手が速い
僕はイリスちゃんと婚約させられた。加えて、大量の領地を渡された。開拓していないとは言え、他の領土と並ぶくらい広い土地だと言う。
面ではドロウ家の領土と言うことになっており、世間に公開されないようだ。他の者の進行を受けたり、僕の身に危険が及ぶと言ったことは無いそう……。
国王を助けたら、思ってもいなかったほど出世してしまったらしい。まあ、国王も知らぬものに領土を渡して力を付けさせるより、自分が知っていて動かしやすい者に持たせた方が操りやすいと考えてのことだろう。
国王の手の平の上で転がされているような気分になる。加えて、僕は国王に良いように使われている。
――まあ、イリスちゃんが嬉しそうならいいか……。
僕とイリスちゃんは王の間から出た。
「はわわ……。私、キース君の妻になっちゃうんだ……」
イリスちゃんは両頬に手を当て、満面の笑みを浮かべていた。
「えっと、イリスちゃん。話が急展開だけど、これから、よろしく」
「うん! えっとえっと、私、良い妻になるためにもっともっと勉強する! すぐに結婚したいところだけど、テリア姉様くらい良い女になってから結婚する!」
「はは……。まあ、僕は領土を回る予定だから、時間はあるよ。とりあえず、イリスちゃんが他の国に行く必要が無くてほっとした」
「私も安心したよ。ほんと、変な貴族に行かなくてよかった」
「じゃあ、僕はスージア兄さんがいる家に戻るよ。また手紙の返事を送る。五年分の思い、ちゃんと書くよ」
「うんっ! じゃあ、五年後に結婚しよう!」
イリスちゃんは手紙を全部受け取るまでの時間、花嫁修業に勤しむと言う。その間、仲を深めればいいか。
僕は午後七時頃、スージア兄さんの家に帰った。
「ああ、キース、お帰り……って、へ? それ、男爵の記章……」
スージア兄さんはフラーウス領の使者たちと話し合っていた。僕の姿を見た途端、目を点にして固まる。
「えっと……。わけあって男爵の爵位を受けたあげく、イリスちゃんと婚約させられた……」
「は、はは……。そう来たか……。国王も手が早い……」
スージア兄さんは顎に手を当て、苦笑いを浮かべていた。
どうやら、スージア兄さんは僕を家に戻して使う算段だったようだ。使うと言ったら聞こえが悪いが、ドロウ家の傘下になることで安全を保障できるのに加え、権利も使える。
移動やその他諸々優待者となるだろう。でも、僕が独立してしまったため、取り込むことは簡単じゃなくなった。まあ、僕が貰った領土はドロウ家の領土だったので、関係はたいして変わることは無い。
「キースさんが貴族に……。じゃあ、ぼくも貴族になっちゃったわけですか……」
ミルはエプロンを付けた状態で僕のもとにやって来た。
「まあ、形式上、そうなるかな。でも、まだ公にはされないから、前と何ら変わらないよ。安心して」
僕はミルの頭を撫でた後、ただいまのキスをする。
その後、シトラのもとに向かい、ただいまと言うと彼女は頬を赤らめて軽くキスしてきた。何も言わないが、尻尾が揺れているので気分は悪くなさそうだ。
「これから、どうなるんですかね……」
フラーウス寮の使者が呟いた。
「国王が健康体になられた。今の政策を見直し、即改善されるはずだ。あなた達は王に謁見し、書状を貰ってすぐにフラーウス領に返るんだ。情報が届いているかもわからない。最悪、今、鬱憤が爆発しても何らおかしくない状況だ。俺もすぐに手を打つ。市民の不満が爆発する前に、領内の鬱憤を静めるんだ」
スージア兄さんはことの改善案を使者に的確に言う。
「わ、わかりました! 皆、今すぐ行くぞ!」
「了解!」
部屋の中にいた使者たちは夕食をたらふく得た後、王城に向っていった。
部屋の中に残ったのは僕とスージア兄さん、テリアさん、ミル、シトラの五名。
「はぁ……。どうやら、こっちの方はギリギリ間に合いそうだ」
スージア兄さんは暖かい紅茶を飲みながら、一息ついていた。
「皆さん、自害しようとしていたんだよ。どれだけ追い詰められてるの?」
僕はスージア兄さんに訊いてみた。
「まあ、ビオレータ第一王女の政略だ。以前はルフス領が標的だったんだが、ブラックワイバーンが討伐されルフス領から金が一気に動いた。そうなったら必然的に下位争いをしていたフラーウス領が狙われたと言うことだ。あの領土より待遇が良いと言う気持ちは領民にとって必要不可欠。そんな考えが彼女に合ったのだろう。だが、度が過ぎていた」
「なるほど……。どの領土よりも下に見せるようにしていたわけか。他の領土に多少きつい要請を出しても、フラーウス領よりましと言う気持ちにさせる結果になったのか」
「国王は政略が上手かった。ルフス領も決して落ちぶれず、ちょうどいい塩梅で調節していた。だが、ビオレータ第一王女に政略の才が無かった。その結果、たった一年で国力が大幅に衰退してしまったんだ。まあ、俺の計算だと、数年前と同じ状況に立て直すのに一〇年は掛かるかな」
「ええ……。たった一年の負債で一〇年も……。相当、酷かったんだね」
「ビオレータ姉様は昔から何をやっても優秀で悪い部分なんて全く無かった。でも、そんな周りからの期待が姉様を変えてしまったのよ……」
テリアさんは視線を落とし、呟いた。
「ま、キースさんは気にしなくてもいいですよ。国が滅んだとしても、己の強さがあれば生きていけます! ぼくは山の中でだって生きていけますから!」
ミルは僕の前に料理を運び、元気よく言った。
「はは……。国が無くなったら、お金の価値が無くなっちゃうよ」
「ぼくはお金につられてキースさんと結婚したわけじゃありませんからね! キースさんの心に惚れたから結婚したんです! お金があろうとなかろうと、昔を思い返せば余裕で乗り越えられますよ!」
ミルの精神はスージア兄さんやテリアさんを驚かせるほど強かった。彼女の精神力の強さはとてつもないと知っている。でも、はっきりと言われると心強い。
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