イリスちゃんの本気
僕はイリスちゃんのベッドの上に乗り、布団を被りながら隠れている。
これで隠れているのかわからないが、イリスちゃんがぜひベッドの上に隠れてほしいと言って来たので、仕方ない。
まあ、無視の効果を使えば意識しないと見つけられることは無い。
アルブに伝令役を頼み、今日は帰らないと伝えてもらった。右眼を無色の魔力で覆い、魔力視を発動しながら緑色の勇者の位置を探る。
藍色の魔力も見え、ビオレータと共に一緒にいることがわかった。どちらも魔力の色が濃いため、王城で見つけやすい。強いからこそ、見つけやすいとは何とも皮肉だ。逆に物凄く弱々しい藍色の魔力を見つけた。ずっと動かず、誰の出入りも無い。きっと前国王の寝室だと思われる。今にも消えてしまいそうな灯で手遅れになる前に動かなければならなかった。
例え、斬首刑に処されたとしても国王を直すことが出来れば、処罰が減刑されるかもしれない。僕の力があれば国王を助けられる。そう、心に強く思い、夜を待った。どれくらいベッドに寝転がっていたかわからないが、イリスちゃんがレースのカーテンを開け、ベッドにやってくる。
「キース君、お腹空いたでしょ。厨房からパンを貰って来た」
イリスちゃんはコッペパンを数個持ってきてくれた。
「ありがとう。お腹ペコペコだったんだよ」
僕はベッドから出て、パンを食す。ビオレータと緑色の勇者の位置はずっと把握しており、魔法を見逃す気は無い。
僕がパンを食べ終わるとイリスちゃんはお風呂に行ってしまった。僕は潔く待つ。
イリスちゃんの部屋に付けられている時計を見ると、ざっと午後九時頃。扉が開き、花の良い香りが部屋中に通った。イリスちゃんの青色の髪がしっとりと濡れ、彼女の透明感溢れる美肌が照明器具の明りを反射し、ツルツル光っているように見える。
白いローブ姿が異様に大人っぽく、先ほど見ていたイリスちゃんより五年くらい割り増ししたように見えた。さすが王族とでもいうべきか、綺麗すぎて息をのむ。
僕はなるべく見ないようにビオレータと緑色の勇者がいる部屋を凝視した。
パチッという音が聞こえると照明が落ち、部屋が暗くなる。だが、開いているガラス製の窓から月光が伸び、部屋が青白く輝いて見えた。
イリスちゃんはレースのカーテンを開け、ベッドに登り、頭を枕に乗せた。
「ねえ、キース君も寝ころんでよ……。今の私は王族、イリス・プルウィウスですよ」
「は、はい……」
王族に命令されたら命令通り動くしかない。
僕はイリスちゃんの隣に寝ころんだ。
「なんか、王族の立場を利用するのってずるいね……」
「どうなんだろう。王族に生まれたのは幸運なことだから、考えすぎなくても良いんじゃないかな……。僕はどう使うかが問題だと思うけど……。イリスちゃんがそう思うのなら、そうなのかもしれない」
「ねえ……。キース君は私のこと、どう思ってる?」
「どうって言われても、友達かな……。それ以上でも以下でもない気がする」
「じゃあ……」
イリスちゃんは僕に抱き着いてきた。
「私、キース君に抱き着くだけで凄い、ドキドキするの……。昔のキース君の印象もよかったし、お父様から彼と結婚したいか? なんて話もあってすぐに『うんっ』て、言ったくらい。だから、手紙が来なくなった時は凄く寂しかった……」
「イリスちゃん……。僕も手紙が来なくなった時は寂しかった。見捨てられたんだって思った。やっぱり髪色が白だから友達もいなくなっちゃうんだ、なんて勝手に思ってた」
「もし、キース君が公爵家を勘当されずに残っていてドロウ公爵家三男、キース・ドロウだったら……。なんて、何度も考えるくらい、再会してからシトラちゃんとミルちゃんに嫉妬しちゃった。私の方が地位が高いのに、地位が高すぎて好きな相手と結婚できないのは嫌」
イリスちゃんの手に力が入る。
「ねえ、キース君。こっちを向いて」
イリスちゃんに言われ、僕は隣に寝ころんでいる彼女の方を見る。すると、イリスちゃんの両手が僕の頬に当たり、とても暖かかった。そのままいつの間にか目の前に目を瞑る彼女の顔があり、止める間も無く柔らかい感触が伝わる。
一瞬、息が出来なくて理解不能だったが、彼女が離れ、目を開けた時、唇を奪われたのだと気づいた。
「えへへ……。私、王族の掟を破っちゃった。すごい重罪だよ」
イリスちゃんは屈託のない笑顔を浮かべ、僕を見てきた。
そのまま、僕の体に乗ってくる。月あかりが当たる彼女の体がぼんやりと輝きを放っていた。
「い、イリスちゃん、何を……」
「動いちゃ駄目……。ちゃんと見てて……」
イリスちゃんの頬が熱り、耳まで赤い。にも拘らず、バスローブの紐をほどき、肩からするりと脱いだ。白い肌が露出し、綺麗な水色の下着が現れる。少々膨らんだ胸を包む高級そうな下着と、彼女の恥じらう表情が相まってとても厭らしかった。
「イ、イリスちゃん……。何を考えてるの……」
「キース君は嘘だと思っているかもしれないけど、私、本気なんだよ……」
「ほ、本気なのはわかったから、服を早く着てよ。今、こんなことする必要があるの?」
「今、やっと二人きりになれた……。キース君が王城から出たら、二人っきりになんてなれないでしょ……。今が好機だと思ったの。私の全身全霊の気持ち、受け取って」
イリスちゃんは背中のホックを外し、ブラジャーの肩紐に手を伸ばす。そのままするりとずらす。すると乳房を隠す布が下がり、彼女の綺麗な上半身が露出しかける。
僕は目をぎゅっと瞑る。王族たるもの、夫以外の者に色仕掛けをするべからず。王族たるもの夫以外の相手に裸体を見せるべからずと言った家訓があるだろうに、彼女はそれすらも破ろうとしていた。
ビオレータが知れば、イリスちゃんはいったいどんな処罰を受けるだろうか。僕が喋らなければ気づかれないかもしれないが、どうなるかわからない。そもそも見ちゃいけない。そう思ってかたくなに目を瞑った。その時思った、目を瞑ったら緑色の魔力が見えないと……。
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