ウィリディス領の観光地
「えっと、お茶しか頼んでないんですけど……」
「お茶に付いてくる茶菓子ですからお気になさらず」
店員さんは愛らしい笑顔を浮かべる。
「き、気前がいい……」
僕達は新茶とずんだ餅を食す。
「お、美味しい……」
お茶の苦味とずんだの甘味が絶妙だ。
「ほんと、苦すぎず甘すぎない組み合わせで、いくらでも食べられちゃうわ」
「ぼく、もう、この領土好きかもしれないですー」
「ハムハム、ハムハム」
アルブは一心不乱にずんだ餅を食す。
僕達は朝食で丁度良い具合の満足感を得た。野菜たっぷりシチューが銀貨一枚と銅貨五枚、四人前頼んだので銀貨六枚、お茶が一杯銀貨一枚なので四枚。計、金貨一枚のお支払だ。
「朝食に金貨一枚ってなかなか高いですね……」
ミルは避妊具に躊躇なくお金を出す癖に、こういう場面でお金を出すのを渋る。まあ、僕が払うからいいのだけれど、貧乏性も大変だ。
「じゃあ、腹ごしらえも済んだし、観光して回ろうか」
「はーい」
ミルとシトラは手を大きく上げ、微笑んだ。アルブは僕の肩に乗り、日向ぼっこをしながら眠る。
「じゃあ、予定通り、お城から見に行こうか」
「はいっ! お城を見に行きたいです」
ミルは手を上げて大きな声をあげる。
ウィリディス領の駅は街のほぼ中央付近に位置している。そのため、どこに向ってもほぼ同じ距離になる。僕たちが向かうお城は他国からの攻撃を見張るために作られた城塞で、現在ではほぼ使われておらず、昔の遺産として観光客に人気がある場所だ。
場所は北西方向にあり、外は無法地帯と言うか国の外だ。魔物がおり、冒険者達が働いている。
僕達は馬車に乗って北西側に移動する。二時間ほど馬車に揺られると城壁が見えて来た。
「おおー! な、なんて言うか古い感じですね」
ミルはウィリディス領にある城塞を見て驚きと疑問を得ていた。
「確かに歴史をすごく感じるお城ですけど、なんでこのお城が人気な観光地なんですか?」
「まあ、いってみればわかると思うよ」
僕達は北西側の宿を借り、観光を再開する。
城塞の近くまでより、中に入る。今は使用されていないので無料で観光出来る。
「おおー、すごい! 城壁の外が見えますよ!」
ミルは城塞の天井に立ち、金色の瞳を輝かせていた。高い城壁から見える外の景色がとても綺麗で息を飲んだ。ウィリディス領も綺麗だし、領外も広い花畑になっており、吹いてくる風が甘く爽やかだった。
「うわぁ……、こりゃ、観光地になるわ……」
表情が硬いシトラも頬が緩み、口角が上がっていた。尻尾が大きく振られ、心揺さぶられているのがわかる。
「本当に綺麗な場所だね。でも、あの花畑の奥から魔物や敵軍が攻めてきていた時代があると考えると凄く平和な時代になったね」
「そうですね。でも、今でも戦いが続いている国がありますし、何も油断できませんよ」
ミルは僕の方を向き、抱き着いてくる。怖い想像でもしたのかな。
「キースさん、もう、昔みたいに一人で突っ走らないでくださいね」
「わかってるよ。二人を置いて突っ走って行かない。一緒に引っ張っていくから」
「キースに引っ張られたら肩が抜けるから、抱きかかえて」
シトラは僕の手を握りながら腕を組んできた。
「わかった。じゃあ、僕は二人を抱きかかえながら移動するよ」
僕はシトラとミルをぎゅっと抱きしめながら伝える。
「そう言う意味じゃなくて……。まあいいか」
シトラは僕の体に抱き着き、城塞からの景色を堪能した。
「よし、下の階に行ってみようか。昔使われていた牢屋も残っているんだよ」
「牢屋ですか。そんなところまで入れるなんてすごいです」
「お金を払えば囚人や騎士の気持ちにもなれるそうだよ。せっかくだから体験して行こう」
「はいっ!」
ミルは大きな声を出す。僕達は階段を使って下の階に降りていく。
どんどん下に降りると、周りの石壁が迫ってくるような圧迫感を得る。もっとも下の階に行き、管理人に銀貨三枚を渡し、鉄格子の奥に入る。
すると、いくつもの鉄格子が並べられた牢屋ばかりの景色が広がる。本物の鎖や重りなどがそのままになっており、本当に囚人をこの場に入れていたのだと思うとぞっとする。
「キースさん、見てください! 囚人服が着られるそうですよ。こっちは騎士の恰好が出来るみたいです。思い出作りにしませんか?」
ミルは面白そうな提案をしてきた。
「シトラはどっちがいい?」
「キースと逆がいいかな」
「じゃあ、僕は騎士をするからシトラは囚人。ミルは?」
「囚人の方をやってみたいです」
「じゃあ、着替えようか」
僕は追加料金を支払い、昔の鎧と囚人服を借りた。
シトラとミルは試着室で服を着替え、僕は体の上から鎧を付ける。騎士になった覚えが無かったので気分が上がった。昔の騎士が使っていた本物の鎧で、わくわくが止まらない。
シトラとミルが囚人服に着替え終わり、僕の前に現れる。横に白黒線が入った長袖長ズボンを着ていた。両者共に美女なので囚人服も似合ってしまう。
「言っていいのかわからないけど、二人共似合ってるね。凄く可愛らしいよ」
「キースさんも騎士の姿がカッコよすぎますっ。あぁー、ぼく、騎士と囚人の関係から始まる禁断の恋って言う場面をやりたかったんですよ! 早速やりましょう!」
ミルは物凄く興奮していた。そこまで興奮する要素があるのかと思ったが、彼女はやる気満々だ。
「私は騎士を手玉に取る囚人って言うのをやってみたいわ」
シトラは僕の顔を見ながら微笑む。冷徹な表情なのに、僕をいじめようとするときだけいい笑顔をするんだから……。
僕はミルとシトラの寸劇にあわさなければならなかった。
まずはミルから。ミルを牢屋に入れ、鉄首輪や手首、足首に金具を付ける。
「これでよし。じゃあ、すぐに戻ってくるから」
僕はいったん牢屋から出る。
僕はミルがいる牢屋の前を通りかかった。
「く……、さっさと放せ。ぼくは悪いことなんかしていない!」
ミルは大きな声を出しながら顔を歪ませる。
「威勢がいいやつがいるじゃないか……」
僕は役になりきりミルがいる牢屋に入る。
「獣族。僕のもとに来い。面白いものを見せてやる」
僕はミルの頬を顎下から片手で掴む。
「誰が騎士なんかについていくかぼくはお前達に……!」
僕は打ち合わせ通りにミルの言葉を遮るように口づけをした。
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