イリスちゃんを王城に送る
「ちょ、シトラまで……」
「スージア御兄さんが困っているのなら、ぼくもお金を出しますよ」
ミルは大金貨一枚を出した。どうやら、倹約家のミルが出せる限界だったのだろう。まあ、出してくれるだけありがたい。
「ミルちゃんまで……。く……、こんな大金を貸してくれるなんて、感謝しきれない。必ず返す」
スージア兄さんは涙を流しながら、感謝してきた。
「僕は家を勘当されたから、スージア兄さんと兄弟じゃないけど、昔の恩は忘れない。そのお金は生活費に使って。あと、祝い金を出さないといけないから、その時はまたいくら必要か言って。ある程度のお金なら容易出来る」
「き、キース。本当にお前はキースなのか……。家を出て一年程度。いったいいくら資金があるんだ」
「まあ、働かなくても王都で一生遊んで暮らせるだけのお金は貯まったかな」
僕は左手で後頭部を掻く。
「ん……。これは」
スージア兄さんは僕の左手を掴み、ブレスレットを見た。
「ちょ、え……。き、キース、俺の見間違いじゃなければ、これはブラックワイバーンの革じゃないか? こんな黒い布地、真面に見た覚えが無い」
「ふふふっ、キースさんとぼくでブラックワイバーンを討伐したんですよ。ま、ぼくはほぼ何もしてないんですけどね」
ミルは胸を張りながら言うが、最後は視線をそらした。
「はは。き、キースがブラックワイバーンを倒した。な、なにを言っているんだミルちゃん」
「スージア兄さん。ミルの話しは本当だよ。この靴もブラックワイバーンの革を使って作ったんだ。シトラを取り返すために全力だったからできたんだよ」
「俺の知らない間に、キースはとんでもない人間になってしまったわけか。父上も惜しいことをしたな。こんな才能あふれる我が子を髪色だけで差別するなんて……。ほんと情けない」
「スージア兄さんが悩む必要ないよ。僕はドロウ公爵家から出れてうれしかったし、シトラをいじめるような家にいたくなかった。だから、スージア兄さんはこれからの幸せのことだけを考えて。僕はスージア兄さんの味方だよ」
「う、うう……。ありがとう、キース」
僕はスージア兄さんの泣き顔を始めて見た。天才と言われているスージア兄さんも普通の人間なのだ。
「ああ、もうそろそろ帰らないと。テリア姉様、私、キース君と結婚するってビオレータ姉様に言えばお父様に会わせてもらえるかな?」
「どうかしらね。でも、キース君はただの一般人になってしまっているから、ビオレータ姉さんは結婚を許さないと思う」
「そうだよね……。キース君をどうにかしてお父様に合わせないといけないから、ビオレータ姉様がどこかに訪問している時、合わせられないかな?」
「ビオレータ姉さんは王城に引きこもってるし、暗殺を恐れて出てこないと思うわ」
「自分で暗殺されそうなことしてるくせに、殻に閉じこもっちゃってさ。ずるいよー。とにかく、私は王城に返ってキース君の訪問に答えられるようにしておくよ。上手く行くかわからないけど、やってみる。うん、出来たら、たぶん、出来なかったとしても怒らないでね」
イリスちゃんはどんどん弱々しくなっていき、呟く。
「じゃあ、王城まで送るよ」
僕はイリスちゃんを王城まで無事に届ける義務があった。
「きゃー、キース君にエスコートされちゃうんだー。私をお姫様扱いしてくれるのはキース君だけだよー」
イリスちゃんは僕に抱き着き、微笑んでいた。彼女は本物のお姫様なのだから、皆丁重に扱っていると思うんだけど、違うのかな。
「いつもふざけてお見合い相手に断るよう仕組んでいたなんて言っちゃ駄目よー。あと、本当は賢いとか言っちゃ駄目だからねー」
テリアさんはにやにやしながら言う。
「ね、姉様! な、なにを言ってるの!」
イリスちゃんは手をブンブン振りながら怒る。そのまま、僕の手を引いて家を出た。
「ね、姉様ったら、何を言ってたんだろうね。あはは……」
「イリスちゃんはおバカを演じているの?」
「演じてないよ。いつもの私が演じてる私なの。だから、今は素だよ。でも、王族はこんな飛び跳ねたりしちゃ駄目なんだって。手も大きく上げちゃ駄目だし、しゃがんでも駄目。息が詰まっちゃうよ」
「そうなんだ。まあ、どんなイリスちゃんでも、素敵だと思うよ。結婚相手は誰でも良いって言う訳にいかないし、今のイリスちゃんを好いてくれる人は絶対にいるよ。僕は貴族じゃないからイリスちゃんと結婚できないけど、応援してる」
「ううぅー。ば、バカバカ。キース君のおバカ。俺は位なんて気にしないぜ! 愛してる、イリス! くらい言ってよー」
イリスちゃんは僕に抱き着いてくる。元から平民気質なのか、はたまた劇の見すぎなのか……。
「イリスさん、キースさんを困らせるようなことはやめてください」
ミルはイリスちゃんを僕から引きはがし、地面に降ろす。
「ちょ、なんでミルちゃんがついてくるの」
「ぼくはキースさんと一心同体。いついかなる時も一緒にいるのが普通ですよ」
「キース君、ミルちゃん、愛がちょっと深すぎる気がするよ」
イリスちゃんは引いていた。
「僕もそう思う。でも、ミルは上手く愛されずに成長した子だからさ、沢山の愛情を注いであげたくなるんだよ」
僕はミルの頭を撫で、顎下を摩る。するとミルの顔が蕩け、耳をパタパタと動かし、尻尾がうねる。
「あぁ~、キースさんのなでなで気持ちいいです~」
「ミル、僕はミルが大好きだから他の女性に嫉妬しなくても大丈夫だよ。ま、シトラも同率だけどね」
「ううぅ、そこはミルが一番大好きだよ! 愛してる、ミル! くらい言ってほしいです!」
ミルはグワっと目を開けながら言った。
――この二人、結構似てる?
僕はミルとイリスちゃんの思考が似通っていることに気づき、クスリと笑ってしまった。僕の肩に乗っているアルブも嫉妬し、頬に頭を擦りつけてくる。左手で顎下を撫でながら、頬にキスをしてあげると布団のようにへたり込んだ。
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