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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第二章 シトラの為に……

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雨の日の所業

「それにしても、両手に包帯を巻いているけど、そんなに怪我したの?」


「あ、これは仕事の影響でして」


「へぇー、仕事の影響ねー」


 ミリアさんはアイクさんを睨む。女性なのに、エルツさんより強そうな雰囲気があふれ出ていた。


「な、何だ。俺の顔に何かついてるのか?」


「アイク、いったいどんな無茶な仕事させているの?」


「べ、別に、無茶な仕事はさせてないぞ」


 アイクさんはミリアさんに質問されて動揺しているのか、眼が泳いでいた。


「両手に包帯を巻かないといけないくらい大変な仕事が、無茶じゃないって言うの?」


 ミリアさんはアイクさんの胸ぐらを掴んで持ち上げる。地、力が強い……。


「み、ミリアさん。僕は大丈夫ですから。たいした傷じゃあいませんし、アイクさんは何も悪くありませんよ」


「キース君がそう言うなら……」


 ミリアさんはアイクさんを下し、解放する。


「はぁはぁはぁ……。怪力女が……。俺を殺す気か」


「アイクが従業員を殺しかけているんでしょ。もっと自覚を持ちなさいよ。あなたは厳しすぎるの、色々とね」


「俺の生き方だから仕方ないだろ」


「それを他人にも強要するのはどうかと思うけど」


「まぁまぁ、お二方、今日はもう遅いですから早く寝てしまいましょう。僕もまだやらなければならない仕事が山のように残っていますから」


 ――僕はまだあの丸太の一本も切り分けられていない。一本全部を薪の大きさに切り分けないといけないのに……。雑談している暇すら、無いのかもしれない。早く寝て明日の仕事に備えないと。


 僕はアイクさんとミリアさんの痴話喧嘩を止め、借りている部屋に向う。

 扉を開けて中に入り、ベッドにすぐさま寝ころんだ。

 お風呂を済ませたあと歯は磨いているのでそのまま寝られる。


「はぁ……。黒卵さん、僕はやり遂げられるかな……。凄く不安だよ」


 僕は革袋から黒卵さんを取り出し、月明かりに照らす。

 光を反射せず、真っ黒な卵が現われた。

 両手に包帯を巻いているため温かさは感じられないが、何かが腕の中にいるような存在感がある。


「今の僕の話し相手は黒卵さんくらいしかいないから、愚痴をたくさん零すかもしれないけど、受け止めてね。あと、僕を見守ってほしい」


 僕は黒卵さんを抱えたまま優しく撫でる。

 アイクさんは魔法に頼るやつは弱いと言っていた。

 僕もシトラを助けようとした時、黒卵さんに一度頼った。僕には力が無いから、力のある黒卵さんに頼ったんだ。今考えると、凄く情けない。


「この二週間、黒卵さんの力を借りずに努力するよ。フレイの時は借りないと僕が死んでたからとても有難かったけど、普通の生活でも力を借りたくならないように、今、頼り癖を無くす。黒卵さんが孵った時に僕を選んでよかったって思えるような男に……」


 僕は黒卵さんに話しかけながら眠ってしまった。抱きしめていたらなぜか無性に眠たくなったのだ。体から力を奪われていく感じに近かった。

 一番近いのはお風呂に入ったあの脱力感だ。

 決して辛い訳ではなく、不安な気持ちすら消えていくような程、心地よい眠りだった。


 ☆☆☆☆


「う、ううん……。ん。はぁ、よく寝た。今、何時だ?」


 僕は部屋に取り付けられた時計を見る。

 時刻は午前三時五五分またしても完璧な時間だ。


「こんなにいい時間に起きられるほど朝が強かったかな。いつもシトラに起こされていた記憶しかないんだけど。って、五分しかないんだ。調理場に早く行かないとアイクさんに怒られる」


 僕は抱きしめていた黒卵さんを革袋に入れて袋口を閉じ、紐をしっかりと持って部屋を飛び出した。

 調理場につくと、アイクさんは朝食をすでに作ってくれており、とても美味しそうだった。昨日と一緒の料理だが、食べられるだけでもありがたい。


 僕は朝食を胃の中に流し入れるように食べてビラ配りに向う。


「おい、キース。今日は雨だ。雨具を入口に用意しておいたからそれを着て行け」


「わかりました」


 僕はビラを持ってお店の入り口に向う。

 入口付近に設置されているテーブルに雨具とビラを入れる要の麻袋が置いてあった。

 雨具と麻袋は水を弾く魔法が施されており、雨に濡れても全く濡れなかった。


 雨具を着てから外に出ると石畳が敷かれた道路が水しぶきで白く見えるくらい大量の雨が降っていた。


「凄い雨だな……。走りにくいし、前も見えにくい。天候が悪いだけでこんなに仕事が進まないのか」


 僕は全力で走っているのだが靴に水が溜まり、いつもより重い。

 地面も舗装されている場所以外は泥状になっており、踏み込む度に僕の体力を奪っていった。

 仕事を始めて一時間後。


「はぁはぁはぁ……。おげぇ……」


 僕は走っていて初めて嘔吐した。その時は両膝を付き、排水溝に向って嘔吐したため誰にも迷惑はかけていないが凄く苦しい。

 ただ、気絶はしなかった。

 嘔吐しただけでその後は全力で走れたので、雨の日の遅れを気絶でさらに伸ばさずに済んだ。

 さらに一時間後。


「く……。さ、さすがに休憩しないと……体が持たないな」


 僕はめまいがしてきており、視界が歪んでいた。

 気絶する予兆のような気がして、三〇分程度、雨を凌ぎながら休憩する。

 気絶して一時間伸びるよりはましだと思ったのだ。

 休憩中に目標の三時間が経過した。


「今日も、時間内に配れなかった。でも……初日より確実に早くなっている。著しい成長だ。このまま行けば、三時間を切るのも難しくない気がしてきたぞ」


 僕は四時間でアイクさんのお店まで戻ってきた。

 雨で遅れてしまった三〇分と休憩した三〇分の合計一時間をどう減らしていくかが今後の課題と考える。

 お店に戻ってすぐ、アイクさんにビラ配りが終了したと伝えた。その後、裏庭に向いのこぎりで昨日切っていた丸太の残りを分ける。


 体に打ち付けられる雨水はとても小さい。痛くはないが、何時間も晒されていると体温と体力が奪われていく感覚がある。



「き、昨日よりきつい。雨のせいで力が上手く伝わない。のこぎりの持ち手も滑って握りづらい。木が水を吸って、重くなっているし……。これは、昨日よりも効率が落ちるかもな。でも、やるしかないんだ!」


 僕は包帯を外す。こっちの方が滑らないで力が伝わりやすいと思ったからだ。

 試してみると僕の思った通り、先ほどよりかは進みが早くなった。

 ただ……。


「痛ったい……。そりゃそうか。もともと薄皮が張ってきたところなのに、雨のせいでふやけちゃって破れやすくなっている。血が止まらないや……。もぅ、血豆を越えちゃっているよ」


 僕の掌は真っ赤。雨が掌にあたるだけで痺れるような刺激が全身に広がる。雨によって薄まった血液が掌から零れ落ちるように地面に垂れた。

 茶色の地面は水浸しになっており、赤色の雫が落ちて波紋を作る。茶色に濁っていた水は僕の血が混ざり赤茶色の水になっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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