兄の望
「は、初めまして。ミル・ドラグニティと言います! せ、僭越ながらキースさんと結婚しています!」
ミルは僕にくっ付きながら言った。
すると、スージア兄さんとテリアさんは目を丸くして大声を出した。他の家にも響きわたるくらいの大声で、あまりにも驚いていた。
「ま、まさか、キースに先を越されるとは。だが、おめでとう。良い相手を見つけたんだな」
スージア兄さんは僕の肩を叩きながら、喜んでくれた。
「もう、イリスがちゃんと唾つけておかないから、先を越されちゃったじゃない。まあ、ミルちゃんが獣族だからまだよかったけど、逃したら知らないわよ」
テリアさんはイリスちゃんの頬を指で突いていた。
「うう、私だって狙ってたのにー。手紙が全然届かないんだもん」
「え……、僕、結構書いてたんだけどな……」
「え……、私も書いてた。じゃあ、誰かが届かないようにしていたてこと?」
「まあ、十中八九父上だろうな」
スージア兄さんは顎に手を置きながら呟いた。
「ですね……」
シトラは首を縦に動かしコクコクと頷いた。
「じゃあ、俺も自己紹介しよう。スージア・ドロウ。隣にいるのが、テリア・プルウィウス。まあ、位のことは気にしないでくれ」
「で、でも、公爵家と王族にたてついたらひどい目に合うんじゃ……」
ミルは僕に抱き着きながら怯える。
「俺達はそんなことしない。だから、安心してくれ」
スージアさんは微笑みながら、言う。
「き、キースさんが信用している相手だと思うので、ぼくも信用します」
ミルは頭を下げた。
「じゃあ、私はお茶を入れますね」
テリアさんが立とうとすると、シトラがすぐに動き、お茶の準備をした。
「えっと、じゃあ、スージア兄さんたちから現状を聞こうかな。今、どういう状況なの?」
「ああ。その……、なんだ。俺とテリアは好き合った仲だ。国王に結婚の許可をお願いをしたら、感激された。俺は普通にテリアを嫁に貰うつもりだった。だが、国王が……俺を次期国王にと」
「そうしたら、ドロウ公爵とビオレータ第一王女が怒り出したと……」
「ああ。父上はどうせ俺を国王にするなら、リュウズ兄さんをテリアと結婚させて国王にし、ドロウ家の当主を俺にした方が良いと言って来た。ビオレータ様は本物の王族か勇者が国王にならずどうすると言って自分が女王、又は王妃になると言って拒否してきた」
「まあ、だいたい聞いた通りみたいだね。それで、スージア兄さんとテリアさんはどうしたいの?」
「俺は……テリアと結婚して幸せに暮らしたい」
「私も、スージア様と一緒に幸せになりたい……」
「テリア……」
「スージア様……」
両者は僕たちがいる中でイチャイチャし始めた。
「あー、テリア姉様、押さえて押さえて」
イリスちゃんがテリアさんを椅子に座らせ、落ちつかせる。
「ま、まあ、なんだ。俺はテリアと結婚して幸せになれるのならそれでいい。爵位はいらない。まあ、ドロウ家は王族に代々仕えてきた。俺は出来るのなら、支える方が良い。皆の前に立って何かをすると言うのは向いてない」
スージア兄さんは頬を人差し指で掻きながら言う。
「スージア様が前に出たら多くの女性にモテすぎて私が嫉妬しすぎてしまいます」
テリアさんはスージア兄さんに抱き着き、頬を膨らませていた。
「すまない。モテたくなくても女性が勝手に集まってしまうんだ」
スージア兄さんは本当にそう思っているのだろう。だが、世の男性が聞いたら激怒しそうだ。
「と、とりあえず、スージア兄さんとテリアさんは公爵家と王家を出てもいいから結婚したい。でも、国王の遺言がある。国王の遺言に反発しているのがドロウ公爵家とビオレータ王女。スージア兄さんとテリアさんの要望を叶えるために出来ることは国王に遺言を撤回させること……」
「今、国王は床に伏していて会話ができる状態じゃないんだ。面会も簡単に出来ない」
「そうなんだ……。でも、国王が回復すれば、全部上手く行く。やっぱり国王に会いに行かないといけないみたいだ」
僕は国王に会いに行く決心がついた。体力がこと切れて亡くなる前に傷と病の治療を行い、助ける。そうすれば、ビオレータ王女の暴走を止められるし、ドロウ公爵家も文句を言えない。なんなら、他の貴族も国王の決めたことに口を出したりしないはずだ。
「よし。あとはお金の問題だけだ。スージア兄さん、いくらあればいい?」
「え……。キース、貸し出せるほど財産があるのか?」
「まあ、ちょっとね」
僕は人差し指と親指を近づける。
「その……、情けない話しだが、生活費を貸してほしい。このままだと冬、凍え死ぬ」
よく見たら、暖炉に火がともっておらず、赤色魔法で暖かい空気を生み出し、緑色魔法で空気を動かしながら循環させ、部屋を暖めていた。そんなことができるなんて……。さすが、スージア兄さん。まだ、九月の半ばだが、もうすぐ冬になる。このままだと凍えてしまうのは明白だった。
「去年の冬は越せたんだが、もう資金が尽きそうなんだ。魔物を狩って資金にしていたんだが、狂暴な魔物がいなくてな。俺は構わないが、テリアに申し訳なくて……」
「わかった。じゃあ、一日いくらあればいい?」
「そうだな。家はここで良い。食費と薪代があればいいから、一日金貨一枚あれば、何とか生活できる」
「じゃあ、虹硬貨一枚あれば結構いい生活が送れるかな」
僕は胸もとから革袋を取り出し、虹硬貨一枚をテーブルの上に出す。
「き、キースから虹硬貨が出てきた……、これは夢か?」
「ど、どう見ても本物の虹硬貨ですよ」
スージア兄さんとテリアさんは虹硬貨を触り、本物かどうか確かめていた。
「スージアさんとテリア姉様は知らないかもしれないけど、キース君、橙色武術祭で優勝したんだよ。白髪で初めて優勝したんだ。なんなら、シトラちゃんも優勝したの」
「え! と、橙色武術祭で優勝……。キース、本当なのか?」
「うん。橙色の勇者とも結構いい勝負をしたんだよ」
「し、信じられない……。家の中で腐った卵を投げつけられていた弟が……」
「はは……。僕も信じられないよ。でも、事実だから。どれもこれも、スージア兄さんが僕に勉強を教えてくれたり、軽く鍛えてくれたから今がある。もう、家にいたころ、何度も助けられた。だから、今度は僕が助ける番だよ」
「スージア様。どうか私のお金も使ってください」
シトラは虹硬貨一枚をテーブルに出した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




