ゴブリンの大群
昼の休憩が終わると後半はミルと拳の打ち合いだ。
ミルに攻撃を当てられるようになれば、相当凄い成長だ。まず、無理だと思うが、ミルの体の使い方を学んでもらうのは有効のはず。
僕もミルの戦い方は参考にしている場合が多い。実践の中でしか手に入らないこともあるので、頑張ってもらおう。
後半は僕が庭や家周りの掃除を行い、見かけをよくする。そんな日々を一〇日ほど続けた。
一〇月一二日。クルス君のお父さんであるドマリス男爵が自身の領地に無事を知らせるため、王都の外に行くそうだ。
領民を安心させ、仕事に集中してもらおうという意図が見える。
税を少しでも減らし、民が暮らしやすくなるように政策も変えるそうだ。税を減らし領民を増やし、懐事情を少しでも改善しようとしている。
クルス君も付いていくそうで、今日は休みにした。でも、素振りや鍛錬は怠らないというので、小指を組み合わせ約束を交わす。
一番近い村に行くらしく帰りは七日後の予定だそうだ。
七日の間、僕たちは王都の冒険者ギルド本部で仕事を受け、軽くこなし、日銭を稼いで家に帰ると言った生活を続ける。
刺激的な日々ではなく、たんたんと流れる時間のありがたさを噛み締めていた。
クルス君にプルウィウス流剣術を教えるため、僕も完璧に覚えなければならないと思い、マゼンタ撃斬、シアン流斬、イエロー連斬の基本の型を練習し続ける。
「キースさん、ぼくも剣を習いたいです!」
ミルは僕が素振りをしている時に話しかけてきた。
「ミルが剣……。どうして?」
「時間を有効利用しようと思いまして。格闘術の次は剣術かなと」
「んー。まあ、やってみようか」
僕はミルに剣を教えてみた。だが、人族と筋肉の付き方が違うのか、絶妙に下手だ。
昔、ミルは剣を使っていたが、不慣れで拳に変えたのだと自分で気づいていた。
長剣ではなく、ナイフ関係の動きにすると、とてもよくなった。片手剣で左手に小さな盾を付けた状態の戦闘態勢を覚え、より安全性が増した。
武器や道具が壊れたら拳に移行すると言った戦法も取れる。
停滞期間は自分が出来ることをとことん学び、鍛錬に勤しんだ。シトラも休み時間は鍛錬を行っており、自分の長所を磨き続けている。短所は捨て、長所だけを伸ばす鍛錬も悪くないと思うので、そのまま続けてもらった。
一〇月一九日、ドマリスさんとクルス君が返ってくる予定の日なのだが……。帰ってこなかった。一〇月二〇日も帰って来ず、二一日、二二日も帰ってこなかった。
「これは……。異常事態でも起こった可能性が高い。モンズさん、ドマリスさん達が向かった村の位置を教えてください」
僕は執事のモンズさんにお願いした。
「わ、わかりました」
モンズさんは国の地図を広げ、王都から西側に指を動かし、大きな川がぶつかったころ、丸で囲んだ。線路が通っておらず、列車で行く方法はとれない。馬で移動して二日。八〇キロメートル以上ある場所だった。僕達の脚なら一日も掛からない。
「ミル、行こう」
「了解です!」
僕たちは王都から西に全力で走った。生憎、道路が整備されており、道に迷う心配はなさそうだ。全力で走っているとゴブリンの血の匂いがした。
「ギャギャギャッツ!」
ゴブリンが何体もおり、数えることができない。
「この前、駆除したばかりなのに……。他の場所に集落があったのか」
「来年はこっち側に魔素が集中しているのかもしれませんね。そのせいで、魔物が大量発生している可能性はあります」
ミルは身構えながら言った。
「なるほどね……。とりあえず、駆除していかないと先に進めない。片っ端から狩っていくよ!」
僕は背中にあるフルーファの柄を握り、横から引き出す。そのまま、構えた。
「ゴブリンを殴るのは嫌なので、切らせてもらいます!」
ミルは片手剣を持ち、腰に掛けていたバックラーを左手に持つ。
「ギャギャギャッツ!」
大量のゴブリンは僕達に気づき、視線をこちらに向ける。黒い大きな瞳がつり上がって細くなると、叫びながら、迫って来た。
「ギャギャギャッツ!」
八体が僕に攻め込んでくる。
「ふっ!」
僕はフルーファを横に振るい、首か頭を切り飛ばす。突風が巻き起こると、ゴブリンの攻撃が一瞬止まり、ミルが突っ込んだ。
「おっら!」
ミルはゴブリンをバックラーで殴り、ひるませたところを狙って首を切る攻撃や隙間を塗って移動し、首を切り割いていく。拳でなくとも十分動ける姿を見るに、やはり戦いの才能がある。
僕はミルに攻撃が当たらないよう、注意しながらフルーファを振るった。
三〇分ほど経った頃、視界に見えるゴブリンは殲滅した。魔力視を使い、当たりを見ると緑色の魔力がぽつぽつと残っている。
ゴブリンで間違いない。
一体でも残すとまた増えだす。そうならないために僕は地面に転がっているゴブリンが持っていたサビたナイフを拾い上げ、投げる。隠れていたゴブリンの頭部に直撃し、倒れた。それを見た個体が、逃走を図る。
僕はナイフや棍棒を拾い、逃げるゴブリンを全て始末した。
「このままにしておくわけにもいかない……。他の魔物が寄って来てしまう」
僕達はゴブリン達の死骸の右耳を切り取り、体はアルブに食してもらった。嫌そうだったが渋々食い尽くしてくれた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ついた」
僕たちはドマリス・テイルズ男爵が収める村にやって来た。周りの柵が壊され、兵隊たちが倒れている姿が見える。
「ミル、村の中にいる魔物は何?」
「ゴブリン達だと思います。でも、さっきと同じように数が普通じゃないです」
ミルは耳を動かし、大量のゴブリンがいることを知らせてくれた。
「じゃあ、すぐに駆除に取り掛かるよ。多分、ドマリスさんが病気になっている間、村の近くにいる魔物の駆除がちゃんと行われていなかったんだと思う。ゴブリンが増えて、襲いに来たんだ。でも、あれだけ多くのゴブリンを従えられる魔物がいると言うことは確実だね」
「そうですね。早速行きましょう」
僕たちは村の中に飛び込む。柵が破壊され、魔物が好きなだけなだれ込んできてしまう。その前に、ゴブリンを駆除しなければ……。
僕達は視界に映るゴブリンを駆除していく。村人は今のところ見当たらず、家の中で隠れているのだろう。そうだと願いたい。
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