王様の治療
「キース君、見て……。私は王族のイリス・プルウィウスじゃない。キース君を愛してるイリス・プルウィウスなの……」
「く……」
僕は悔しからず、右眼のみ開けた。そうすれば、イリスちゃんの裸体を見ることは無く、魔力だけを見ることができる。
彼女の青色の魔力が膨らみ、体を駆けまわっていた。どうやら、血圧が大分上がっているらしい。緑色の魔力と藍色の魔力の位置はさほど変わっていない。どうやら、寝室にいるようだ。
「キース君の眼、凄く綺麗……。キラキラで虹色に光ってるみたい」
イリスちゃんは魔力視について知らないからか、僕が見ていると思っているだろうか……。
僕が右眼を開けてから、すぐ、上階で緑色の魔力が増幅した。さすが緑色の勇者と言うべきか、大変大量の魔力ですぐにわかった。
だが『アロマセラピー』の魔法と共に、唇にまたしても熱い感触が襲う。もう、イリスちゃんは暴走していた。きっとビオレータがイリスちゃんに対して死んでくれればよかったのになんて言ったから、愛に飢えてるんだと、解釈する。
口の中に熱くて柔らかい何かが入ってくる。ミント味がしてすっとした。
「キース君とのキス……、パンの味がする……。お砂糖たっぷりの甘いパン……。もっとたくさん食べたくなっちゃう……」
「イリスちゃん、落ちついて。今はイリスちゃんのお父さんを治さないといけないんだ」
「……じゃあ、もう少しだけ、キス、させて」
イリスちゃんは僕の首に手を回し、唇を貪り食って来た。なぜ僕の周りにいる女性は皆、肉食系ばかりなんだ。
月明かりに照らされる銀色の線が伸び、イリスちゃんの大人びた表情をありありと見た後、僕は身を起こす。下半身が異様なほど反応し、痛いほどだったが無視する。
「キース君、ごめんね……。ちょっと、やりすぎたって自分でも思う……」
「気にしないで。もう、前国王がいる部屋はわかるからすぐに戻ってくる。いや、戻ってこない方が良いかな……」
「戻って来てくれないと、私、泣いちゃうから」
イリスちゃんはシーツで胸もとを隠し、言う。
「わかった、戻ってくるよ」
僕は『無視』を発動し、城内に徘徊している騎士にすら気づかれることなく最上階に移動。大きな扉があり、部屋の前に騎士が二名立っていた。
だが、居眠りをしているのか、とても眠たそうだ。無視の効果で一切気づかれることなく扉の前にやってくる。鍵穴に魔力を通し、形状を確認。鍵穴を魔力でいっぱいにした後、手首を捻り、鍵を開ける。扉をすり抜けるかのごとく音もなく扉を開け、部屋の中に入った。
「『無限、対象辺りの魔力』」
僕はビオレータが罠を貼っているのではないかと思い、体の周りに『無限』を作り、攻撃を防ぐ。加えて無色の魔力を靴裏に集め、一センチメートルほど浮ながら移動する。
部屋の中に入ると大きなベッドとレースのカーテンがしてあった。台に薬らしき物体が置いてあり、手を付けていないのか、そのままの状態になっていた。
「く……。もぅ、殺してくれ……。苦しぃ……。もぅ、楽にしてくれ……」
かすれた国王の声がベッドから聞こえた。
僕はレースのカーテンを開け、ベッドの近くによる。すると、様々な処置を施され、無理やり延命しているかのような状態になっている前国王がいた。
弱り切り、頬がこけ、筋肉が無くなり骨ばった体。もう、ここまで来たら、いっそ楽にしてあげたいくらいだ。いや、僕が楽にさせに来たんだ。
「王様。今、治します『無傷』」
僕は王様のローブを捲り、腹部を見る。真っ暗な空間でも分かるくらい真っ黒に壊死した古傷が痛々しい。もう、何度注射針を刺したのだろうか。大量の小さな貼れができている。きっと王様は死にたくて薬を飲んでいなかったのだろう。
僕が国王の腹部に手を当てると、白い光が真っ暗な空間に広がった。光が弱まり、空間が暗くなると、腹部の傷が治っていた。
「『無菌』」
王様の体内にいる悪い菌を消し、弱った体をむしばむ物を少なくする。この後、リーフさんと緑色の勇者が回復魔法を使えば容易に回復するはずだ。
「……ぅ、な、何者だ……」
王様は目を覚まし、藍色の瞳を僕の方に向ける。
「夜分遅くにすみません。キース・ドロウ……、今はキース・ドラグニティと名を改めました、元公爵家三男。キース・ドラグニティです」
「キース……。白髪の少年か……。はは……、大きくなったな……。殺し屋にでもなったか?」
「いえ、冒険者に成りました。体調が悪い王様に酷かもしれませんが、ビオレータ第一王女の暴走を止めてください。このままだと、プルウィウス王国が崩壊してしまいます」
「ビオレータが……。そんな、馬鹿な……」
どうやら、ビオレータは国王である父親に良いところばかり見せて、本来の姿を隠しながら生きてきたようだ。
「今はしっかりと眠り、軽い食事をして体力を戻してください。いきなり治るのも変な話ですし、僕の名を伏せてもらえると助かります」
「痛みや苦しみが消えている……。キース君がやったのか?」
「詳しいことは言えません。でも、僕はあなたに危害を加えてはいません。それだけはわかってもらえると思います」
僕は今回のことをなるべく知られたくなかった。
「そうか……。わかった……」
王様は目を瞑り、安らかに眠る。
「これで、全て上手く行ってくれたらいいんだけど……」
僕は寝室から出る瞬間に無視を使い、身を隠す。この間、ざっと五分……。なるべく短く済ませ、僕が出来ることを終えた。そのまま、イリスちゃんの部屋に戻る。
「キース君……。もう、終わったの……?」
イリスちゃんは僕の方を見ながら呟いた。
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