高級品
「キースさん、あそこにデカい個体がいます。人族もいるようですよ」
「助けに行かないとね。ミルはまだ動ける?」
「人を運んでいただけなので、体力はあり余っています」
ミルは微笑み、握り拳を見せる。
「じゃあ、僕がデカい個体を倒すから、ミルは他の個体をお願いしても良いかな?」
「おやすい御用です。ただのゴブリンごとき、ブラックワイバーンに比べれば何も怖くありません」
ミルは左手首に付けられたブラックワイバーンの革で作られているブレスレットを見せてくる。
「油断は禁物だよ。例え相手がスライムでも死んでしまう冒険者がいるんだ。おごりと油断は絶対にしちゃいけない」
「わかってます。そのせいでシトラさんに負けたので、絶対に油断しません」
ミルは腰につけていたバックラーと短剣を持ち、呟いた。
「よし、まずは『無視』を使ってデカい個体の前に行く。統率者を倒したあと、散り散りになったゴブリンを駆除する」
「了解です」
僕とミルは手を繋ぎ、『無視』を発動した後、ゴブリン達の根城に入る。
洞窟の中にゴブリンの親玉だと思われる、図体のデカい魔物が骨で作られた椅子に座っていた。腕置きに肘を置き、ふてぶてしい。通常のゴブリンの三倍くらい背が高く、八倍くらい太っている。オークのような見た目で、王様気取りだ。
椅子の背後に回り、アダマスを真横に振るう。ゴブリンの親玉は何が起こったのか理解できぬまま、頭が飛び、不可思議な顔をしていた。
「よし、後は駆除作業だ」
「こんな近くに来ているのに気づけないなんて、ブラックワイバーン以下です」
「ブラックワイバーンと比べるのはやめようよ……」
僕たちは洞窟の中で巨体の親玉を倒したあと、通常個体のゴブリンの殲滅作業を行った。
数が多く、ミルと二人掛で倒し、二時間くらいかかった。
「主、またゴブリンですか……」
アルブは空を飛んできて僕の頭上で言う。食べたくないと心から伝わってきた。
「はは……。えっと、僕とミルで魔石と右耳を取るから、アルブはゴブリン達の体を一瞬で魔力に変えて食べる方法にしていいよ」
「ほっ……。もう、ゴブリンは臭いので、あまり食べる気になりませんでした。全部魔力に変えられたら、楽なので、私としてはありがたいです」
僕達は夜になるまでゴブリンの耳と魔石を回収した。捕まっていた人族は解放され、泣いて喜んでいた。もう少し助けるのが遅かったら危なかったな。
ゴブリンの耳と魔石を数えるのが面倒なほど集めた後、転がっているゴブリンの死体をアルブは血液ごと魔力に変化させ、食した。ゴブリンがいた痕跡が無くなり、僕達は解放した人族と共に村に戻った。
村もゴブリンの血液と死体塗れで酷いありさまだった。多くの者でゴブリンの耳と魔石を回収。その後、アルブはゴブリンの死体と血液を無色の魔力に変え、体内に取り込んだ。
「ふぅー、お腹がいっぱいになりました」
アルブは翼を羽ばたかせ、尻尾を振っていた。
「よかったよかった。ミル、村の人々は無事?」
「はい、無事と言えば無事ですね。亡くなった方もいるそうですけど、ほとんどの方が助かったはずです。あれだけのゴブリンに攻められるなんて、子供のころに見ていたらトラウマになりそうです」
ミルは身震いしながら呟いた。
「うん……、確かに。でも、丁度攻め込まれている時でよかった。ドマリスさんとクルス君が引き寄せてくれていたから村が落とされずに済んだ。にしても、王都から比較的近い位置なのに、あれだけのゴブリンが発生することもあるんだな……」
僕は腕を回し、体を解しているともう夜中になってしまったことに気づいた。
「あ……。シトラが怒る……」
「はわわ……。そうですね。なんの連絡もしてませんよ。早く帰らないと」
「とりあえず、今日は早く帰って明日の朝、また来ようか」
「は、はい。そうしましょう」
僕達は王都に一度帰った。
家に付くと、シトラが仁王立ちしながら、玄関の前で立っている。
「…………」
僕とミルはぎゅっと抱き合い、シトラから放たれる怒りを見て震えた。
「もう。送れるなら、ちゃんと連絡してよ。私一人で取り残されたら怖いじゃない……」
シトラは一通り僕達に怒った後、僕の膝の上に乗った。恐怖から甘えたい欲が強まってしまったようだ。
「ごめん、僕たちもここまで長引くとは思ってなかったんだよ。だから、許して」
「……じゃあ、その分、いっぱい愛して」
シトラは僕の方を向いて言う。
「えっと、夕食とお風呂の後で良いかな……」
「いや……」
シトラは僕の方に向き直し、僕に抱き着きながら呟く。
「えぇ……。僕、お腹が減ったんだけど……」
僕達は夕食も得ず、愛し合った。
次の日、朝起きるとベッドの上にシトラの姿はなく、部屋を出たら大量の料理が並んでいた。昨晩の分を朝作っているようだ。やっと食事にありつけると思い、シトラに感謝した。
イリスちゃんの手紙を読み、手紙を書いておく。ミルが起きて来た時、皆で朝食を取り、今日は早く帰ってくると約束して家を出た。
「昨日はシトラさん、本気でしたね」
「心配させ過ぎちゃうと、不安が募って爆発しちゃうって……」
「シトラさんはキースさんと離れ離れになるのが怖いんですよ。一回怖い思いをしているんですから。ぼくもキースさんと離れ離れになったら怖くて一人でトイレに行けませんよ」
「そこまで……」
「昔のトラウマはそう簡単に消えないってことです」
「そうか……。確かに」
――僕もフレイと列車が今でも怖い。そう言う感じか。
「あと、そろそろ避妊具を買わないと、無くなっちゃいますよ」
「いつの間にそんな使ったんだろう……。そんな沢山やったかな……」
「キースさん、強すぎて一晩で一個しか使わないじゃないですか。ほんとは毎日したいんですけど、避妊具の個数が無くなっていくたびに我慢してるんですからね!」
ミルは生々しい話しを容易くする。まあ、夫婦だしいいか。
「王都にもあるのかな?」
「そりゃあ、あるに決まってるじゃないですか。値段はいくらか知りませんけど」
僕たちは村に行くついでに市場により、夜の営みに必要不可欠な道具を探す。
「……ない。なんで、なんでなんだ!」
ミルは絶望した表情で呟いた。
「豚の腸……、牛の腸……、羊の腸……。サンドワームの品が無いね。人気なのかな。すみません、サンドワームの品ってありますか?」
「サンドワームの品は高級品ですので、当店では扱っておりません。一等地の方ならあるかもしれませんが、人気なのでそう簡単に手に入らないかと。ある領土の森の民が作っているそうです」
「なるほど……。じゃあ、しばらくお預けだね」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ミルは泣きながら叫んだ。ほんと、交尾が好きなんだな……。
僕達は、一等地にある繁華街に一応行ってみた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




