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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第二章 シトラの為に……

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第二関門

「こんなに雨が降っていても、僕が止まると思うなよ……。例え、シトラのおっぱいが揉めなくなってもいい。絶対にやり切ってアイクさんのお店で働かせてもらう」


 お金を稼げるようになってシトラを取り返しに行くんだ。あの領主は常識人。なら、話せば何とかなるかもしれない。今の僕に必要なのは生活するためのお金だ。

 何とかしてシトラを助けたとしても、仕事できなかったら餓死する未来しか見えない。僕もシトラも仕事をさせてもらえる場所なんてこの国に無い。なら、お金を稼がせてもらえる場所にしがみ付くしかない。


 僕は血みどろの両掌で真っ赤に染まっているのこぎりの持ち手を再度ぎゅっと握る。


「痛いけど……。死ぬよりはましだ。シトラと暮らせなくなるよりかは何万倍も全然ましだ。シトラと暮らせるなら両腕を毎日焼かれてもいい。それくらいの気持ちをこんな丸太ごときで奪えると思うなよ!」


 僕は掌から血を流しながら丸太を切り続けた。

 昨日よりも環境は悪いが、技術は上がった。

 一〇分で一個だったのが八分で一個に変わり、さらに時短して六分で一個切れるようになっていた。

 たった一日でここまで成長できるとは思っておらず、自分でも驚いている。

 ただ、全力も全力。

 午前中でほぼすべての体力を使い果たし、気絶寸前にまで追い込まれていた。


「はぁはぁはぁ……。まだまだぁ……やっと一本切り終わっただけだ。あと一三本……。切り分けて、重い斧を使って薪にしないといけないんだ……」


 僕の意識は朦朧とし、頭を動かしただけでもめまいがする。呼吸が浅いのかもしれない。

 朝、たくさんの料理を食べたのにお腹がすいているような気がした。でも、丸太を早く切り終わりたい。


「鐘が鳴った……。お昼か。料理を食べている時間なんてない。はやく切って、おかないと間に合わないぞ……」


 僕は鐘が鳴っても、昼食を食べに向わず、丸太を切っていた。

 だが、一個目を切り終えた瞬間に僕は大きなめまいがして丸太に倒れそうになる。


「おっと……。おい、昼になったのになぜ食べに来なかった?」


 様子を見に来たアイクさんが倒れそうになった僕を受け止めてくれた。


「すみません、アイクさん。このままだと、間に合わないと思って……」


「焦りは禁物だ。それに食事は何よりも優先して行う鍛錬の一つだぞ。それを蔑ろにしたら、お前は絶対に成し遂げられない。食事を抜いた人間がどうなるか知っているか?」


「お、お腹がすきます……」


「その先はどうなる?」


「お、お腹がすき過ぎて、死にます」


「そうだ。死ぬ。食べなかっただけで死ぬんだ。お前はその大切な食事を蔑ろにしようとした。お前は自ら死を選ぶのか?」


「いえ……」


「なら、今すぐ昼食を食べに来い。食べてから続きをしろ」


「わ、わかりました」


 僕は雨が土砂降りの中、アイクさんに支えられながらお店に戻る。


 ――まさか、一人で歩けなくなるまで疲弊していたのか……。早く食事を取って活力を得ねば、本当に死ぬな……。


 僕は昨日とほぼ同じ食事を苦しみながら完食した。

 ただ、食事してからやけに体が軽い。なぜかやる気まで湧いてきた。

 空腹が満たされるだけで不安な気持ちが飛んだ気がする。


「ごちそうさまでした」


「お前……。その手でのこぎりをよく持つ気になるな」


 アイクさんは目を細めながら、僕の血まみれの手を見てくる。


「え……。まぁ、確かに痛いですけど、包帯を手に巻いてのこぎりの取っ手を持つと滑るんですよ」


「なら、のこぎりの取っ手にも、包帯を巻きつければいいんじゃないか。包帯で包帯を持てば、雨の中でも滑りにくくなるはずだ」


「あぁ、なるほど。確かにそれならうまくいくかも知れません。試してきます!」


 僕は新しい包帯をアイクさんから貰い、裏庭に走る。

 お腹は重いが足は軽かった。

 裏庭に着き、包帯を掌とのこぎりの取っ手に巻き着ける。


「これでよし」


 僕は包帯が巻かれた両手で、包帯が巻かれたのこぎりの取っ手を掴む。

 まだ少し痛いが直接持つよりは痛くない。

 あとは滑らずにのこぎりが動くかを確かめなくてはならないので、少し動かしてみた。

 すると、先ほどよりも格段に動きやすくなっていた。

 加えて掌の痛みも最小限になっている。


「アイクさん、僕に助言してくれたんだ。これなら、雨の中でも丸太を切っていける。シトラ、待ってろ。絶対に僕が助けてやるからな。その第二関門が丸太だなんて……。思ってもなかったよ」


 第一関門はもちろん赤色の勇者だが、第二関門も勇者並みに突破するのが難しそうだ。

 この先にもまだ、数多くの関門が待ち構えているかもしれない。


 ――でも僕はくじけないぞ。シトラを取り戻すまでは絶対に諦めない。どれだけ踏みにじられようとも、シトラだけは取り返してみせる。僕の人生はシトラがいないと前に進まないんだ。


「おらああああああ!」


 僕は丸太を四時間きり続けた。一時間に一二個、四時間で四八個。一本の丸太の半分当たりまで切っていた。

 あと四時間あれば一本切り終わる速度だ。

 昨日と比べると進み具合がまるで違う。

 コツを掴むとここまで変わるのかと実感する。ただ、油断はできない。


 今、僕は丸太を切っているだけだ。

 最終的には丸太の一部を薪にしなければならない。

 でも、一日で一本切り分けるのが精一杯。

 丸太を切って、木を割らなければ仕事は達成されたとは言えない。こうなると目標が自ずと見えてきた。


 朝、僕はビラ配りで一時間程遅れて丸太を切り始めている。

 夕方もそうだ。

 ビラ配りで一時間以上遅れているから丸太を切る時間が減っている。この時間を、丸太を切る時間に当てないと絶対に一日で丸太を切り終えて、薪にする工程まで移れない。


 つまり、ビラ配りを三時間より早く終わらせてすぐに丸太を切る作業に取り掛かる。そのまま昼過ぎに丸太を一本切り終えて、薪割りを少し行う。

 続けてビラ配りを早く終わらせて薪割りを再開。

 その工程を夜の一一時に終わらせる。


「はは……。全くできる気がしない。でもやらなきゃいけないんなら、やるまでだ。体力をつけて筋力も付ける。この二週間やり切ったら僕は全然違う人間になっているかも……」


 僕はやり切って変わった自分の姿を想像していた。

 筋肉がたくさんついてムキムキになってたりして……。それでシトラに惚れられて、むふふな状況に……。


「って、うつつを抜かしている場合じゃない。早くビラ配りに行かないと。


 僕はビラを取りにアイクさんのお店に戻る。

 ビラを受け取ったあと、街中を全速力で走ってビラを配った。

 全てのビラを配り終えるまでに四時間かかった。やはり配っている途中でどうしても止まってしまう。

 これで丸太を切る時間がまた一時間減ってしまった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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