新年のあいさつ
「二人共、今はそんなこと言っている場合じゃないよ。挨拶に行かないといけないんだから」
「そ、そうですね。ぼくも着替えます」
ミルはクサントス領で買ったドレスを身に纏う。
「わ、わかってるわよ」
シトラもクサントス領で買ったドレスを着た。
両者の服はそのままだと寒いので上からコートを羽織ってもらい、冷たい風を防ぐ。
アルブの体を綺麗に拭き上げ、鱗の光沢を出してあげると、とても喜んだ。
僕は左腰にアダマスを掛け、出発の準備を終えた。クルス君の家にもこれくらい決めて行った方が良かったかな。
僕達はスージア兄さんがいる実家に向かった。門の前にオーリックさんが立っており、掃除をしていた。
「オーリックさん、こんにちは。新年のあいさつに来ました」
「……キース様ですか?」
「はい、キースです」
「はは……。やはり、似ておられますね」
オーリックさんは誰を思ったのかわからないが、微笑みながら鉄格子を開けてくれた。そのまま、屋敷の入り口に来る。襟首に男爵の記章を付けた状態で扉を叩いた。
メイドが扉を開け、僕達を中に招く。背筋を曲げたくなるのをぐっと堪え、胸を張りながら歩いた。そのままスージア兄さんがいる書斎にやって来た。扉を叩き、許可を得てから中に入る。
「キース……。ふっ、正装だと見違えるな……」
スージア兄さんは僕の姿を見て言う。
「新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「ああ、今年もよろしく。どうだ、一杯くらい飲んでいくか?」
スージア兄さんは立ち上がり、壁に作られている葡萄酒瓶入れから年代が古そうなガラス瓶を手に取り、言った。
「もちろんです」
僕は断れず、頭を下げながら言う。こういうのが貴族の付き合いと言うのだろうか。
スージア兄さんはコルクを抜き、紅色の液体を透明なグラスに注ぐ。
僕はグラスを受け取り、香りを嗅いだ。葡萄の香りが強く、とても酸味が強そうだ。
「乾杯」
スージア兄さんもグラスを持ち、グラス同士を軽く打ち付け合った。
僕は葡萄酒を飲み、呼吸を整える。とても美味しい葡萄酒だった。ただ、昼過ぎから飲酒するなんて……と思った。
シトラとミルはケーキを食しており、いつの間に出したのかわからなかった。
「今年はキースに何か恩返しができると良いな」
「そんな……、僕はスージア兄さんに助けてもらってばかりだからもう、十分だよ」
「そう硬いこと言わずに、恩を返させてくれ」
「まあ、スージア兄さんがそう言うなら……」
僕はグラスを空にして頭を下げる。そのまま、部屋を出て新年のあいさつを終えた。シトラとミルも付いてくる。
「はぁ……ちょっと酔っちゃったな……。外の冷たい風に当たって酔いを醒ますか」
僕は無毒を使えば酔いを消すことができる。でも、気分が良いので無理に消す必要もないと思った。
「ああ……、キースさんが酔っ払ってます……。綺麗な虹色の目がとろけててエッチいです……」
「いつも肌が白いのに、お酒に酔ったら頬が赤くなってて……可愛い。襲いたくなる……」
後方から何か危険を感じるも、ミルとシトラが見てきているだけだ。
「じゃあ二人共、王城に行くよ」
「は、はい!」
ミルとシトラは大きな返事をした。
僕達は王城に行き、イリスちゃんと王様に挨拶しに行く。でも、多くの貴族が並んでおり、時間がかかりそうだ。
僕は何か引き出物を持って行った方がいいのかと思い、考えたが実家に帰省するようなものだし……、って、駄目だ駄目だ。何か持って行かないと。
僕はイリスちゃんが好きそうなお菓子、王に渡す剣を王都で購入し、行列に並ぶ。
男爵の記章は隠し、入ると言う時になって見せる。
王城に入ると、貴族たちが会食をしながら新年を喜び合っていた。
僕はイリスちゃんの部屋に向かう。イリスちゃんの部屋の前にいる騎士は潔く退いた。
僕は扉を三回叩く。
「はーい。へ……、き、キース君……」
イリスちゃんは僕の姿を見て絶句した。
イリスちゃんはバスローブを着ており、新年早々まだ着替えていなかった。でも、お酒の影響かいつも以上に可愛らしく見える。
「新年あけましておめでとうございます。これ、つまらない物ですが」
僕はイリスちゃんにケーキをわたした。
「あ、ありがとう……。えっと、えっと……、キース君だよね?」
「どう見てもそうだと思いますけど……」
「ご、ごめん。いつも以上にカッコよすぎて……。直視できない……」
イリスちゃんは視線をそらし、耳を赤くしていた。
「じゃあ、イリスちゃん。今年もよろしくお願いします」
僕は頭を軽く下げた。
「う、うん……。えっとキース君、新年一回目のキスがしたい……」
「……いいよ」
僕はイリスちゃんと共に部屋に入り、扉を閉めたのち彼女の唇を奪う。だいぶ長いキスでお酒の影響か頭がぼーっとした。
「キース君、お酒を飲んだ?」
「グラス一杯……。スージア兄さんに誘われて断れなかった」
「そうなんだ。キスが葡萄の味がしたから……」
イリスちゃんは唇に手を当てて、ほくそ笑む。
「キスは……イリスちゃんの味がした」
「も、もう、なにそれ」
「はは、何でもない。じゃあ、イリスちゃん。夜は暖かい恰好をして眠るんだよ。裸で寝たら風邪をひくからね」
「うう……、は、裸で寝てないよ」
イリスちゃんは視線をそらしながら呟いた。
「そのバスローブの下は何なのかな?」
「……うう、き、キース君のエッチ」
イリスちゃんは耳を真っ赤にしていた。もしかしたら本当に服を着ていないのかもしれない。昼頃からお風呂に入っていたのか。はたまた、この時間まで寝ていたのか……。まあ、彼女に新年のあいさつが出来て良かった。
僕は部屋から出てた。ミルとシトラが頬を膨らましており、少々怒っていた。
「むぅー。イリスちゃんに何をしたんですか!」
ミルは僕に向って飛びつきながら訊いてきた。
「キスしてほしいと言われたからキスをしただけだよ。それ以外何もしてない」
「じぃー」
シトラは僕の顔を見ながら眺めてくる。
「ほ、ほんとだって……」
僕は嘘を言っていない。両者は信じてくれたのか、おとがめなしとなった。
僕達は王の間に向かう。すると前の方からビオレータが歩いてきた。
「ビオレータ王女様。新年あけましておめでとうございます」
僕は軽く頭を下げた。
「ちっ……」
ビオレータ第一王女はひざを折って片足を後ろに引き、身を低くするおじぎを行った。どうやら、僕が貴族になったため、せざるを得なくなったのが悔しかったのか舌打ちを何度もされる。
良いか悪いか男尊女卑と言う文化が根強く残っているため、王族と言えど男爵に挨拶しなければならないようだ。
「では、失礼しますわ」
ビオレータは僕の隣をさっさと歩いて行った。
――き、緊張した……。
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