決闘の前
「決闘はいつなの? 僕も力を貸すよ。回復薬と変えの剣、その他諸々……」
「今日……、もうすぐ……」
イリスちゃんは下を向きながら言う。
「えっ! 準備期間は!」
「終わっちゃった……。スージアさんに手を貸せば、公爵とビオレータ姉様から痛い目を見ると思った他の貴族は出資せず、準備期間をほぼ作らないで決闘に持ち込んだの。キース君も応援に来てほしいと思って呼びに来たんだよ」
「わかった。行くよ」
僕はイリスちゃんに言われ、出発する準備を整えた。
「シトラとミルはどうする?」
「私も行くわよ。スージア様を応援しない理由が無いわ」
シトラは服を着替え始める。
「ぼくも行きます」
ミルも服を着替え、やって来た。
「よし。じゃあ、行こう!」
僕達はスージア兄さんの決闘を見に、王城にやって来た。
「う、うわ、でっか……」
ミルは王城を見て、呟いた。あまりの大きさに度肝を抜かれたようだ。確かに超広い。家か疑わしいくらいに広く、入口から玄関まで一〇〇メートル以上あった。門の前に知り合いの顔が見える。
「キース様……。シトラを取り返したのですね。たった一年ほどで……」
黒い燕尾服を着ているオーリックさんが目を見開き、驚きながら呟いた。
「久しぶりです、オーリックさん。まさか、僕があなたの前にまた現れるとは思いませんでしたけど、スージア兄さんの戦いを応援しないわけにはいかないので、来ました」
「そうでしたか。見知らぬ顔もありますが、詮索は不要でしょう。では、こちらにお越しください」
オーリックさんは門を開け、庭の通路を歩き、大きな闘技場の前にやって来た。
ここは勇者順位決定戦を行う由緒正しき闘技場だ。巨大な柱が八本立っており、視線を上に向けないと全貌を確認できない。
僕達は闘技場の中に入った。一〇〇〇年以上前と作りが変わらないため、休憩場や通路などはほとんど無く、広い道を歩いていくと直径が二〇〇メートルはありそうな土の広間があり、五メートルほど上の方に観覧席が作られていた。
とても質素なつくりだが、この場でいくつもの名勝負が繰り広げられてきたのだろう。
初代プルウィウス国王が作ったとされる建築物で、未だに黒色の魔力が残っており建物の強度を増していた。魔力視で見るとぼんやりと黒い靄が掛かっている。この魔力のおかげで他の魔力を吸収し、建物の被害を無効にしているそうだ。さすがとしか言いようがない。
現代では再現不可能な闘技場と言われており、失われた生きる技術となっている。
「いいか、リュウズ。必ず勝て。勝てなきゃ、お前が生きている意味が無い!」
豚のように丸々太った藍色髪のドロウ公爵が大量の魔道具を身に付けたリュウズに話し掛ける。
「ああ、もちろん勝つ。なにもかもあいつに負けてきたんだ。愛する女性まで奪われて黙っていられるか……」
リュウズは藍色の短髪で、ドロウ公爵ほどではないが、丸っこい見た目をしている。
服装は完全防備の魔動式鎧を身に着けていた。攻撃と防御を同時にこなすことができる万能な魔道具だ。
実際に見たのは初めてで、どれほどの力を持っているのか未知な点が多い。
対するスージア兄さんは軽装備。左腰に剣を掛け、駆けだし冒険者のような服装をしていた。あまりにも差が大きく、スージア兄さんが不利の局面だ
「スージア兄さん。なんで、こんな不利な決闘なんか受けたの……」
「キース……。そりゃあ、リュウズ兄さんが本気だからさ。リュウズ兄さんはテリアを本当に愛していた。父上からの期待に応えようと努力もしていた。俺は努力するリュウズ兄さんを尊敬していたし、誇らしく思っている。そんな相手からの決闘を断るわけにもいかないだろう」
「お前が言うと、俺が才能の無い凡人みたいじゃないか……。何をしても勝てず、負け続けひそかに思いを寄せていた相手も取られ、俺に残ったものは弟の方が頭首に向いていると言う執事、侍女の噂話と醜い嫉妬心だけだ」
リュウズは藍色の瞳が黒く染まりそうなほど闇を抱えていた。ドロウ公爵からの重圧たるや、考えただけでも吐き気がする。そう思うと、リュウズも被害者なのかもしれない。
「ん……。白髪……。お前、なぜこの場にいる!」
ドロウ公爵は僕に気づき、大声を出した。
「なぜこの場にいるか、あなたには関係の無いことだ」
「きさま……。今のわしとお前の間には何の関係もない。何かしでかせばそく打ち首にしてくれる!」
丸々太ったドロウ公爵は額に血管を浮かばせながら、叫んだ。
僕は無視してスージア兄さんに話しかける。ウエストポーチに手を入れ、魔力暴走抑止薬を取り出す。そのまま、彼に渡した。
「スージア兄さん、これをリュウズに打てば魔力暴走を抑えられる。今、リュウズの魔力が物凄く不安定だ。何か異変を感じたらすぐに打ち込んだほうが良い」
「魔力暴走抑止薬……。ありがとう」
スージア兄さんは薬を受け取り、蓋を外して針を自分の腕に刺した。
「ちょ、スージア兄さん。なんで……」
僕はリュウズの方が危険だと思ったから渡したのに。
「これでちょっとは無理出来るだろ。相手の手札が切られる前に、倒す」
スージア兄さんの体内にある三原色の魔力が安定した。もう魔力暴走の恐れはないだろう。
「テリア。俺のもとに来い! 俺の方がお前を愛している! 今なら決闘を無しにしてやってもいい。スージアが大怪我を刷るところなんて見たくないだろう!」
リュウズはテリアさんに声を掛けた。
「すみません、リュウズ様。私はスージア様を愛しているのです。ここで、あなたのもとに行くわけにはいきません。ですが、この決闘であなたが勝利したのなら、私は潔くあなたと結婚いたしましょう」
テリアさんは軽く頭を下げる。
「……そうか。ならば、スージアに圧勝し、俺に惚れ直させてやる」
「この場でリュウズとスージアの決闘を行うことになるとは……。初代様、どうか、結末を見守りください」
観覧席の中でも最も会場が見渡せる特等席に傷が癒えたプルウィウス王が王座に座り、隣に不貞腐れながら足を組み、面倒臭そうな表情をしているビオレータが座っていた。
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