想いの証拠
「うん。なるべく早く終わらせてきた。これで、王様は生き延びるはずだよ」
「よ、よかった……。じゃあ、お父様が国王に戻ってスージアさんとテリア姉様の結婚を許せば長い間の家督争いは終わるね」
「そう思いたいね……」
「キース君、来て……」
イリスちゃんはシーツを持ち上げ、中に入るように命令してきた。
僕は靴を脱ぎ、イリスちゃんが眠るベッドに上がる。今の彼女は下着を着てくれており見ることができた。でも、下着姿でも十分厭らしく、視線のやり場に困る。
「ねえ、キース君。私とはしてくれないの……」
「なにを言ってるの……。そんなことをしたら、僕の首が飛ぶよ。イリスちゃんは僕を殺したいの?」
「だって……。私も普通の女の子みたいに恋したいんだもん……。始めては好きな人がいい」
「そんなこと言われたって……」
僕はあまりにグイグイ来るイリスちゃんに戸惑っていた。このままだとどこぞの誰とも知らない男と結婚させられる可能性があると考えたイリスちゃんの暴走は簡単に止まらない。
体の見せ合いっこをしようだとか、触り合いっこしようだとか、さすがに好奇心旺盛が過ぎると思い、距離を置くほかなかった。もっとしっかりと考えてもらわないと困る。
僕はイリスちゃんとの間に『無限』を作り、絶対に近寄れないようにした。
「な、なにこれ。キース君に近づけないんだけど」
「イリスちゃん。もっと考えて行動するんだ」
「もう、ずっと考えてきたよ。五年間は考えてるもん。私はキース君と結婚したい。出会った時、女の勘が直感したの。私の結婚相手はこの人だっ! て。ずっとずっと考えてるんだよ。キース君の手紙が届かなくなってから、嫌われたんだって思ってからもずっとずっと思い焦がれて……。私の思いが嘘だと思うのなら、証拠、見せてあげる」
イリスちゃんはベッドを降り、収納タンスを開ける。木製の箱を取り出すと蓋を開けた。
「これ全部、キース君宛てに書いた手紙。毎日一通書いて何してるんだろうって思いながら溜めてたの。いつか止めるんだろうなって思ってたのにさ、つい最近までずっと書き続けてた。これを見ても嘘だと思う!」
イリスちゃんは木箱をひっくり返し、二〇〇〇通を優に超える手紙が出された。あまりの数に僕は思いっきり引く。でも、同じくらい嬉しかった。僕は手紙を書くことを諦めてしまったけれど、彼女はずっと考えていてくれたんだと思い、胸が熱くなる。
「ふぅ……。イリスちゃん、今すぐに答えを出すことはできない。出来る限り考えさせてほしい。ここでパッとわかった結婚しようって言えるほど身分の差の問題は大きい壁なんだよ」
僕は床に落ちている手紙を拾いながら、ペタンコ座りをしているイリスちゃんのもとに向かう。
「うう……。わかってる。わかってるけど……。やっぱり私はキース君じゃなきゃ嫌……」
イリスちゃんは下を向きながら大粒の涙を流し、声を震わせる。
「イリスちゃん、顔を上げて」
僕はイリスちゃんの両頬に手を当て、顔を上げさせる。瞳に涙が溜まり過ぎてうるうるだ。
「イリスちゃんの思いを無碍にしない。僕も抗ってみるよ。男爵の爵位が取れれば、誰も文句は言わないはずだ」
「な……。き、キース君っ!」
イリスちゃんは泣き、僕に飛びついてきた。手に持っていた手紙がばらけ、辺りに散らばる。またしても彼女から熱烈な口づけを貰い、僕も軽く答える。
どれほどキスをしていたかわからないが、それ以上のことはしてない。でも、シトラやミルよりも確実に一番長くキスしていた。
朝日が昇り、僕と彼女は手紙塗れの床で抱き合い、寝ころびながら眠っていた。
「う、うう……。もう、朝か……。早く帰らないと」
僕はすやすやと眠るイリスちゃんを抱きあげ、ベッドの上に寝かせる。大量の手紙は後でじっくりと読ませてもらうことにして男爵になる方法を考える。
爵位なんて本当は要らないし、イリスちゃんの気持ちを静めるための半分嘘みたいな発言だった。王様が元気になり、イリスちゃんの発言を許可すれば、僕が貴族じゃなくても結婚させてもらえるかもしれない。もし、それが無理だったのなら、貴族の爵位を貰うのを視野に入れるべきだろう。
男爵の爵位を貰うために必要なことは土地を開拓し、王様に認めてもらう必要がある。簡単なことじゃない。
「はぁ……。僕もバカだな。考え無しの発言は自分も苦しめるわけか」
僕はイリスちゃんの手紙が入った木箱を持ちながら『無視』を使って王城を出る。そのまま、スージア兄さんの家に向かった。シトラとミルに心配をかけてしまったのがとても申し訳ない。帰った後、謝らないとな。
僕は家に到着し、扉を叩いた。鍵がガチャリと開くと、シトラが立っており、僕の方を顔を見てきた。
「イリス様とどこまで行ったの」
「キスまでかな」
「はぁ、ヘタレね。まったく、なんで王城から攫ってこなかったのよ」
「そんなことできるわけないでしょ。最悪僕が大犯罪者になっちゃうよ」
「まあ、いいわ。作戦は成功したの?」
「うん。成功しているはずだよ。まだはっきりとはわからないけど、傷は治してきた」
「そう」
シトラは僕を家の中に入れた。僕はテーブルの上に木箱を置き、一封の手紙を手に取る。
「これ、イリスちゃんが毎日書き溜めた手紙なんだって」
「えぇ……」
シトラも僕と同じくらい引いていた。
「嬉しいけど、ちょっと怖いよね……。こんなに書くことがあるのかっていうくらい大量だし、でも、読まないと失礼だ」
「これ、全部読むのにどれだけかかるのやら。まあ、毎日一袋だったら全然終わらないわよ」
「そうだね。でも一気に読むのももったいないし、一通読んだら一通返すくらいの気持ちで読むよ」
「どれだけ時間をかける気なの……」
「五年は掛かるかな」
「はは……。長い時間ね。でも、これだけ書き溜めるためにはそれくらいの日数は掛かっているわよね?」
「うん。だから、僕もそれくらいの覚悟が無いと駄目かなと思ってさ」
僕は一番古い手紙を見つけ、ナイフで蝋を切り、中身を見る。
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