懸念していたこと
リュウズは巨体なのに一瞬で移動し、スージア兄さんの体を連続で殴っていく。
どうやら、魔法で加速や減速を制御しているらしい。そこまで魔法を使いこなせたのか。
「おらっ!」
リュウズの拳はスージア兄さんの顔に吸い込まれていく。
「ぐふっ!」
スージア兄さんは顔面に拳を食らい、吹っ飛んだ。
「スージアさん、なんで躱さないんだろう……」
ミルは二名の戦いを見ながら呟いた。
「躱したくても躱せないんだと思う。拳と顔が引き合ってるんだよ。スージア兄さんも魔法を使えば効果を打ち消せると思うけど、魔力が無くなったら、終わりだ。簡単に使えない」
「ほんと、厭らしい手を使ってくるわね。ねちねちしてて相手にしたくない戦い方だわ」
シトラはリュウズを見ながら目を細める。
――時間が経てば経つほど、リュウズの方が有利になる。早く決めないとどんどん追い込まれる。でも、どんな攻撃をしてくるかわからないから、対策の使用が無いのか。
「『黄色魔法:雷撃』」
リュウズは『藍色魔法:異空間』から魔導書を手に取り、魔法を放った。
魔導書から魔法を放つ利点として詠唱で放つよりも大きな効果を発揮する。魔力を流すだけで使えるので、ここぞと言う時に発動させるのが良い。
魔導書が発動した瞬間、地面に電撃が走る。闘技場の上空に発生した黒雲から雷が落ち、スージア兄さんに襲い掛かる。
リュウズの魔力が無くならない限り試合場にいるスージア兄さんは雷の攻撃を受け続ける。一度でも受けたらただでは済まない。リュウズは魔力で身を守り、雷が頭上に落ちても地面に流れていく。
魔力視でよく見たら魔力が循環し、リュウズの魔力が減っていないとわかった。
――準備力が違い過ぎるでしょ……。このまま、スージア兄さんが……。
僕は心配になり、テリアさんの方を見た。両手を握りしめながら祈っている。きっとスージア兄さんが勝ってくれると信じているのだろう。
僕は息を整えながら冷静になる。僕たちがどれだけ願っても結果はスージア兄さんとリュウズにしか決められない。
――僕はただずっと願い続けるのみ。
リュウズは魔導書を大量に使い、スージア兄さんを追い詰めていく。だが、スージア兄さんは全て上手く回避し、受け流していた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。やるね、リュウズ兄さん」
「ちっ……。舐めたことを言いやがって……。逆にここまでやって、なんで攻めきれないんだ」
リュウズは焦りが見え始めた。魔導書は一度切りで、使い終わるとただの本になる。また、魔法を組み込めば再使用可能だが、決闘中に行えるわけがない。
「くっそ!」
リュウズは魔導書を使い切ったのか異空間から剣を取り出す。どうやら、スージア兄さんに剣術で挑むようだ。今までの魔法が剣一本で全ていなされている状況なのに、あまりにも無謀だ。
「『橙色魔法:身体強化』」
リュウズは魔動式鎧に魔法を付与し、力を底上げする。鎧内で魔力を循環させれば余計な魔力を使わずに安定して力が出せる仕組みらしい。
身体能力を上げた後、スージア兄さんと剣の打ち合いを始める。
どうも、見かけは悪い。何というか、剣の打ち込みをしているようだ。でも、一撃一撃が重いのか、スージア兄さんは受け流すよりも躱している。
リュウズが動くたびに体型が変わっていく。太っていた体が痩せていき、雰囲気がスージア兄さんに似ていた。やはりちゃんと兄弟だったらしい。体が痩せると、移動速度や攻撃速度が増した。魔力過多の状態だったから、魔法を使って痩せているのだろうか……。
理屈はわからないが、スージア兄さんが押されているのはわかった。
「はあっ、おらっ、せいやっ!」
リュウズはスージア兄さんに何度も切り掛かる。
「はあっ、おらっ、せいやっ!」
スージア兄さんもリュウズに切り掛かる。
剣同士がぶつかり合い、激しい火花が散っていた。いい剣を使えばそれだけで有利になる。スージア兄さんの剣は使い込まれた専用武器。リュウズの剣は明らかに輝きが違い、名工が作った専用武器だと思われる。
専用武器が作れるのは本当にすごい鍛冶師のはずだ。いったいいくらしたんだろうか。
時間制限はなく、続けようと思えば永遠と続けられてしまう。見ている方も疲れてくるため、周りの貴族は寝ている者もいた。
スージア兄さんの圧勝で終わるかと思っていたのに、すでに三時間以上決闘を続けており、ここまで長い試合を見た覚えはない。まあ、戦った覚えはあるけど。
剣の技術は明らかにスージア兄さんの方が上だ。でも、今、使える手数はリュウズの方が多い。身体強化の影響か、魔動式鎧の防御力も上がり、スージア兄さんの剣を弾いていた。
「おらっ!」
リュウズはスージア兄さんに蹴りを入れ、弾き飛ばす。
「くっ!」
スージア兄さんは腕で蹴りを防ぎ、軽い吹き飛びですんだ。
「『黄色魔法:細胞活性』」
リュウズはスージア兄さんが吹き飛んだあと、魔法をすぐに発動した。橙色魔法と黄色魔法の重ね掛けでリュウズの動きがさらに早くなる。
スージア兄さんは魔力消費を抑えるため、体の一部でしか魔法を使用していない。逆にリュウズは魔動式鎧の影響で全身に魔法の効果がある。
魔法を同時に使えばその分、大量の魔力が減る。なのにリュウズの魔動式鎧は魔力を循環させ、消費を抑え込んでいた。ただ、橙色の魔力と黄色の魔力が魔動式鎧の中で混ざり合ってしまった。
僕が懸念していたことが、リュウズに起こるのではなく、外付けの魔動式鎧で起こってしまう可能性がある。
そう思い、魔力視で鎧を見ると二色の魔力が違う濃度でぶつかり合っていた。混ざり合うことは無く、割り合いが悪い。
「ん……。なんだ……」
リュウズは魔動式鎧の様子がおかしいと悟った。
「はあっ!」
スージア兄さんはリュウズが一瞬ひるんだ瞬間を見逃さず、一瞬だけ魔法を発動し、大きな攻撃を胴体に加えた。
「ぐはっ!」
リュウズは弓なりにしなりながら、弾き飛ぶ。地面を盛大に転がりながら、痛みにより意識を失ったのか、動かない。
気を失っても負けの条件になっているので、スージア兄さんの勝ちとなると思ったが、リュウズはすぐに起き上がった。だがリュウズ本体に意識は無く、もうろうとしていた。
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