ミートボール
「そ、そりゃあ、可愛く見られた方が大切にしてくれると思うし……」
「そうですそうです。ぼくたちよりも可愛い子達が現れたらキースさんに捨てられちゃうかもしれないじゃないですか。そうなったら絶対後悔するし、努力しなかった自分を恨みたくなるので」
「そうなんだ。じゃあ、僕ももっとカッコよくならないと駄目だね。シトラとミルに捨てられないようにしないと」
「き、キースは今以上カッコよくなったら私達の心臓が持たないわよ」
「そうですそうです! 今以上にカッコよくなられたら、ぼくは萌え死んでしまいます」
「今の二人の気持ちは僕と同じだと思う。だから必要以上に頑張らないで」
僕はシトラとミルに努力を行い過ぎないでほしかった。努力しすぎると心の方が壊れてしまう可能性があるので、適度に頑張ってもらいたかったのだ。
僕たちは気持ちを理解しあい、人気が多かった場所から人気の少ない場所に移動する。
人気がないお店の内容は同じく薬屋だった。同じ薬屋なのになぜ人の出入りが全く違うのだろうか。そう思い、薬の内容を見てみる。
「マンドラゴラの根、回復草、解毒草……。ああ、なるほど、こっちは素材を売っているのか。素材の方が売りにくいんだな」
僕は素材を見ながらお店を回る。どうも品数が少なく、すぐに見終わってしまった。
「薬草の数が減ってるのか……。これじゃあ、お客さんが来ないのも納得だな」
人気がないお店を出て、繁華街を軽く歩く。繁華街と言うだけあって、人通りがとても多かった。ただ、多いが物凄く賑わっていると言う訳でもない。ウィリディス領で騒いじゃいけない雰囲気がそうさせているのかもしれない。ルフス領やクサントス領の繁華街の方が賑やかだった。
「シトラとミルは静かな繁華街をどう思う?」
「そうね……。私は嫌いじゃないわ。大人の雰囲気がする」
「ぼくはクサントス領の繁華街の方が好きですかね。祭りって感じがして楽しい方がいいです。まあ、おっとりしている方も嫌いじゃないですけどね」
シトラとミルの意見は真反対だった。
「じゃあ、キースはどうなの?」
シトラは僕に質問してきた。
「僕? そうだな……。僕はどっちも好き」
「ずるいですー」
ミルは頬を膨らまして僕にくっ付いてきた。
僕たちは繁華街の中で食べ歩きをしたり、服を見たり、買い物をしたりして楽しんだ。
「はぁー、夫のキースさんとデートしているだけでぼくは世界一幸せな妻です……」
ミルは僕に抱き着きながら微笑んでいた。
「そう言ってもらえて僕は世界一幸せな夫だよ」
僕はミルの顎下を撫でる。
「ごろにゃー」
ミルは心から嬉しそうな声をだした。
「はぁ……、人前でイチャイチャして恥ずかしくないのかしら」
シトラは僕たちの姿を一歩引いて見ていた。
「なんで? 僕は周りなんて気にしないよ。と言うか、気にしても仕方ないし。ミルはこうやって甘えてくれるから今、楽しんでくれているんだなってすごくわかりやすい。シトラは楽しんでくれてる?」
僕はシトラの手を握り、訊いてみた。
「……た、楽しくないように見える?」
シトラは尻尾を振り、視線を逸らす。やはりシトラもわかりやすい。
「キースさん、ぼく、少し疲れちゃいました。休憩していきませんか」
ミルは愛宿の看板を指さした。まだ、昼頃に加え、僕たちは別荘を持っているのにわざわざ宿を借りて可愛がる必要があるのだろうか。
「ミル、もう疲れたの?」
「い、いやぁー、キースさんの匂いを嗅いでいたら心が跳ねちゃって……」
「はぁ、これだから猫族は……」
シトラは溜息をついていた。
「仕方ないじゃないですか。猫族は子供がいないとずっと発情しちゃうんですよー」
「ミル、今日の夜まで我慢しようね。今日は旅行なんだから街を見て楽しまないと。夜は沢山可愛がってあげるから安心して」
僕は微笑みながら親指でミルの柔らかい唇を撫でる。
「は、はぃ……。がまんしましゅ……」
ミルは金色の瞳を潤わせ、白い肌を赤らめた。
僕たちは昼食を得るために、行列が出来ているお店に向かった。冊子にも乗っているお店で人気店のようだ。
「キースさん、ここは何の料理店なんですか?」
ミルは鼻をスンスンしながら訊いてくる。
「ここはミートボールのお店だよ」
「み、ミートボールですか……」
ミルは目を丸くし、尻尾と耳を大きく動かす。
「まったく、ミートボールと訊いただけで喜んじゃって、子供ね」
シトラは腕を組みながら言う。だが、彼女の尻尾もあり得ないくらいブンブン動いていた。
「二人共、肉が好きだからここのお店に行こうと思ってたんだよ」
並んでいる人が少しずつ進み、僕たちの番がやって来た。建物の中に入ると店員さんに招かれ、テーブル席に座る。
「あぁー、何にしようかな。どれもこれもおいしそうすぎて目移りしちゃいます!」
ミルはメニュー表を見ながら考えていた。
「どの品も美味しいからどれを選んでも失敗しないらしいよ。お金はあるし、食べたい品を選べばいいんじゃないかな?」
「じゃあ全部っていうのはどうですか!」
ミルは大変な大食いなので、全品を頼んだとしても食べきってしまうかもしれないが、他の人の迷惑になると思ったので、却下した。
「じゃあ、特大ミートボール大盛りにします……」
ミルは量が一番多い品にした。
「私は七種のチーズ入り特性ミートボール大盛りにするわ」
シトラは一番高い品を選んだ。
「僕は鳥のチキンボールにするよ」
僕は一番油が少ないチキンボールを選んだ。
「私はミルさんのと同じ品にします」
アルブは大きなミートボール選んだ。
僕たちは店員さんを呼び、それぞれの注文をする。
「かしこまりました。では、少々お待ちください」
店員さんは僕たちの頼んだ料理を紙に書き、厨房に向かう。一五分後、僕たちが頼んだ料理が運ばれてきた。
ミルの前に拳ほどのミートボールが山のように積まれた皿が置かれ、シトラの前に熱そうな石の板にじゅーっと鳴るほど焼かれているミートボールが八個ほど乗った品が置かれる。
僕の前に器が置かれた。鶏がらスープにチキンボールが入った料理だ。アルブの前にミルの前に出された料理と同じ品が置かれた。
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