印象と違う男
「お父様、テリアはリュウズと結婚させるべきです。恋だ愛だなんて王族には不要。家柄と血の強さこそ最も評価するべき事柄です」
「テリアとスージアはもとから婚約していた。間に入って来たのはリュウズの方だ。あとだしにも拘らず、愛する女性を奪われたらスージアとて黙っている訳がなかろう。ビオレータよ、お主は怒ったスージアを止めてくれるのか?」
プルウィウス王は拝みながら隣に座るビオレータに呟いた。
「藍色の勇者を凌ぐと言われている男に勝てると思うほど奢っていないわ。あんな天才、私は大嫌いよ。はぁ、何秒で片がつくかしら……」
「そうだなぁ。数時間は掛かるだろう」
「はい? そんな馬鹿な。あのデブ野郎がスージアに善戦するとは思えませんが」
「愛の力とは思いもしないくらい強いものなんだ。リュウズがテリアを本当に愛しているのなら、相手が天才とて結果は誰にもわからんよ」
「弟に全てを奪われた男、愛の力で天才から愛する者を奪い取る。ふっ、出来たら手を叩いてあげるわ」
ビオレータは僕の方を見た。すると、ものすごく嫌な顔をされた。
後方に緑色の勇者の女性が立っており、プルウィウス王とビオレータを護衛している。ド緊張しており、責任重大だと心得ているようだ。
「午前八時を回った。決闘の時刻だ。決闘に参加する者以外、土に足を踏み入れてはならぬ」
プルウィウス王は右手を上げ、声を張る。回復したばかりだと言うのに、張りがある声で広い会場に響き渡った。
「スージア様、信じております」
テリアさんはスージア兄さんに抱き着き、すぐに離れた。
「ああ。必ず勝つ」
スージア兄さんの表情は凛々しく、不安を一切感じさせない。
試合場に立っているのは完全防備のリュウズと軽装備のスージア兄さんだけとなった。
記者や他の貴族も闘技場に足を運び、戦いの行方を見ていた。こんな家柄問題を見て、楽しいのか知らないが、今は周りのことなんて気にしていられない。
目の前の相手に勝つしか愛する者を手に入れることができないのだ。
もし、僕がシトラを掛けて戦わなければならないのなら、相手がスージア兄さんだろうと全力を出す。勝ちたいに決まっている。この中で違う考えをしている者と言えば、ドロウ公爵だけだろう。
家督は長男が継ぐ。だからこそ、地位を少しでも保つためにプルウィウス王国の第二王女が欲しいのだ。次男が結婚しても意味が無い。
三名の姫の結婚相手になれなかったリュウズは別の貴族の娘と結婚するしかないだろう。血統を重んじる者として王族の血がどうしても欲しいと考えているはずだ。
あの男は自分が良い思いをすることしか考えていない。それ以外はどうでも良いのだ。
他国から嫁いできた母さんを無碍に扱い、実の子である僕すらゴミのように扱って来た。シトラを見つけたら蹴飛ばし、ガラス食器をぶん投げる始末。今思い返すだけでもはらわたが煮えくり返りそうだ。
「スージア、リュウズに負けろ。なぜおまえはわしの言う通りに出来んのだ! リュウズ以上の成果を出すなとあれほど言っただろっ! お前はリュウズの代わりでしかない! ドロウ家の繁栄のため、ここで潔く勝利を手放せ!」
ドロウ公爵は叫ぶ。国王がいるのに、なぜあのような醜態を晒せるのだろうか。
「ふぅ……。父上、俺はリュウズ兄さんの代わりじゃありません。俺はスージアと言う人間なんです。俺は決闘に必ず勝たなければならない。俺の存在を認めてくれた彼女の為にも、必ず勝ちます」
スージア兄さんは左腰に掛けられている剣の柄を持ち、中央まで向かう。
「ぐぬぬぬ……。親不孝者が……。リューズ、スージアを殺してでも勝て!」
「ドロウ公爵、それ以上口を開けば、決闘中の不正行為と見なす」
プルウィウス王はドロウ公爵に向って言い放った。
「ぐ、ぐぅ……」
ドロウ公爵は口をつぐみ、押し黙る。あまりにうるさかったので、国王に感謝しなければ。
リュウズとスージア兄さんは試合場の中央付近まで移動した。
「ただいまより、リュウズ・ドロウ対スージア・ドロウの決闘を開始する。どちらかが気絶、又は死亡、敗北を認めた時、勝敗を決定する。私が鐘を鳴らすのを合図に決闘を開始せよ」
ビオレータ第一王女は立ち上がり、聖なる鐘なる由緒正しき鐘がついている場所に移動する。特等席に付いており、王族が試合の合図を送るための鐘だそうだ。初代国王もあれを鳴らしていたんだと思うと、感慨深い。
ビオレータは八〇センチメートルほどの鐘がある場所に移動し、金づちのような小道具を持つ。そのまま、聖なる鐘を一度鳴らした。闘技場全体に響き渡る心地よい音色が鳴ると試合場にいる二名の雰囲気が一変する。
「『橙色魔法:身体強化』『黄色魔法:細胞活性』『藍色魔法:軽重歩行』」
スージア兄さんは魔法を三重掛けして、目にも止まらず速さでリュウズの前に向かう。
剣を振りかざし、即勝利を掴みに行った。
「『黄色魔法:パラライズ』」
リュウズは全身の魔動式鎧に電気を帯び察せる。そのまま、スージア兄さんの剣を掴みにかかる。
「くっ!」
スージア兄さんは身が硬直することを恐れ、一瞬で後方に回避。
「どうした。すぐに決めるんじゃなかったのか……」
「いつもながら厭らしい魔法を使いますね」
「俺はお前の性格を誰よりも熟知している。幼少期から今まで負け続けてきた。だが、ここで一勝をもぎ取る!」
リュウズは本気で勝ちに来ていた。
僕はあの男との接点があまり無い。いじめられていた覚えが無ければ、罵られていたわけでもない。ずっと下に見られていたと言うぐらいの印象しかないが、テリアさんのためにスージア兄さんに果敢に挑む姿勢は僕が知っている者とかけ離れていた。
「小細工を打たれる前に攻撃する」
スージア兄さんは呼吸を整えた。
「『青色魔法:煙霧』」
会場が白い霧に包まれ、視界が真っ白になった。
僕は魔力視を使い、青色の魔力の中にいる二名の姿を見る。
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