列車の中で
「ありがとう、イリスちゃん。また会いに行くから、それまで待っていて。僕のお姫様」
「っ!」
イリスちゃんは僕の臭い言葉に頬を赤らめさせ、瞳を潤わせた。
僕はイリスちゃんの顎に指を当て、行ってきます替わりの口づけをした。
『無視』で周りからの視線を遮り、僕とイリスちゃんの姿を隠す。だが、照明によって生まれた影が地面にはっきりと映っており、僕とイリスちゃんの影が一分以上くっ付いていた。名残惜しいようにゆっくりと離れる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。キース男爵様……、私はいつまでもお待ちしております」
イリスちゃんはお姫様のような口調で呟いた後、微笑んだ。
「うん、必ず迎えに行く。あ、そうだ。イリスちゃんに渡したいものがある」
僕はトランクを開け、高さが低い箱を開ける。多くのダイアモンドを使って作られたネックレスを手に取った。金具を外し、イリスちゃんの首に回して金具を付ける。フード付きのローブで全体像がよく見えないが、とても綺麗だった。
「イリスちゃん、すごく綺麗だよ。よく似合ってる」
「う、うぅぅ……」
イリスちゃんは口もとを押さえ、ボロボロ泣いていた。まさか、そこまで泣かれると思っていなかったので僕は焦った。
「キース君、ずるいよ……。こんなん、かんぜんに落ちちゃうよ……。もう、キース君のことしか考えられなくなっちゃうよ……」
「イリスちゃんは僕の許嫁なんだから考えても良いでしょ。逆に僕以外の男に好意を持たれたら悔しい……。って、もう行かないと」
僕はトランクを閉め、持ち上げる。
「ああ、キース君。ま、待って……、私も連れて行っ……」
イリスちゃんはグッと飲み込み、頭を振るう。
「キース君! 大好きっ! 私、もっともっと修行して立派な花嫁になるからっ!」
イリスちゃんは両手を振り、元気に叫んだ。
「僕も、イリスちゃんが大好きだ。もっともっと修行して、イリスちゃんを守れる立派な男になってくる!」
僕はイリスちゃんの言葉に返答し、シトラとミルの二名と一緒にウィリディス領行きの列車の八号車に乗る。一番高い切符を買っており、個室だ。
「はぁー、何とか間に合った」
僕は八号車の中にある椅子に腰かける。
「キースさん、イリスちゃんとなっがーいキスしてましたね」
ミルは頬を膨らませていた。
「あのキラキラの首飾りもあげちゃってさー」
シトラも頬を膨らませていた。
「私にくれるんじゃなかったんですかー」
アルブは翼を動かし、ご立腹だ。
「えっと……。なんて言えばいいんだろう。イリスちゃんが可愛かったから……、似合うと思って。あと、寂しそうだったし……」
「まったく、とことん甘いわね」
シトラは腰に手を当てて、笑った。
「まったく甘々です」
ミルは腕を組み、頬を膨らませる。
「むぅー、私のネックレスー」
アルブは飛び回りながら僕に突進してくる。
「あはは……、な、なんかごめん。でも、僕は後悔してない。アルブの品はまたいい素材が見つかったらね」
僕は突進してくるアルブを抱きしめ、宥めた。
「わ、私は安い女じゃないですからね」
アルブは視線を反らしながら呟いた。
「はは……、ゼロ歳児がそんなこと言わないよ」
僕はアルブの背中を撫で、怒りを沈ませる。
「プルウィウス王国発ウィリディス領行きの列車がただいま発車いたします。危険ですからお席に座ってお待ちください。出発のさい、大きく揺れる恐れがございます。周りのお客様に迷惑を掛けないよう、お待ちください。駆け込み乗車は危険なのでおやめください」
汽笛が鳴ると、列車が少しずつ動き出した。
「王都を出発するね」
「そうね。色々あったけど、なんかすっきりしたわ」
シトラは良い笑顔を浮かべ、窓ぎわに座っていた。
「なんだかんだ言って楽しかったです。ぼくは田舎の方が好きですけど~」
ミルは僕の膝の上に座り、ゴロゴロと喉を鳴らしながら甘えてくる。
「キース君! またねーっ! 来てくれてありがとうっ!」
イリスちゃんは列車のフォームに立ち、両手を振って僕たちに感謝の気持ちを伝えて来た。
「イリスちゃん、またねっ!」
僕はイリスちゃんに大きく手を振り、別れを惜しむ。
イリスちゃんの姿が見えなくなるほど列車が進み、僕達は流れゆく景色を見る。
「はぁー、もう、王都があんなに遠くに見える。列車は早いな……」
「そういう乗り物だから当たり前でしょ」
シトラは裁縫をしながら呟いた。
「王都から、ウィリディス領まで八日くらいかかりますよね。またこの狭い空間で過ごさないといけないのかー。大変だなー」
ミルは僕に擦り寄り、嬉しそうにしていた。
「ミル、やけに嬉しそうだね」
「いやー、キースさんと同じ部屋で八日以上過ごすなんてぼくが耐えられるかどうかわかりませんから、覚悟してもらおうと思いまして。もう、八日間ずっと一緒にいるわけですし」
「ミル、発情止めは飲んでるよね?」
「えー、飲まないと駄目ですか? ぼく、列車の中にいる間、キースさんにずーっと可愛がってもらいたかったのにー」
ミルは尻尾を振りながら、微笑む。
「僕は体力が無限にあるからしようと思えば出来るけど、シトラもいるし、隣の車両に他のお客さんも乗ってるんだよ」
「あぁ、そうでした。周りに他のお客さんが乗っているんでした。それじゃあ、周りにぼくの声が聞こえちゃいますね」
ミルは視線を反らしながらはにかむ。
「そうだよ。だから、列車の中でするのは禁止ね」
「え……」
シトラとミルは同時に振りむいた。どちらも悲しそうな顔をしており、僕が何か不味い発言でもしたのだろうか。
「キースさん、ぼく、頑張って声を出さないようにしますから、禁止は無しにしましょう。禁止は流石に厳しすぎますよ」
ミルは必死になって禁止は取り消してほしいと言ってくる。
僕はミルとシトラが言うように禁止は取り消した。二人は安堵し、列車からの景色を楽しむ。
列車からの景色を長い間楽しんだ。いつ見ても違う景色なので見飽きない。
料理が運ばれてきたので皆で食した。お風呂は無いが桶にお湯を張り、体を拭くことは可能なので、シトラとミル、アルブ、僕はお湯で濡らした布で体を拭いた。
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