フラーウス領の状態
「キースさんの裸は大好物ですけど、他の人間の裸姿を見るのはほんと最悪です」
「同感……」
ミルとシトラは男たちを縛り上げ、一か所にまとめる。
「自決まで失敗となると、さてどうしたものか……」
ニットを取ると顔中傷だらけの男性が現れた。髪色はイエロー。他の者たちもイエローだ。皆、イエローだと王城付近で抗議していたフラーウス領の使者を思い出す。
「あなた達はフラーウス領から来たんですか?」
「話し終わった後、俺達を殺してくれるか?」
顏が傷塗れの男は言う。
「なにを言ってるんですか。殺しませんよ。僕は人殺しなんてしません」
「なら、俺達をどうするつもりだ」
「騎士団にでも送ろうと思います。でも、なぜ、こんなことをしたのか、理由を知らないと、また同じ目に合うかもしれません。何か困っていることがあるのなら、僕が聞きますよ」
「はっ……。白髪のガキが何を舐めたことを……」
「この家に来たと言うことは何か目的があるはずです。その目的は一体なんですか?」
「スージアさんに会いに来た。それだけだ」
「ちょ、隊長。話しても良いんですか!」
「俺達は死ぬ気でここまで来たんだ……。このまま、何の成果もなくおめおめと帰れるか」
「しかし……。この白髪に話したところで何も解決しませんよ」
「俺の自己判断だ。お前達は何も関係ない。気にするな。死ぬときは俺だけが死ぬ」
「スージア兄さんに会いに来た。なのに、捕まったら自決って、訳がわからないんですけど?」
僕は苦笑いを浮かべながら訊いた。
「俺達はフラーウス領から来た。使者の護衛と言う名目でな。そうでもしないとあの領土から出られない。他の行動をとったら原則死刑になる」
「領土間の行き来は自由だと思うんですけど……。そもそも、死刑って……」
「フラーウス領は冒険者以外他の領土に行き来することができない。他の領民からすれば別に領土に訪れようが離れようが関係ないが、フラーウス領に生まれた者は簡単に出て行くことができないんだ。出て行けば死刑。反抗しようものなら罰則……。あの領土はもう、牢獄と同じだ……」
フラーウス領の使者は歯を食いしばりながら言った。
「えっと、その話とスージア兄さんはどういう関係が……」
「お前はスージアさんの弟なのか?」
「まあ、今は違いますけど、一年前はそうでした」
「スージアさんは学生ながら外交でフラーウス領に来ていた。あの牢獄をどうにかしようと考えてくれていた者なんだ。プルウィウス魔法大学を卒業して本格的に取り組んでくれると思ったが、家柄問題に巻き込まれたらしく外交が遅れていた。領民の不満はたまる一方で、皆、我慢の限界だ」
「我慢の原因は?」
「ビオレータ女王陛下の政策だ。フラーウス領に嫌がらせ紛いな政策をとっている。今のままでは領土が崩壊してしまう。どうにかして改正してもらうために、ここまで来たが追い返された。スージアさんの情報をかき集め、藁にも縋る思いでここまで来たが出会ったのは白髪の青年と獣族が二名……。つまかりそうになったあげく、自決も失敗。これでは領土に帰っても死刑か、よくて禁固刑。何か成果を持ちかえらなければならなかった……」
「今、前国王が目を覚ましたと言う情報があります。以前まではフラーウス領も普通の状態だったはずです。きっと元に戻ります。スージア兄さんが帰って来たら話を聞きますし、そのままの状態で待っていてください。暖房は効かせておきますから」
薪を暖炉に入れ、部屋を暖める。
「じゃあ、シトラ、ミル。今日も各々好きなことをしよう。僕は鍛錬をしてくる」
「ぼくの好きなことはキースさんとイチャイチャすることなんですけど……」
「じゃあ、一緒に鍛錬しようか」
「は、はい!」
ミルは一瞬とまどったが、返事をした。
「私は家事を終わらせてから鍛錬をするわ」
シトラは朝食を作り、掃除や洗濯、皿洗いなどをそつなくこなしていく。
僕とミルは鍛錬を行い、体を訛らせない。昼食を得た後はシトラも鍛錬に参加し、橙色武術祭で優勝したからと言って怠けないよう己を鍛える。
王様を治してから三日目の夜。結局今日もスージア兄さん達は帰ってこなかった。
「う、うう……」
フラーウス領の使者たちは捕まっているわけだが、本体から分離しているわけで、彼らを殺しに来る可能性があると言う。役目を抜け、スージア兄さんに会いに来たわけだから、本当に死を覚悟しているのだろう。泣いている者もいるけど……。
「皆さん、この場に残りますか? それとも、逃げますか? 本体に戻りますか? 選んでください。皆さんが悪人ではないと魔力の流れ的にわかります」
「逃げ出せば、家族が殺される。この場に残っていてもな。戻ったら俺達が殺される」
「いったいフラーウス領はどうなっているんだ……。まあ、とりあえず、食事でもしましょう。お腹が空いていたら冷静な判断も出来ないでしょう。僕の能力もわかってもらえたと思いますし、無駄な抵抗はしないでください」
僕は使者の体を縛っていた縄を解く。服も着せ、シトラ特性の暖かい料理と大量の肉をごちそうした。
「ああ……。肉だ……」
使者は領土で肉も制限されていたのか、はたまた料金を制限されていたのか、わからないが、肉をがつがつ食した。美味しい美味しいと泣きながら食し、満腹になるまでおかわりする。
「感謝する……。死ぬ前に食した晩餐としてはあまりにも豪華だった……」
「まだ、死ぬと決まったわけじゃないですし、諦めないでください。国王がそのような無駄な死を容認するわけがありません。生きて帰れる方法があるかもしれないじゃないですか。本体の方も王と会話できていないはずです。なら、フラーウス領に返れない。まだ、あなた達が逃げたとしか思われていないわけです。報告されなければ、領土の家族は死にません」
「確かにそうだな。まだ、生きて帰れる可能性がある。なら、殺しに来る本体を止めれば、何とかなる」
使者たちの目に光りが戻ったような気がした。食事で気力を取り戻したようだ。
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