうだよ。ドレスコードはないから気にしないで」
「な、無いと言っても多くの人が正装を身に纏ってますけど……」
「気にしない気にしない。周りは周り、僕たちは僕たちだよ。だから、楽しもう」
僕たちはお店の中に入った。予約していたことを伝えると、テーブル席に通される。
綺麗な椅子が四脚置かれた席があった。僕たちは椅子に座り、待つ。
フルコース料理が出されると言うので、待っていると僕たちの前に皿が置かれた。皿の上にスプーンが置かれていた。スプーンの先に質が良い肉が乗っており、料理なのかと思ったら、無料の一皿らしい。
「こ、これだけですか……」
ミルはスプーンを持ち、量の少なさに驚いていた。
「まあ、僕も驚いたけど、まだ残っているから安心して。でも、超大量の料理が運ばれてくるわけじゃないからその点は少し妥協してね」
「は、はい……」
僕たちはスプーンを手に取り、口に運ぶ。しっかりと火が通った肉で噛めば噛むほどうま味が出てくる。スプーン一杯と言わず、皿一杯に欲しいと思ってしまう。思っても出てこないので、スプーン一杯をじっくりと味わった。
その後に出てきたのは野菜と生ハムが使われた一皿だった。今回も量が少なく、見かけが凝っている。ここまで量が少ないのも味気ないが、見た目や食材の味をしっかりと楽しむと言うのがこのコース料理の考えらしい。
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