スージア兄さんの家
「確かに……。公爵家と王家の者が宿に住むなんて……。誇りを捨てないと無理だよね」
「そう。だから、二人共国民に大人気なの。まあ、貴族からはあまりよく見られてないんだけどね。二人共優秀過ぎて今の国が変わっちゃうのが怖いんだと思う」
「変わるだろうね。国王はいい方だったから凄いと思うけど、スージア兄さんとテリアさんが結婚したら、凄い国王とすごい王妃が誕生する。きっと馬鹿な貴族はすぐに落とされるね」
「当たり前じゃない。だからお父様の遺言も無視されちゃってるのよ。ほんと、ゴミすぎて嫌だよね!」
イリスちゃんは貴族をゴミ呼ばわりした。彼女が王家じゃなかったら重罪だ。
「じゃあ、列車を出たらテリア姉様が住んでいる家に行くよ」
「わかった。僕、王都出身の癖に土地勘が皆無だから、イリスちゃん、街案内をよろしく」
「私だって王城の外に出たことがあまり無いから、何があるかわからないけど、家は覚えているから安心して」
イリスちゃんは大きな声で言った。本当に大丈夫だろうか。
列車は無事、王都に到着した。最後の最後、大爆発でも起きるんじゃないかと身構えていたが無事についてよかった。
「さ、行くわよ……。あ」
イリスちゃんが列車の入り口を開けると目の前に大量の騎士がいた。おそらく、クサントス領の領主、又はべニアさんが王城に連絡していたのだろう。
「イリス様。ご無事でしたか」
騎士団長と思われる顔が傷だらけの男性が言う。
「あ、あはは……。ご、ごめーん、ちょーっと話を付けてくるね」
イリスちゃんは列車から降り、騎士団長と話しをしていた。八分ほどするとイリスちゃんが戻ってくる。
「理解してもらった! まあ、私は帰らなきゃいけないけど。道案内はするよ」
イリスちゃんは苦笑いを浮かべながら言う。僕たちは荷物をもって車両から出た。すると、イリスちゃんが耳もとに話しかけてくる。
「キース君、私の影を薄くして……。騎士達を撒こう」
僕はため息をつき、イリスちゃんの姿を『無視』で存在を薄くする。すると、騎士達はイリスちゃんの姿を見失い、慌てていた。
僕はシトラやミルも『無視』の対象にして騎士達を撒く。ほぼ誘拐と変わらないので、最悪処罰されるかもしれない。
「イリスちゃん。良いの?」
「良いの良いの。そうしないとテリア姉様の場所が割れちゃうでしょ。そうならないように、配慮しているんだよ」
僕たちは駅の外に出た。相変わらず、人が多いこと……。獣族の奴隷も多く、あまりいい光景じゃない。僕達はイリスちゃんの後を追い馬車に乗り込む。向かった先は王都の端の端。もう、ボロボロの家ばかりが並ぶ地帯にやって来た。
「こ、こんなところにスージア兄さんとテリアさんがいるの?」
「まあまあ。黙って付いてきなさいって」
イリスちゃんはスキップをしながら移動し、見かけは悪いがしっかりとした作りの一軒家にやって来た。
「おはようございまーす、可愛い可愛い妹ちゃんからのお届け物でーす」
イリスちゃんは扉を叩き、猫なで声で言った。
「名前を言ってほしいんですけど……」
部屋の奥から、男性の声が聞こえてきた。聞き馴染みがある。イリスちゃんが僕を扉の前に押し込み、口をパクパクさせた。言えと言うことだろう。僕は首元のボタンを少しずらし、緊張しながらも声を出す。
「キース・ドラグニティです」
「…………」
扉の奥が静まり返り、何とも耐えが高い時間が続く。
「えっと。スージア兄さん。いるのなら、中に入れてほしいんだけど」
僕が言うと、木製の扉がスーッと開いた。顔が恐る恐る出てくると黒色に近い藍色の髪が見える。
「き、キース……。ほ、本当にキースなのか」
「本物のキースだよ」
僕が言うと、扉が開き、背丈が一八八センチメートルほどある男性に抱きしめられた。まあ、スージア兄さんなので、恐怖心は無い。
「よく生きてた。よく生きてたな。本当によかった」
「お邪魔しまーす」
イリスちゃんは僕たちの横を通り、家の中に入る。シトラとミルも同時に入り、僕も早く入りたかったのだが、スージア兄さんが離してくれないので少々辛い時間が続いた。八分ほど抱き着かれ、やっと解放された僕は家の中に入る。
「はぁ、はぁ、はぁ……。もう、相変わらず、抱き着きが長いんだから……」
「はは、すまない。でも、キース、よく来てくれた。シトラもありがとう」
僕の完全上位互換のスージア兄さんは王子と言われても過言じゃないほどカッコいい。
弟の僕が言うのも何だが、僕のもと両親から生まれたとは思えない顔立ちに身長、プルウィウス大学を飛び級して首席で卒業するほど頭脳明晰、身長一八八センチメートルと長身でどんな武器でも使いこなす高い身体能力、ほぼ黒と言ってもいいぐらい濃い藍色の短髪で、多くの者を魅了する濃い藍色の瞳。
肌は白く、初代国王の生まれ変わりかと思うほどの人物だ。現在の年齢は僕の四歳年上なので二〇歳くらいのはずだ。
「イリスちゃんから助けを求められたんだ。クサントス領からはるばる来たよ」
「イリス様から聞いたのか。王都からせっかくはなれられたのに、連れ戻してすまないな。兄として情けない状況に落ちている姿を見せるのは少々辛い……」
「スージア兄さんは悪くないよ。だから、謝らないで」
「あら、キース君、大きくなったわね。シトラちゃんも綺麗になって」
騒動を聞きつけ、広間以外の場所から綺麗な女性がスタスタと歩いてきた。
腰まで届きそうなほど長い藍色の髪がとても美しく、見ているだけでいい匂いがするイリスちゃんそっくりなテリアさんが歩いてきた。
「て、テリアさん……。ご、ご無沙汰しております」
僕はテリアさんとあまり面識がない。でも、彼女は僕のことを知ってくれているようで僕の手をぎゅっと握り、微笑みかけてきた。
「な、なんか、ぼく……、場違いな気がしてきました……」
ミルは椅子に後ろに隠れ、呟く。
「ミルちゃん、私だってそう思うんだから、大丈夫。さ、自己紹介して」
シトラはミルの両脇に手を入れ、僕の隣に立たせた。
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