欲求不満
「いたんじゃないですか? ぼくもほぼ全部同じに見えましたけど……。ああ、あの太った個体がゴブリンロードだったんじゃないですか?」
「背後から首を切ったあの大きな個体か……。確かにそうかも。ゴブリンロードに合った覚えが無かったからわからなかった。じゃあ、結構やばい状況だったのかな」
「結構やばい状態だったんでしょうね」
僕達は感覚がマヒしているのか、フレイやブラックワイバーン、ブラックホーンラビット、ロックアントの女王、黒いマクロープス、黒甲虫など名だたる化け物と会って来たので討伐難易度Aランクのゴブリンロードと相対しても気が付かなくなっていた。
魔物に対する学が少々足らないらしい。よくよく考えれば魔物の勉強なんて特段した覚えが無く、魔物を見ても首を刎ねれば倒せるくらいの知識しかない。
「僕達って脳筋なのかな……」
「まあ……。脳筋かもしれないですね」
ミルは苦笑いを浮かべた。
僕達はギルドを出てクルス君が待っている屋敷に向かう。掃除をしたので、すっかり綺麗になった屋敷が見えて来た。
クルス君が剣を振っており、勇ましく見える。そりゃあ、目の前がゴブリンで染まるほどの数を前にして戦っていたんだ。並大抵の精神力じゃない。この子は伸びるぞなんて微笑みながら彼に剣術を教える。まあ、僕も剣を習って一ヶ月程度だけど。
一〇月はクルス君の基礎体力をかたっぱしから鍛えた。走って走って剣術は二の次くらい体力の向上を目指し、クルス君は若干六歳にして普通の人以上の体力を手に入れた。
剣を一日中振っても疲れないくらいの体力量だ。どうも、僕が近くにいると普通の人間が無色の魔力を吸収し、体が活性化されるらしく、通常よりも成長力が上がるらしい。だから、ミルやシトラも強いのかもしれない。
「ふっ! はっ! やっ!」
クルス君はミルと長時間戦っている。剣がミルの体にじりじりと近づいており、ミルの反応速度でも躱すのが難しくなっている。それだけ剣が洗礼されていると言うことだ。
「クルス君、疲れても形を壊してはいけない。常に同じ攻撃を保つんだ。そうすれば、疲れて来た相手に攻撃が当たる。カウンターも狙いやすくなるよ。逆に相手は苦しくなって無駄な攻撃を放ってくるかもしれない。そこに攻撃を集中させるなんて言うこともできる。体力が戦いの基本だ。技術は後からついてくる」
「は、はいっ!」
クルス君は汗水たらたらになりながら剣を振り、攻撃していった。
「キース先生、解けました!」
庭園の休憩所で算数の問題を小さな黒板にチョークで解き、僕に見せてきたのはクルス君の妹だ。三兄妹だそうで、妹と弟が一人ずついる。妹が四歳と弟が三歳でまだまだ小さい。僕を先生なんて慕ってくれるほど仲良くなっていた。どちらも髪色が藍色なので、将来有望そうだ。白髪の僕と違って……。
「うん、正解。よく解けました」
僕は妹ちゃんの頭を撫で、褒める。
「えへへー、お兄様に負けないくらい勉強したの」
妹ちゃんはクルス君を慕っており、仲良し兄妹だ。子供のころから仲がいい三兄妹と思うとちょっと羨ましい。
午前中は鍛錬、午後は魔物との実践訓練と言う形でクルス君を強くしていく。
僕達もついでに依頼を受け、魔物を討伐する。と言っても強い魔物はいないのでコボルトやゴブリン、いてもオークくらい。鍛錬と実践は全く違い、想定していない場面が何度も起こる。そのため、クルス君も何度も死にかけていた。その都度、頭の中で考え、対処している姿を見ると頭が良いんだなと感心してしまう。
午後四時に解散し、クルス君の家から冒険者ギルド本部に向かう。その場でお金を換金した。
「キースさん、クサントス領からお手紙とお荷物です」
受付嬢の方が手紙と包を渡してきた。宛名はリーフさんだ。手紙を開けて読んでみる。
「『毎度あり』」
何とも短い手紙だった。と思ったらもう一枚入っていた。
「『王の傷を治したのは君だろ。私を出汁に使ってくれちゃって。無駄に大金を手に入れてしまったじゃないか。どうしてくれるんだい。私の自堕落した生活が一変して無駄に仕事が増えてしまったよ。だが、身を粉にして働くのも嫌いじゃないんでね、また必要になったら手紙をよこしな』」
リーフさんは僕が手回ししたことを知っていた。それでいて乗ってくれたのだから、やはり良い方だ。
僕達は包を持ちながら家に帰った。シトラとミルの眼の色が変わり、手洗いを終えた後、包に手が伸びる。袋を開けると小さな袋に包まれた避妊具が大量に入った箱が出て来た。
ミルとシトラの尻尾が触れまくっており、耳をパタパタと動かして熱を逃がしている。
「えっと……。夕食は……」
ミルとシトラは椅子に座る僕のもとにずいずいと寄ってくる。
「ぼくたちです!」
ミルは冒険着を脱ぎ捨て歩いてくる。
「さすがに一ヶ月おあずけは死ぬかと思ったわ……」
シトラはメイド服をスルリと脱いで歩いてきた。
「いや……、お腹が減ったんだけど」
「ぼくたちもキースさんの愛に飢えていますっ!」
「食べてもらわないと暴走しちゃいそう……なのよ」
「な、なんか僕が思っているよりも二人の愛が重い気がするのはなぜ……」
僕は一ヶ月おあずけされた二名を無理やり食べさせられた。
一一月一日。僕たちはベッドの上で起きた。
「ううん……」
僕はカーテンを開け、窓から入ってくる陽光により目が覚める。
「キースさん、おはようございます」
肌がつるつるになっているミルが僕にキスしながら微笑む。どうやら、鬱憤は完全に晴れたようだ。
「ふわぁー。やっぱり、目覚めが良すぎる……。世界が輝いてみるわ」
シトラの肌もモチモチすべすべになっており、いつも以上に綺麗に見えた。
「僕はお腹が空いたよ……」
大食いの僕にとって一食抜くと身が持たないのか、絶妙に元気が出ない。食後に営みを行うようにした方が良いと思うのだが、間を明けすぎると聞き入れてもらえなかった。愛に飢えた妻たちの相手をするのも大変だ。求めてくれるのは嬉しいけど僕の意見も聞いてほしい。
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