勉強の教材
「うん。わかってるよ。夜はしっかりと寝る。二人も愛する。出来ることは全部する。白髪の印象が悪いし、無能だと思われてると領土を開拓するのも難しい。少なからず普通の貴族並の力を手に入れないと」
「冒険者の仕事もしてお金を稼いで剣の鍛錬もやって勉強まで……。どれだけ頑張れば気が済むの。もう、十分生活できているんだから、あまり詰め込み過ぎないでよ。考えすぎるのはキースの悪い癖なんだからね。もっと馬鹿になってもいいのよ」
シトラは僕の首に手を回し甘えてくる。
「僕はシトラを一度失った。今度、何があって仲間を失うかわからない。どんなことが起こっても対処できるようにしておきたいんだ。僕が頑張るのは仲間を失わないようにするためなんだよ。馬鹿になんてなれないさ」
僕はシトラの腰に手を回し、語る。
「もう……。律儀なんだから……」
「キースさん、ぼく達の前だけでも馬鹿になっても良いんですよ。おっぱいを吸って赤ちゃんになってもぼくは許せちゃいます。なんなら、そんなところも見せてほしいくらいです」
ミルも僕にくっ付き甘えさせようとしてくる。
「二人は僕に甘すぎるよ……」
「キースが自分に厳しすぎるだけよ。何でも完璧にやろうとしなくてもいい。逆にキースの駄目な所を曝してくれないと、完璧人間になっちゃ面白味がないわ」
「僕の駄目な所か……。んー、どういうことが駄目な所かわからないな。完璧主義な所とかかな」
僕は自分の駄目な所を考える。気が小さいとか、他人に甘いとか、お金に頓着しないとか。考えてもいいのか悪いのか判断が難しい。
「ほら、また考えてる。どうでもいいことに長い間考えるのが癖って言ったでしょ」
「癖を簡単に治すことなんてできないし、治す必要もないでしょ」
「じゃあ、キスをして馬鹿になっちゃいましょうっ!」
ミルは拳を上げながら叫んだ。
「それはミルがキスしたい言い分なんじゃ……」
「えへへー、そうとも言いますね」
僕は五分ほどミルとキスをした。
「ほへぇ……、あ、あれぇ、ぼ、ぼくはぁ、どうなっちゃったんれすかぁ……」
馬鹿になったのはミルの方だった。
「はぁ、ミルちゃんがおバカになって伸びちゃってる」
シトラは伸びたミルを抱きかかえ、お風呂場で体を洗った。僕もついでに洗ってもらい、貴重なお風呂を楽しんだ。
お風呂の後は寝る準備をして二名の妻を愛するわけだが、魔力視でシトラとミルの弱点が丸わかりになると発見した。弱点とは自分の弱い部分だ。つまり魔力が無意識に守ってしまう部分でもある。無色の魔力と言えど、光の強さで弱点を理解できるのだ。
僕の魔力制御が成長した結果かな。
「ちょっ、き、キースさん、魔力視を使うのはずるいですっ!」
「キースに弱点がばれてるとか、もうどう頑張っても勝てないじゃない!」
「なるほど、一人一人弱点が違うのか。これで二人を愛しやすくなった」
僕はミルとシトラを愛した。両者に大変満足してもらえたようでよかった。握り合っている手に指輪が見えると、心が温かくなる。もう、誰かに幸せを奪われないよう、強く賢くならなければ。
一一月の間、クルス君の家に向かう前に、スージア兄さんがいる実家に向かった。
スージア兄さんがいるか門番に尋ねると普通に門を通してくれた。あまり入りたくないが、スージア兄さんに教材を貸してくれないか訊いてみることにしたのだ。
「教材を貸してほしい? 何でそんなことをする必要があるんだ?」
スージア兄さんは仕事部屋で大量の書類を処理していた。
「僕、貴族になったのに学が無いのは少し不味いかなと思ったんだ。頭が悪い者が民を纏められる訳がない。だから、高等部卒業の資格を取って大学に行こうと思ってさ」
「なるほど……。大学に行くのか。確かにキースが大学に行くのは賛成だ。初等部から大学までの教材を全て渡そう」
「え……」
「俺は全て覚えてるからな。もう必要ないんだ」
スージア兄さんは微笑みながら言う。さすがに恐怖だ……。でもスージア兄さんならあり得るかと考え、教材をありがたく貰う。
「キースなら大学くらいすぐに入れそうだな。今まで学園に行けなかった分、楽しめたら良いが……、そのために勉強は必要だぞ」
「うん。わかってるよ」
母の執事だったオーリックさんは今やスージア兄さんの執事になっており、執事長となっていた。スージア兄さんが勉強していたと言う教材を木箱の中に詰めてもらった。三歳児などのキンダーガーデンに通っていた時の教材は無くし、初等部のころの教材六年分と中等部の三年分、高等部の三年分を受け取る。
「キース、今なら高等部二年で編入できるぞ」
「でも、初等部の勉強すらしていないのに高等部で勉強に付いていけるわけがない。だから、あと二年で大学に受かれるよう、頑張ってみるよ」
「そうか。じゃあ、俺は何も言わない。頑張ってみろ。まあ、大学は落ちてもまた入り直そうと思えば何度でも挑戦できる。くじける必要はない」
「うん。じゃあ、ありがたく教材を受け取っていくよ」
僕はスージア兄さんから教材を受け取り、ミルと手分けをして家まで持って帰った。初等部の勉強はクルツ君も一緒に出来るので、鍛錬の後に勉強の時間を作る。
仕事を無くし、勉強に集中しても今まで働いたお金を崩して行けば生活は出来るはずだ。
シトラもクルス君の家に来て一室に四名が椅子に座る。頼んだら了承が出たので、来てもらった。
「皆さん、こんにちわ。お勉強の先生だよ~」
シアン色の髪を纏め、レンズが入っていない眼鏡をかけ、学園の先生のような雰囲気を放っているイリスちゃんが部屋の前に立ち、喋り出す。
「イリスちゃんって今は学園に行ってないの?」
「ふふん、私はもう大学までの勉強を終わらせちゃってるんだよ。凄いでしょ~」
イリスちゃんは腰に手を当て、胸を張る。とてもとてもやる気があるようだ。
――もしかしてイリスちゃんって優秀なのか?
僕達はイリスちゃんに初等部の家庭教師となってもらい、勉強を進めた。イリスちゃんはとても丁寧に勉強を教えてくれた。鍛錬も共に行い、雰囲気を変えた髪型や衣装のおかげで王女だとドマリスさんに気づかれることはなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




