スージア兄さんの攻撃
「キース、お前がどれだけ強くなったのか。見せてくれないか」
スージア兄さんはさらっと言う。
「え……。見せろと言われても、どうやって?」
「俺と打ち込み稽古をすれば、ある程度はわかる。その様子だと、鍛錬を毎日欠かさずに行っているようだからな。橙色武術祭で優勝した力を見せてほしい」
「でも、スージア兄さんに勝てる気がしないんだけど……」
「それは思い込みだ。思い込みは無くせ。俺はキースに一本取られる未来だって考えてる。俺に負けると思いながら戦ったら体が委縮するだろう。そうなったら本当の力が出せない」
「ええ……。スージア兄さんに勝つ未来……。まあ、やってみるよ」
僕は使い慣れているフルーファに持ち替え、スージア兄さんの前に立った。
「じゃあ、コインが地面に落ちてから打ち込み稽古初めだ」
スージア兄さんはコインを親指で弾いた。
僕は目に魔力を集め、魔力視を発動する。
スージア兄さんの体にある大量の藍色の魔力が剣に流れていた。コインが地面に落ちると、スージア兄さんの体内の魔力が魔剣で七色に分けられる。
「『橙色魔法:身体強化』」スージア兄さんの体に橙色の魔力が纏われる。
「『黄色魔法:細胞活性』」スージア兄さんの体に黄色の魔力が走る。
「『緑色魔法:自動回復』」スージア兄さんの体に緑色の魔力が滲む。
「『赤色魔法:延々業火』」スージア兄さんが持つ魔剣に轟轟と燃える真っ黒な火が吹き出る。
「『青色魔法:広大沼地』」スージア兄さんと僕のたっていた地面が沼地に変わる。
「『紫色魔法:幻影煙霧』」辺り一帯が紫色の霧に覆われる。
「『藍色魔法:軽重歩行』」スージア兄さんの脚に藍色の魔力が纏う。
――スージア兄さん、僕を殺す気かな? どうやって倒せばいいんだろう。
「行くぞ。キース」
スージア兄さんの声が聞こえた瞬間、七色の光を放つ魔剣が消えた。案の定、スージア兄さんは後方に移動し、切り掛かってきている。
僕はフルーファを背後に回し、スージア兄さんの剣を防いだ。地面が沼地なので、ものすごく動きづらい。だが、スージア兄さんは沼地の上に浮いており、目では到底追えない速度で移動している。このままでは何もできず、倒されてしまうのは明白だった。
僕はフルーファを地面に突き刺し、足場として使う。沼地では跳躍できなかったが、フルーファのおかげで足場が生まれ、僕は幻影煙霧から抜け出す。先ほどまで振っていたアダマスの柄を持ちカチッと言う音がするまで押し込んだあと、引き抜く。すると、魔力解放状態になっており、超火力の一撃が放てるようになっていた。
「まさか、初めて人に向けて放つ相手が、スージア兄さんだなんて……。でも、安心して撃てる」
僕はアダマスを頭上に掲げ、地面に向って振りかざした。
「『無色魔法:飛刃』」
僕が振りかざした一撃は大地に直撃し、紫色の霧が散り散りになる。
「はは……。全く、どうなっているんだ……」
幻影煙霧が消え、スージア兄さんの姿がありありと映し出される。全身泥まみれだが、無事のようだ。
「えっと、わかってもらえたかな?」
「そうだな。十分わかった」
スージア兄さんの体に纏われていた魔力が散り散りになり、青色魔法で体の泥を落とす。
僕はフルーファのもとに着地、アダマスを鞘に戻し、カチッという音がするまで押し込んだ。
「その白い剣から出る一撃。あれに当たったらただじゃすまなかったぞ」
「ご、ごめん。スージア兄さんなら大丈夫かなと思って……」
「地面を沼地にしていなかったら、どこまで割けていたかわからない。あれは人に向けて良い技じゃないな」
スージア兄さんは僕の頭にチョップをして、叱って来た。
「そ、それを言うなら、スージア兄さんも七色の魔法を一気に使うなんてどうかしてるよ」
「いや、どうせなら本気でしないと意味がないだろ。最初の一撃で決めるつもりだったんだが、まさか防がれるとは思っていなかった。見えていたのか?」
「えっと、見えていたと言うか、どこに来るのかと予測しただけだよ」
「そうか。にしても強くなったな。橙色武術祭で優勝したと言うのも嘘じゃないとわかった。ここまで来るのに、相当努力したらしいな」
スージア兄さんは僕の頭を撫でながら言った。
「まあね……。血のにじむような努力をして来たよ」
僕はスージア兄さんに褒められて嬉しかった。そりゃあもう、飛び上がって喜びたいくらいだ。
僕達は全身を汚しまぐり、家の前に向かう。すると、テリアさんとシトラが仁王立ちしながら待っていた。
「あ、あはは……」
僕達は苦笑いをしながら、大変怒っている二名にこっぴどく怒られた。
泥が周りに飛び散って汚いとか周りの家に迷惑とか大きな騒音などを注意してと言われる。
僕達は泥掃除を行い、終わるまで朝食抜きにされる始末。両者共にいつもは温厚なのに、怒るとめっぽう怖いと言うことが、はっきりとわかった。僕だけじゃなく、スージア兄さんも彼女に勝てないらしく、とんでもなく強いと言う。
「はぁ……。やっと終わった……」
「ああ……、やっと終わったな……」
僕とスージア兄さんは泥掃除を終え、家の中に入る。テーブルの上に用意されている料理を食し、体力を補充した。
「これで、体が動くようになる。シトラ、テリアさん。ありがとうございます」
僕は料理を作ってくれた二名に感謝の言葉をつたえた。
「キースさん、ぼくも一緒に手伝ったんですよ!」
ミルは頬を膨らませながら言う。
「そうだったんだ。じゃあ、ミルにも感謝しないとね」
僕はミルにぎゅっと抱き着き、感謝した。ミルはそれだけで嬉しかったらしく微笑む。
「じゃあ、僕は一人で王城に行ってくる。シトラとミルは何と言われるかわからないから連れていけない」
「ぼくも行きたかったですけど、確かに、王城に獣族が入ったらなんて言われるかわからないですよね……。家の中で潔く待てをしていようと思います」
ミルは姿勢を正し、玄関近くにまでやってくる。
僕は紳士服を着こみ、高級な靴、白い鞘のアダマスを左腰に掛ける。王城に喧嘩に行くわけじゃないので見た目からしていかついフルーファは置いていく。
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