人気のあるお店
「ここが、ウィリディス領の繫華街……。やっぱり、人が多いね。あと、商品が道路に堂々と置かれているよ。こんな風に置いてあったら簡単に盗めちゃうのに……」
繁華街の中は多くの商品が棚や籠に入れられ、卸売りのようになっていた。
野菜や衣類ならまだわかるが剣や防具、貴金属などの品までさらけ出して売られており、僕なら盗み放題だった。もちろん、盗みはしないが盗もうと思えば簡単に盗めるような陳列ばかり。なのに商売が成り立っていると思うとウィリディス領の安全性が身にしみてわかる。
「これだけお店があると目移りしちゃうな……。どこのお店に入るのが一番良いんだろう」
「迷っていても仕方ないですし、人が多い所に行ってみましょう!」
ミルは人気が多いお店に僕を引っ張る。
「いやいや、人気が少ないお店の方がゆっくりできるわよ!」
シトラは僕を人気がないとお見せに引っ張る。僕は一人しかいないので、違う意見を言われると困る。
「二人共、時間は一杯あるから、少しずつ回ろう。焦る必要は全くないよ」
「じゃあ、キースさんが行きたい方を決めてください」
「そうね。キースに決めてもらいましょう。その方が納得できるわ」
ミルとシトラは僕の方に圧力をかける。どちらのお店も捨てがたい。
「じゃあ、元気なうちに人気が多い方に行っておこうか。あとから人気なお店に入るのは体力がいる。なら、今、見ておいたほうが楽しめそう」
「よし!」
ミルは握り拳を作り、喜んだ。
「はぁ……。まあ、キースがそう言うのなら仕方ないわね」
シトラは少々うなだれ、ため息をつく。なぜか恐怖を感じる。こうなるから性格が違う二名と一緒に暮らすのは大変だ。
僕達がやって来たのは薬屋だった。
いろんな薬が売っており、風邪薬や便秘を解消するような薬まで売っている。
今、このお店がなぜこれだけ繁盛しているのかわからないが、多くの者が薬を求めていると言うことがわかった。ウィリディス領の薬は安く質が良いらしく、多くの領土で高く売れるとかなんとか……。つまり、この場で安く買って他の領土で高く売ろうとしている商売人たちが大勢いることになる。
冒険者に必須な回復薬はもちろんあっという間に無くなっていた。解毒薬や解麻痺薬も人気で僕達がお店に入ったころには無くなっていた。
「ここ……、獣族からすると薬草の匂いがきつすぎるんだけど……」
シトラは鼻をつまみ、鼻声になっている。
「もう少し我慢して。僕に効きそうな薬があれば買っておきたい。傷や毒はアルブの力でどうとでもなる。風邪も無菌で治せるし。僕が受けたらきつい状態異常は……。精神安定薬……、これか」
僕は心に攻撃を受けた時のことを考え、精神安定薬を手に取った。
「精神安定薬って……。珍しい薬を選んだわね。幻覚や催眠に効果がある薬でしょ。そんな薬いるの?」
シトラは僕に訊いてきた。
「どんな状況になるかわからないし、少しでも突破口になる可能性があるなら持っておいた方がいいでしょ。シトラは肌荒れ防止用のクリームとかがいいんじゃない? 化粧品も売ってるよ」
僕は余所見ばかりしているシトラによさげなクリームを見せる。
「え……、うわっ! ほんとだ!」
「シトラさん、気づくのが遅いですよ。良い品はぼくが片っ端から手に入れちゃいました」
ミルは籠の中に高そうな化粧品を沢山入れていた。
「ちょ、ミルちゃん、ずるいわよ!」
シトラはすぐさま棚の化粧品を漁る。
「よそ見しているシトラさんが悪いんですよー。これでぼくのほうが何倍も可愛くなってキースさんをメロメロにしちゃいます」
ミルは僕に視線を向け、右眼をぱちくりと動かした。ミルの顔の周りにはいつも花や星が舞っているような可愛さがある。
「沢山買うのは他のお客さんの迷惑だから、一個までにしておきなさい」
「う……、はい……」
ミルは僕の言いつけ通り、各種一品を残し、大量に取っていた化粧品を元の場所に戻す。
シトラはすぐに手に取り、木製の籠の中に入れた。
「はぁ……。よかった……」
シトラは安心した表情を浮かべる。
「二人共、化粧をあまりしない方だよね。買うならちゃんとしないともったいないからね」
「う……。シトラさん、どうしましょう。ぼく、汗でグチャグチャになるので化粧しない派でした。でも、良い化粧品なら問題ないですかね?」
「私も面倒くさくて化粧しない派だった。でも、キースに可愛く見られたいし……」
ミルとシトラは互いにじっくりと考えていた。その結果、粉類や口紅は買わず、化粧水と乳液、リップクリームだけを買っていた。
両者共に肌は綺麗なのでやる必要があるかどうかはわからなかったが、店員さん曰く、加齢と共に肌艶が衰えていくらしいので早めの対処が必要だと言う。その話を聞いたシトラとミルは迷わずに購入していた。
シトラとミルは途中から僕そっちのけで店員さん達と話し合い、口車に乗せられて高い品を買わされそうになっている。
「シトラ、ミル、お金を持っているからって何も考えずうのみにするのはよくないよ」
「で、でも、高い品の方が質が良いらしいし……」
「そ、そうです、ぼく達の肌は繊細ですから……」
シトラとミルは綺麗になれるや、可愛くなれるといった言葉に強く反応していた。
「言っておくけど、シトラとミルは物凄く可愛いからね。化粧品を使わなくても驚くくらい綺麗だから。今以上可愛くなられたら困るし、今日のところは遠慮しておこうよ」
「う……、キースがそう言うなら……」
「そ、そうですね。キースさんが困るのも可愛そうですし、今日のところは普通の品だけでにしておきましょう」
両者は踏みとどまり、高い品は買わずに済んだ。今回買った化粧品を使って効果を実感してから高い品を買ってもらうことにしよう。
「危なかったです……。まんまと金貨一〇〇枚の化粧品を買わされるところでした……」
「ほ、ほんとね。場の空気に飲まれて買っちゃうところだったわ……」
両者はお店から出て息をほっとついていた。
「二人共、そんなに可愛くなってどうしたいの? 僕をもっとメロメロにして何か意味があるの?」
僕はシトラとミルに訊いてみる。
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