王都で年越し
クルス君は初等部に通うので、じっくり丁寧に教えられていく。
僕達は高等部の授業に追いつくため、初等部の勉強は本当に大切な部分を搔い摘んで頭に叩き込み、より大切な中等部の勉強をじっくりと行っていく。
初等部の勉強は一ヶ月で終えた。一一月は鍛錬と勉強の繰り返しだった。新しい知識を頭に入れるのはとても心地よく、勉強ができているのが夢みたいだ。
「あーん、キース君、ちょっと間違えちゃってるよ。ここはこうやってこうするの」
イリスちゃんではなく、イリス先生は僕に異様にくっ付きながら教えてくる。
「ちょ、イリスちゃん……」
「もう、キース君、イリスちゃんじゃなくて、イリス先生だよー」
イリスちゃんは僕にくっ付きながら唇が尽きそうなくらい近くで話す。
「イリス先生がキース君に破廉恥な行為をしています! 教育委員会に訴えるべきです」
ミルはイリスちゃんを引きはがした。
「むぅ、結婚指輪なんて嵌めちゃって、羨ましすぎるんだぞーっ」
イリスちゃんはミルと取っ組み合いになり、教室で暴れ出した。シトラが間に入り、沈静化させる。
近くに集中して勉強しているクルス君がいるので、あまり騒がしいことはしないでほしい。
勉強はいったん終え、外に出た。空から雪がふり、世界が白色に染まっていく。雪の中で鍛錬すると言う経験は滅多に出来ない。なので、身が凍え、体が動きにくくなってくるなか、戦いを行う。どんな極地でも戦えるようになっておけば、相手がだれであれ環境で焦ることはない。
雪はシアン色の魔力と無色の魔力を持っており、ミルやシトラなどの獣族は環境の変化に敏感、なので鍛錬しておくことは悪くない。
逆にイリスちゃんはこの環境でも全く問題なく戦えていた。クルス君も同じように問題なく戦えている。
無色の魔力はどこにでも溢れているため、僕の不利な環境はなさそうだ。逆に得意と言える場所も無い。
僕達は一二月も一緒に勉強と鍛錬を行った。
クルス君の力はめきめきと上達し、イリスちゃんもクルス君の剣の成長率に驚いていた。このまま学園に入学しても十分通用するとお墨付きをもらえ、彼は飛び跳ねて喜んでいた。
一二月二五日、聖典式がやって来た。
贈物を軽く渡し合う。クルス君の家で軽い宴会が行われ、お酒を少し飲み、楽しい一日を過ごした。久々の休日を得て、身が引き締まる。
イリスちゃんはお酒を飲み、ぐーすか眠っていた。夜が静まり返ったころ……。
「キースさん……。今日は聖なる夜ですね……」
スケスケのレースで作られたセクシーランジェリーを身にまとったミルが僕が眠るベッドに上る。
「もう、私達にとって冬とか関係ないみたい……」
白く艶やかな肌が見え、見えてはいけない部分だけ、申し訳程度に隠してあるような下着を身に着けているシトラも近づいてきた。
「僕、酔っぱらってて……、手加減できそうにない……」
僕はお酒に何か盛られていたのか身が燃えるように熱かった。毒物なら効果がないし、何か変な味がしたと言う訳でもなかった。
「二人共……。僕に何を盛ったの……」
「ブラックワイバーンの睾丸から作った強烈な増強剤と言うか、媚薬と言うか……」
ミルは呼吸を荒くしながら言う。いつもはおしとやかなのに夜は狂暴な猛獣になっちゃうんだから……。
「どうせ、キースから襲ってくれることなんて無いし……、私達から動かないとこの気持ちがどうしようもないのよ」
シトラは僕に抱き着き、これでもかと甘えて来た。シトラもいつもはさばさばしているのに、酔っぱらったり夜の気分になると甘えん坊に変わる。
その後、僕の意識はお酒に飲まれ、記憶が抜けている。大変惜しいことをした。僕はお酒を限界を超えて飲むといつも記憶が抜けてしまう。本当に弱いんだな。
一二月が終わると一月がやってくる。一月一日になり、年を迎えた。
「新年あけましておめでとうございます」
僕とシトラ、ミル、アルブは寝室で頭を下げる。皆で年を超すことが出来て良かった。今日は皆でゆっくりしようと思い、鍛錬はしなかった。僕達はクルス君の家に行き、挨拶をしに行く。
クルス君に金貨五枚をわたし。少しでも生活を楽にしてもらう。お金を渡し終えた後、家に帰る。家の中で一日中まったりしているつもりだ。
「はぁー、キースさんの膝の上でお昼寝するの、気持ちいいですー」
ミルは僕の膝の上に頭を乗せ、尻尾を揺らしながら呟く。
僕は教科書を読みながらミルの頭を撫でる。勉強するのが楽しすぎてこんな時でも教科書を読んでしまう。あと七日経てば勇者が王都に勢ぞろいして王城の闘技場で勇者順位戦が行われる。
僕はあまりに見行きたくないが橙色の勇者であるライアンが出るので、応援に行かざるを得ない。まあ、入れるかどうかは別問題だけど……。
「パイが出来たわよ」
シトラはテーブルの上に焼き立てのパイを乗せた。正月と言うことで王国の伝統料理のパイをいただく。甘めのパイでチョコレートが入っており、紅茶やコーヒーとよく合う。ミルとシトラが大好きな味だ。アルブも甘党なので、顔を突っ込みながら美味しそうに食べていた。
「ミル、美味しい?」
「美味しいです。やっぱりシトラさんは料理が上手ですね」
ミルはパイを食しながら言う。
「ありがとう。作ってみたら案外うまく出来たから良かったわ。たくさん食べてね」
「はーい」
ミルはパイをパクパク食べ、甘いココアを飲みながら幸せそうに尻尾をうねらせる。耳も大きく動き、楽しそうだ。
「正月をみんなで過ごせてよかった。シトラは去年、一緒に過ごせなかったし、今年は一緒にいられて嬉しいよ」
「なによ……、まあ、私も嬉しい……」
シトラは視線をそらし、呟いた。銀髪を掻きながら耳を動かし尻尾を大きく振っている。
「スージア兄さんの家にも挨拶に行った方が良いかな?」
「まあ、いったほうがいいかもね。イリス様がいる王城にも挨拶くらいした方が良いと思うわ」
「そうだよね……。じゃあ、正装を着て行こうか」
僕は元値金貨五〇〇〇枚は下らない高級な燕尾服を着て時価総額金貨一〇〇〇枚のブラックワイバーン製の靴を履く。シトラとミルに髪を整えてもらい、身なりをピシッと決めた。
「はわわ……。き、キース男爵様……」
ミルは僕の方を見ながら股を擦る。
「や、やっぱり服装や髪型を決めるとカッコよさが数段階上がるわね……。どうしよう、滅茶苦茶抱かれたい……」
シトラは生唾を飲み、目をかっぴらいている。
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