魔動式鎧の暴走
「『藍色魔法:反発』」
リュウズは一瞬で消えた。移動速度が早すぎて目で追えない。
「『藍色魔法:斥力』」
リュウズはスージア兄さんの後方に移動し、拳を引き、打ち込んでいた。
「ぐっ!」
あまりに強力な一撃でスージア兄さんは吹っ飛び、地面を転がる。だが、一瞬だけ、同じ魔法を使ったのか、大きな傷は負っていない。やはり魔法の使い方が上手い。
「リュウズ兄さん、声が聞こえてる?」
スージア兄さんはリュウズに話しかけていたが相手からの返答はない。
「主、あの鎧が魔力暴走しています。まさか、違う色の魔力を同じ場所に止めるだけで魔力暴走が起こるなんて。そんなことがあるんですね」
アルブは僕の肩に乗り、教えてくれた。
「やっぱり、そうなんだ。なら、どうやって止めたら良いんだろう……」
「鎧から魔力を出させるか、破壊するかが一番有効そうな手段ですね。このまま行くと、来ている人間が魔力を吸いつくされるかもしれません。最悪、爆発してしまうかも」
「でも、今は決闘中だから、僕は手出しできない……、スージア兄さんにどうにかしてもらうしかない……」
僕はリュウズの様子がおかしいので、スージア兄さんの声を掛ける。
「スージア兄さん、リュウズの魔動式鎧が魔力暴走してる! そのせいで、必要以上に動いているんだ。大量の魔力が奪われてるから、このまま行くとリュウズが干からびる!」
「魔力暴走、そう言うことか……」
スージア兄さんは僕の話しを聴き、状況を理解したのか戦いの仕方を変えた。
今まで、リュウズの手持ちを使わせながら粘っていたところを一気に攻め立てる。どうやら、魔力暴走を上からねじ伏せ、鎧を破壊する作戦らしい。
「ルークス流剣術、イエロー連斬!」
スージア兄さんは稲妻のように大地を駆け、リュウズが着ている鎧に打ち込んでいく。魔動式鎧は無数の傷を負い、確実に破損しかかっていた。
だが、魔動式鎧もしぶとく、粘ってくる。なんなら、リュウズよりも上手く動けている。
僕は、魔動式鎧が簡単に魔力暴走するのかと疑問に思った。
安全装置とか不具合による停止とかが起きるんじゃなかろうか。決闘中は調べる方法が無いので憶測でしかないが、リュウズに魔動式鎧を着せた者が何かしら企てたんじゃ……。
あまり考えたくないが、リュウズが気を失った時、魔力暴走するようにしてあったとか……。
僕は反対側にいる太った男を睨む。あの男が企てていると言っても不思議じゃない。魔動式鎧に何かしら細工しているのだとしたら……。そう思うと、リュウズが不憫に思えてきた。
「このまま行くと、スージア兄さんの方が危険なんじゃ……」
僕はドロウ公爵にとってリュウズは何よりも大切な長男だ。死なせるとは思えない、なら、本当に事故……。どうだろう、スージア兄さんに危険を与えるための魔道具だったら……。
僕よりスージア兄さんの方が何倍も頭が良い。なら、スージア兄さんが考えた作戦をした方が良いに決まっている。
僕はスージア兄さんが少しでも危険がないよう、魔力視で魔動式鎧に注意を向けていればいい。何か大きなことが起こる時は魔力が膨大になるはずだ。
「『藍色魔法:増幅』」
魔動式鎧の魔力が増えた。あまりにも膨大になっている。このままだと、弾けそうだ。
「スージア兄さん、このままだと鎧が弾けるかもしれない!」
「く……。なら……」
スージア兄さんは剣を構えた。
「『橙色魔法:身体強化』」スージア兄さんの体に橙色の魔力が纏われる。
「『黄色魔法:細胞活性』」スージア兄さんの体に黄色の魔力が走る。
「『藍色魔法:軽重歩行』」スージア兄さんの脚に藍色の魔力が纏う。
スージア兄さんは一瞬だけ使っていた三種類の魔法を一気に使い、リュウズの移動速度を超え、目の前に移動した。やはり全開だと目で追うことは不可能だ。
「ルークス流剣術、奥義、ニガレウス撃流連斬!」
スージア兄さんはルークス流剣術の奥義なる技を見せてくれた。
マゼンタ撃斬の力強い踏み込みとシアン流斬の流れるような腕の振り、イエロー連斬の光かと思うほど速い動き、そのすべてが完璧に出来ており、リュウズが着ていた魔動式鎧だけが切り刻まれ、リュウズから抜けるように飛んで行く。
リュウズから魔動式鎧が外れると巨大な爆破が起こり、闘技場に黒煙を生む。あまりに大きな爆風だったので、リュウズとスージア兄さんは共に爆風に呑み込まれた。
黒煙が晴れると、飲み込まれた二名が地面に這いつくばっている姿が見える。
どちらもまだ、動いており、負ける気は無いようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。な、なにが起こったか知らないが……、ボロボロだな……」
「はぁ、はぁ、はぁ……。誰のせいだと思ってるのさ……」
リュウズとスージア兄さんは互いにボロボロだった。
「おらっ!」
リュウズはもう、動けるような体じゃないのに立ち上がりスージア兄さんの顔を思いっきり殴った。
「ぐはっ! 負けられるかっ!」
スージア兄さんはリュウズに殴られながらも反撃の拳を打ち込む。
「ぐふっ!」
リュウズは顔面を殴られ尻もちをついた。
両者共に剣を持てるだけの体力が無く、拳で殴り合うことしかできないらしい。
「お前ばかり良い汁を吸いやがって……」
「俺はリュウズ兄さんがいたから、努力してこれたんだ。リュウズ兄さんがいなかったら、何も成し遂げることなんて出来なかった」
「お前と何度も比べられて……、何度惨めな思いをしたか……。数えきれない……。唯一の光まで奪いやがって……」
「俺は奪ったわけじゃない、心から好きになった相手がテリアだったんだ……」
「くっ……」
リュウズは立ち上がり、ふら付きながら拳をスージア兄さんに向ける。だが、攻撃は当たらず、容易く回避された。だが、諦めることなく、攻撃を繰り返す。
周りから見たら見っともなく見えるかもしれないが、リュウズの本気度が伺えた。今まで、ドロウ公爵の言いなりで生きてきた男が、今は自分の意志で戦っている。それだけテリアさんを愛してしまったのだろう。
もっと早くから動いていればなんて言っても遅い。リュウズは動くのが遅かった。だから、負けたんだ。
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