徹夜した朝
「お帰りなさい」
シトラは下着だけの状態で部屋の中で瞑想をしていた。
「ただいま。良い家は見つかった?」
「いい家が多すぎて迷っているところ。良い領土だと聞いていたけれど、家を色々内見してやっぱりいい領土だと思ったわね。立地や日当たり、ご近所さん達、どこの家でも安定していい家だったわ。値段も相応だし、購入者泣かせね」
シトラは微笑みを浮かべる。
「へぇー。まあ、じっくり選べばいいよ。時間はあるし、僕はシトラが決めた物件なら文句は言わないからさ」
「ぼくもです!」
ミルは手をあげ、元気よく言う。
「わかったわ。でも、一応参考までにこれだけは譲れないって言うことを聞いてもいい?」
「うーん……。鍛錬が出来る庭が欲しい」
「大きなベッドが置ける寝室は絶対に欲しいです!」
「了解。庭と広い寝室ね」
シトラはメモを軽く取り、物件選びの参考にする。
「じゃあ、シトラは着替えて」
「言われなくても着替えるわよ」
シトラはメイド服に着替えた。
僕はフルーファを壁に立てかけ、護身用のアダマスだけを腰に掛けておく。シトラとミル、アルブと共に宿の食堂で夕食を取った。部屋に戻り、皆でお風呂に入って今日あったことを談笑し、仲を深め合う。お風呂から上がり、寝る準備を済ませたらベッドに移動。
「ふわぁー。仕事をして鍛錬まで行ったら普通に眠たいです……」
ミルはいつも夜になると襲ってきていたが、午前中に沢山運動したことによって性欲より眠気が勝っていた。まあ、リーフさんの発情止めが効いているのかもしれない。
「そうね。したいと言う気持ちもあるけど、我慢できないわけじゃないわ」
シトラも呼吸が安定しており、眠たそうだった。アルブはすでに眠っており、転がっている。
「キースさん、お休みなさい……」
ミルは僕にお休みのキスをして頭を枕に埋める。
「キース、お休み……」
シトラも僕にキスをして微笑みながら頭を枕に当てた。
「うん、お休みなさい。いい夢を」
僕はミルとシトラにお返しのキスをして頭を撫でる。
「えへへ……」
ミルは耳をパタパタと動かし、笑った。
「ふん……」
シトラは鼻息を吐き、耳と尻尾を大きく動かす。
僕は二名が眠ったのを確認したら、ベッドから降りて一人で勉強する。
『無休』を使い、睡眠が要らない状態を保った。『無休』のおかげで頭はさえており、辛いと一切思わない。
シトラとミルが勉強で躓いた時、僕が教えてあげられた方が効率がいいと思ったのだ。夜の時間を使える僕が出来ることなので、やる気が漲ってくる。
「強さだけじゃ駄目だ。頭の賢さもこれから必要になってくる。学者まではいかなくともイリスちゃんを迎え入れられるくらいの頭脳を持っておいて損はない」
スージア兄さんから貰った学園の教科書や問題集を解き、知識を確実に脳に入れ込んだ。三日間眠らないと効率が著しく落ちるが三日までなら普通に過ごせるので使わない手はない。
シトラとミルの鬱憤と上手く被せ睡眠をとれるようにすれば勉強の効率も上がるはずだ。
午後一〇時頃から勉強を始め、気づいた時には午前七時。カーテンを開けると日がすでに上っている。清々し朝だ。
「ふぐぐー。はぁー。良い朝」
僕がカーテンを開けると、日がミルやシトラの顔に当たる。
「う、ううん……。ふわぁー。キースさん、おはようございます……」
ミルは上半身を起こし、ずれているブラジャーの肩紐を手繰り寄せる。
「おはよう。よく眠れた?」
「はい。夢の中でキースさんに沢山なでなでしてもらいました……。きっと正夢に違いありません……」
ミルはベッドを下りて僕の体に抱き着いてくる。
「都合がいい夢だね」
僕はミルの頭を優しく撫でる。
「えへへー。あとあと、チュッてしてくれましたー」
「おやおや、もしかして、本当に正夢になるんじゃないかな?」
僕はミルの顎に人差し指の側面を当て、少し上を向かせる。そのまま、おはようのキスをした。
「あぁー。正夢になっちゃいました」
ミルははにかみ、尻尾を振った。そのまま自分のトランクから冒険者着を取り出し、身に着ける。
「ふぐぐぐー。はぁー」
シトラは目を覚まし、ベッドから降りる。一度ぐぐーっと伸びをしてから僕のもとに来た。
「シトラ、おはよう。今日も一段と綺麗だね」
僕はシトラに微笑みかけた。
「……バカ。徹夜したでしょ」
シトラは僕が徹夜したと一発で当てた。
「はは……。気づかれた。なんでわかったの?」
「キースの髪に寝癖が一つも付いてないなんてありえないもの。お風呂入った後から乾いたって感じがするわ。どうせ、ずっと勉強してたんでしょ。まあ、察するに私達が勉強で躓いた時の保険って感じかしら。嬉しいけど、自分の体は大切にしなきゃだめよ」
シトラは全てお見通しだった。
「うう……。やっぱり、シトラには敵わないな」
「当たり前でしょ。どれだけキースを見て来たと思ってるの。だてに一〇年以上の付き合いじゃないわ」
シトラは腕を組み、自慢げに話す。
僕は少々悔しかったので、シトラの両肩を掴んだ。
「な、なによ……」
シトラは強引に捕まれ、少々びくりとしていた。
「シトラ、目をつむって」
「う、うん……」
シトラは律儀に目を瞑った。そこから三分ほど何もしない。
「ね、ねえ、なにしてるの。いつ目を開けたらいいの」
「ふふっ、律儀に聞いてくれるシトラはやっぱり可愛いね」
「な……。ふ、ふざけないで!」
シトラは目を開け、両手を振る。
「ふざけてないよ」
僕はシトラの唇を少々強引に奪った。彼女をぎゅっと抱きしめて朝にしては少し強引すぎる挨拶だ。
「あ、朝っぱらから盛りすぎでしょ……。ふ、ふざけてるの……」
「シトラに全部言い当てられて悔しかったから、つい……」
「もう……。なに張り合ってるのよ。全く」
シトラは尻尾を大きく揺らし、許してくれた。
「むぅうー。シトラさんとキースさんだけ、朝っぱらからずるいですー」
ミルは頬を大きく膨らまし、ブツブツ言っていた。
「はは……、僕とミルの方が一緒にいる時間が長いでしょ。これくらいお相子じゃない?」
「確かに……」
ミルは納得し、許してくれた。
僕達は服を着替え、道具をそろえてから朝食に向かう。食堂でお腹一杯になるまで料理を食べたら、僕とミルはウィリディスギルドにシトラは不動産会社に向かった。
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