ビオレータとの対面
「…………」
イリスちゃんは目を細め、数秒後、頬を膨らまし、小さな手でポコポコと殴って来た。
僕もケーキを食し、紅茶を飲む。王室で出された品だけあり、とても美味しいケーキと紅茶だった。食事を終えた後、僕達は王室の前にやってくる。
「武器などはこちらで預からせてもらう」
「危険物が無いか調べさせてもらう」
王室の前を守る二名の騎士が僕の体を触り、武器を回収した。アダマスとアイクさんから貰ったナイフが騎士に預けられる。その後、扉が開けられると五年前に見た王室と全く違い、ギラギラの宝石だらけで趣味が悪い。煌びやかと言えば聞こえはいいが、なにもかも豪華な物ばかり置かれており、上品さの欠片もない。
赤いカーペットの先に、大きな王座が二脚あり、一脚に宝石がちりばめられたドレスを着ているビオレータ第一王女が腕置きに肘を乗せ、頬杖を突きながら僕達を見下した態度をとっている。
藍色の長い髪が特徴的で魔力量が多いのか所々輝いている。瞳の色も黒に近く三原色の魔力を全て有していることが裏付けられる。
顔は絶世の美女で、プルウィウス王国一と称されるほどだ。悪名だっていなければ誰もが目を引かれる存在。だが、最近類を見ない独裁政治を行っており、前プルウィウス王に比べると人気がないのは明白だった。
すぐ近くに真緑の髪が生えた女性が立っていた。その髪色はリーフさん以上に緑色かもしれない。とても綺麗な色艶で、ビオレータ王女にも引けを取らない美貌をほこっている。ただ、彼女よりも威圧感が無く、淑女と言ったほうがしっくりくる。加えて、僕は緑髪の女性に見覚えがあった。
――緑色の勇者。過去、勇者順位戦で最下位だった女性。まあ、緑色魔法は戦闘向きじゃないからな。仕方ないか。今は緑色の勇者がビオレータ第一王女の護衛を行っているのか。
「イリス、まさか、ドロウ公爵家から追い出された白髪の出来損ないと結婚するなんて言わないわよね?」
ビオレータは僕を見下しながらイリスちゃんを威圧する。
「ビオレータ姉様」
「ビオレータ女王陛下! でしょう! 実の妹だからと言って断頭台に送らないとは言ってないわよ!」
ビオレータは全身から紫っぽい魔力をにじませながら空気を威圧していく。
「び、ビオレータ女王陛下! 私は幼き頃より、キース君を愛していましたっ! どうか、彼との結婚をお許しください!」
イリスちゃんは嘘とは思えない迫真の演技を見せる。
「白髪に加え、爵位最低の男爵も持っておらず、ただの平民に落ちたゴミと王族が結婚するなんて許せるわけないでしょうが! イリス、あなたは由緒正しき王家に泥を塗る気? 王家は他国の王家、プルウィウス王国内の公爵家の身分を持った者、勇者としか結婚を許されていないわ!」
ビオレータは古き習わしに縛られているのかイリスちゃんの発言を認めなかった。
「なら私を王家から勘当してください。キース君と結婚できるのなら……」
「王家を抜けると言うことは死ぬと言うことと同義よ。王家の血が平民に流れるなんてあってはならないわ。私達は高潔な血が身に流れているの。そのゴミと結婚し、子供が出来たら王家の血が流れている子共になってしまう。そんなことになってしまっては一〇〇〇年以上続いてきた王家の血が汚れるのよ」
「き、キース君は元公爵家の生まれ。ならば何も問題ないはずです」
「馬鹿なのかしら。勘当されたもの同士の子供は高潔な血が流れている平民。万が一他の者と子を作れば、王家の血が汚れる。そんなこと、あっていいはずがないわ」
イリスちゃんは何度もお願いし、抜け道を探ろうと話しかけるも、ビオレータに全て弾かれる。もうすでに結婚報告大作戦は失敗している。他の作戦に移るしかない。
「ビオレータ女王陛下。私は前国王陛下にお会いしたいのですが、許可をいただけないでしょうか」
僕はド直球にビオレータにお願いする。
「ゴミがお父様に合えるとでも思ってるの?」
「前国王陛下に感謝の気持ちを伝えたいのです。一度で構いません。どうか、話しをさせてください」
「駄目に決まっているでしょう。平民に落ちたゴミ、身をわきまえなさい」
「……では、何をすれば、前国王陛下に合わせていただけますか?」
「なにをしても無駄よ。あなたをお父様に合わせる気はないわ。早く立ち退きなさい。あなた達と話している時間がもったいないわ」
「ビオレータ女王陛下、お願いです。話しをちゃんと聞いてください」
イリスちゃんは立ち膝をしながら大きな声で言う。
「ちゃんと聞いていたわよ。ほんと、馬鹿な妹ね。どうせ結婚するなら他国の王様とか、権力者にしなさい。そうして子供を生み、育ててプルウィウス王家の血を広げるの。これは、王家に生まれた使命なのよ!」
「キース君以外の男と結婚するなんて、絶対に嫌っ! ビオレータ姉様はなんでそんなに王家に捕らわれてるの。もっと気楽に生きればいいんだよ」
「ほんっと嫌い。あんたみたいなお気楽娘。バカで笑ったばかり、何が楽しくて笑っているのかすら自分でもわかっていない。気持ち悪い。憎たらしい、数えたらきりがないくらい」
「私は、ビオレータ姉様が大好きです。凛々しくてカッコよくて頼りになるビオレータ姉様が大好き。お父様もテリア姉様もビオレータ姉様が大好きだよ」
「うるさいわね。さっさと出て行きなさい。頭が悪くて使い道がないあんたは邪魔なのよ。いっそ死んでくれればよかったのに」
「う、うぅ……。うわーんっ!」
イリスちゃんは王室から飛び出して行った。
「実の妹に死んでくれればよかったなんて言う姉がどこにいるんですか……」
「どこにでもいるでしょ。貴族の世界じゃ姉よりも妹の方が嫁ぎ先が良いなんてよくあることじゃない。妬む姉も多い。死んでほしいと思うのも当然でしょ。まあ、私は全く違う意味だけど。で、ゴミは何でここにいるわけ。さっさと出て行きなさい」
「大好きな者に死んでくれればよかったのになんて言われたら、傷つくことくらいわからないのか。バカはどっちだ! 自分の家族はもっと大切にしろよっ!」
「なに、私にバカとでも言いたいの? 王族に罵倒を口にしたら処罰の対象よ。それをわかって言っているのかしら」
ビオレータは立ち上がり、腰に掛けた剣の柄を持ち、僕の前にやってくる。
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