非道な行為
「おらああああああああっ!」
リュウズの大振りがスージア兄さんの顔に当たった。
「ぐっ!」
スージア兄さんは吹っ飛び、地面を転がった。
「くっ……」
リュウズは膝をつき、力が抜けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。リュウズ兄さん、俺は勝たせてもらう」
スージア兄さんはすぐに立ち上がり、拳に力を入れた。そんな時だった。
「は、はは……。ここからは二対二の戦いに変更だっ!」
スージア兄さんの後方に立っていたのは刃物をスージア兄さんの背後から突き刺し、完全に気が狂っている男だった。
「ぐはっ!」
スージア兄さんは口から血を吹き出し、膝をつく。
「ち、父上、何を……」
リュウズも予想外だったのか自分が信じてきた父親が弟を刺した場面を目撃し、言葉を失っていた。
そんな場面を見た僕は……いつの間にか、闘技場の上空にいた。
「ふざけるなぁあああああ!」
僕は出したこともないような雄叫びを上げ、握り拳を作り、魔力を溜めた右拳を思いっきり引き、ドロウ公爵の前に出てきた。
「白髪の出来損ないが! 『藍色魔法:反射』」
ドロウ公爵は詠唱を放つ。
僕はお構いなしに無色の魔力をふんだんに溜めこんだ拳をドロウ公爵の顔面に打ち付ける。
「ははははっ! 貴様の拳がわれに届くわけなかろうが! ん……?」
僕は藍色の魔力を吸いながら拳を押し出し続ける。魔法陣から藍色の魔力を全て吸いつくすと、拳に溜めていた無色の魔力が藍色の魔力に染まる。
「『藍色魔法:斥力』」
僕が詠唱を発すると拳の藍色の魔力が反応し、魔法陣が出現。加速した拳がドロウ公爵の顔面に突き刺さるように当たり、豚のように太った体が闘技場の壁に弾き飛んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。スージア兄さん!」
僕はスージア兄さんのもとに駆け寄り、腎臓付近に突き刺さった剣を見る。治そうと思えば治せるが、周りに多くの眼があった。
「私が見ますっ!」
緑色の勇者が王族の護衛をせず、闘技場に入って来た。そのまま、リュウズ兄さんの傷口に触れる。
「『緑色魔法:回復』」
緑色の優しい光が傷口に当てられる。緑色の勇者は右手で回復しながら、左手で剣を引き抜いて行った。傷を治しながら剣を引き抜いているため、大量の出血はなく、スージア兄さんの命に別状はなさそうだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、ありがとうございます……」
スージア兄さんの体にあった傷は無くなり、回復していた。
「どういたしまして。では、もう一方にも同じ魔法を掛けてきます」
「はい。よろしくお願いします」
緑色の勇者はリュウズの方にも全く同じ量の魔力を使って体を回復させようとする。そうなると、大怪我を負ったスージア兄さんの方が不利だ。
だが、リュウズは顔をしかめていた。地面に落ちている剣を拾い、スージア兄さんと同じ部分に剣を突き刺した。
「ぐふっ!」
リュウズは口から血を吐き、痛みに苦しんでいた。
「ちょっ! 何をしているんですか!」
緑色の勇者はリュウズのもとに駆け寄り、全く同じ回復を行う。
「これで平等だ……。あのまま勝っても、負け惜しみなんて言われたくないからな……」
「ふっ……。やっぱり、俺はリュウズ兄さんを尊敬するよ……」
両者の戦いは先ほどと同じ状況に戻った。緑色の勇者と僕はすぐに退出する。
両者の戦いにいきなり入り込んできたドロウ公爵は観覧席の石壁に埋まり、気を失っていた。元から馬鹿だと思っていたが、あんな行為が許されるわけがない。さすがに馬鹿でもわかるはずだ。
僕は気絶しているドロウ公爵のもとに足を運び、顔面が崩壊した男を見る。
魔力視を使い、ドロウ公爵を見ると頭に紫色の魔力が残っていた。
「この魔力……。べニアさんの脳内にあった魔力と同じだ……」
僕は特別席の方に視線を向けた。すると、ビオレータと目が合い、舌打ちが聞こえてくるようだった。
――あの女、どこまで非道なんだ。
ドロウ公爵なら、ギリギリしてもおかしくない行動であり、周りの者はすでにスージア兄さんとリュウズの殴り合いを見て一喜一憂している。
ドロウ公爵の脳内に魔力を残しておけば、また何をしでかすかわからないため、吸い出しておいた。体外にすぐに出し、消し去る。
「はぁ……。決闘後、何かあるだろうな……」
僕はスージア兄さんとリュウズの戦いを見る。拳と拳の打ち付け合いで、互いに譲らない攻防、どちらの顔も青あざだらけで、一歩も譲らない。
両者を虜にしてしまったテリアさんはずっと祈り続けており、戦いを見ていないようだ。その姿は戦いの行方を願う女神のようで、両者が惚れてしまうのもわかるくらい美しかった。
長い長い殴り合いの末、リュウズは仰向けになって倒れ、スージア兄さんは息を荒げながら立っている。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ほんと、倒れねえな……」
「はぁ、はぁ、はぁ……。ほんと、諦めが悪いよ……」
「スージア、俺は……お前に勝てない。だが、テリアを愛する気持ちはお前にも負けていない……。だから、負けたつもりはない……。ただ……、今の俺じゃテリアは守れない……。何があっても、守ってやってくれ……」
「もちろんだ……」
スージア兄さんははっきりと言い切った。
リュウズは少しだけ微笑んだのち、気を失った。
するとビオレータはあくびをしながら聖なる鐘を鳴らし、決闘が終了した。
「勝者、スージア・ドロウ」
国王はスージア兄さんの名前を読んだ。
スージア兄さんは倒れたリュウズの肩を持ち、立ち上がった。
「スージア様……」
テリアさんは地面に踏み入り、スージア兄さんに抱き着く。すると、リュウズはもう気を取り戻したのかスージア兄さんから離れ、反対側に歩いていく。
「キース……。感謝する」
リュウズは僕の方を一度見て、ドロウ公爵のもとに向かった。
「リュウズ、スージア、テリア、ドロウ公爵は王城の中に入り、王の間に集まるように。キース、イリスは王城内で待機せよ。他の者は解散」
国王は声を張り、言葉を放った。そのまま、立ち上がり、緑色の勇者の手を持ちながら特等席から移動する。名前を呼ばれた者はすぐに王城に向かった。すぐにと言っても、よたよた歩きだった。
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