緑色の勇者対橙色の勇者
「…………」
見えるのはキュアノさんと弾け飛んだポイニーさんの肉体。
「つっ!」
ポイニーさんはキュアノさんの死角から現れ、攻撃を放った。だが、攻撃が体に当たった瞬間、腕が凍る。
「本体見っけ……」
キュアノさんは杖を大ぶりし、ポイニーさんに打ち込んだ。
「くっ!」
大きな杖が体に当たり、その部分から凍っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ほんと、最近の勇者は可愛くない子達ばかりね……」
ポイニーさんの体は氷にじわりじわりと浸食され、半身が氷に包まれる。
「まさか、その体温で動けるなんて、やっぱりキュアノちゃんは人間やめてるわよ……」
「婆に言われたくない。今年で一五〇歳を超えている婆の癖に、まだ勇者に居座ってるの?」
「私以上の天才が現れないんだから仕方ないでしょ。くっ……」
ポイニーさんの体の半分以上が氷に浸食された。
「さっさと降参しないと、そのまま心臓まで凍って死んじゃうよ」
「あら、心配してくれているの? もしかして人を殺したことが無いのかしら」
「……なら、あんたを始めの一人にしてやるよ」
「もうー、冗談よ、冗談。ほんと最近の子は冗談が通じないんだから。降参よ」
ポイニーさんは凍っていない方の手を上げ降参を宣言した。すると聖なる鐘が鳴らされ、戦いが終わる。
「勝者、青色の勇者」
国王は左手を上げる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
青色髪の人々が大きく叫んだ。闘技場内の空気が震え、血圧が上がる。
残っているのは橙色の勇者と緑色の勇者だ。
前回大会三位と最下位の戦いだ。ライアンは去年黄色の勇者を倒して準決勝に出場したと思われる。だとすれば緑色の勇者よりも強いと言うことになる。でも、ライアンは女性を殴らない。そう言う信念を持っており、どうやって戦うのか想像できなかった。
「では、三試合目、橙色の勇者ライアン・ハートフル。緑色の勇者プラス・クーロン。前へ」
国王はライアンとプラスさんを中央に呼ぶ。両者が中央に移動した。
ビオレータはあくびをしながら鐘を鳴らす。
「プラス、俺はお前を殴ったり蹴ったりしない。お前が女だからな」
ライアンは腕を組み、堂々と言い放った。
「女だからってバカにしないでください」
プラスさんは腰に掛けていた軽量の細い剣を抜く。ライアンは戦う気が無いのに対し、プラスさんは十分あるようだ。
「馬鹿にしていない。だが、男と女の間に越えられない壁がある。そもそも俺に女を痛み付ける趣味は無い!」
ライアンは目をかっぴらき、大きな声を上げた。
「なら、潔く負けてください!」
プラスさんは駆ける。脚が速く、決して動けない方ではない。剣も鍛錬しているのか、とても綺麗な太刀筋だった。ただ、相手が悪い。ライアンはプラスさんの剣速をもろともせず、剣を紙一重で躱していく。
ライアンの動体視力は常人を逸脱しており、真面な攻撃は当たらない。逆にプラスさんの服を持ち、投げ飛ばす。
――なるほど、投げ飛ばすか。それなら殴らないし蹴らないな。場外に投げ飛ばしたら勝ちになるんだ。
「くっ!」
プラスさんは空中で体勢を立て直し、足裏から着地。
「『緑色魔法:根畑』」
プラスさんは地面に手を当て、太い根っこを生やしまくった。地面から出た根っこがライアンの体に向って集まる。ライアンは根っこの猛攻を回避し、プラスさん目掛けて走る。場外に投げ飛ばしてやろうと言う魂胆が見え見えだ。
「はああっ!」
プラスさんは逃げずに迎え撃つ。案外男気がある方なのかもしれない。
「ふっ!」
ライアンの拳と剣先がぶつかる。ライアンの専用武器が火を吹くかと思えば反応しない。加えて剣先とライアンの拳があっているのに緑色の勇者は力負けしていなかった。
「何かの効果が発動しているのかな……」
「なるほど、案外やっかいな能力してるな」
ライアンはいったん離れ、考えこんでいた。
「力を均等にするのか。それとも、消しているのか。どっちだ?」
「教えません」
「まあ、俺の武器が無反応だったんだから、止めてるのか。はたまた消しているのかのどちらかだな。体のこわばりからして、止めてるっぽい」
「……」
プラスさんは視線を斜め上に向け、涼しげな表情をする。何ともわかりやすい。
「なら、もっと打ち合ってみるか。攻撃を当てなければ良いだけの話しだからな」
ライアンは素の状態でプラスさんに向っていく。
クサントスギルドのギルドマスターをしているべニアさんの身体強化有り状態と対等に戦っていたため、素の状態でも物凄く強い。
三原色の魔力であるマゼンタとイエローの配分が完璧で、橙色の勇者になるべくして生まれたような人間だ。対するプラスさんもシアンとイエローが丁度半々で緑色の綺麗な魔力を作っていた。こちらも魔力暴走を簡単に起こさないくらい良い色だ。
「はぁあああっ!」
緑色の勇者は細剣をライアンに向けて突く。
「ふっ!」
ライアンは剣先にアイアンナックルをぶつけ、停止。すると、地面の根がライアンの足に巻き着いた。
「なるほど……、いい合わせ技だ。だが、戦闘向きじゃないな!」
ライアンは手の平を指先を動かし、細剣を弾く。
「なっ!」
プラスさんは前方に力が向かっていたため、内側に空間が開いている。ライアンは靴を一瞬で脱ぎ、根の拘束を出ると腕を取る。
泥袋を肩に背負い積み上げるように身を屈め、プラスさんを地面に叩きつけた。
「くっ!」
プラスさんは剣を持っている腕がライアンに抑えられ、関節技を決められていた。
――関節技を決めることはできるんだ。まあ、殴ったり蹴ったりしてないけど。
「このまま行くと肘が折れちまうぞ」
「ぐぐぐぐぅ……。も、もう、負けたくない……」
プラスさんは泣きそうになりながら降参しなかった。まあ、彼女なら傷を負っても自分で治せるはずだ。でも、痛いのは痛い。僕も怪我を負うと痛みを感じる。感覚がマヒして来ているが、痛みと同時に治るので中和されているのかもしれない。
「やっぱりいい根性してるな。嫌いじゃないぜ、そう言うの」
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