列車に乗って中央へ
「ああ……。明日は列車に乗るのか……」
「なによ、嫌なの?」
シトラは僕の感情を読み取り、訊いてきた。
「ちょっとね……。いや、大分嫌かもしれない……」
「キースさんにも嫌なことがあるんですね」
ミルは僕の方を見ながら言う。
「まあ……、列車が苦手なんだよ。色々あってさ……」
僕は爆破事件が今でも脳裏に焼き付いており、トラウマになっていた。
最近は悪夢にうなされることは少なくなったが、昔は夢で何度も見た。その列車にもう一度乗らなければならないらしい。
「車両丸々貸し切りの良い場所の切符を買ったから、明日から一〇日間、列車の旅だ。まあ、列車の旅と言ってもずっと列車に乗っているだけなんだけど……」
「ぼく、列車に乗ったことが無いので楽しみですっ!」
ミルは飛び跳ねながらウキウキしていた。
「私は奴隷として売られた後、運ばれるときに乗ったわ。まあ、貨物のような箱に入れられてだったから楽しくなかったけど」
シトラは苦笑いを浮かべながら言う。僕の一本前の列車に乗っていたとなると、フレイが乗っていなかった列車なのだろう。よかった。もし、僕と同じ時にシトラが列車に乗っていたら、一生見つけられなかったかもしれない。
「列車なんて別に何も怖くないよ。ぐーすか寝ていればすぐに着いちゃうって」
イリスちゃんは楽観的に考え、笑っていた。
「そうだね……。今の僕なら問題ないかな……」
僕は昔の自分とは違う。そう言い聞かせ、明日に備えた。僕たちの別荘はべニアさん達に管理してもらい、雑草が生えまくるのを阻止してくれるように言う。
僕達は別荘から出て駅に向かうと、プルウィウス王国王都行きの列車がすでに到着していた。
僕は高級な紳士服とある程度の金貨を入れた袋が入ったトランクと背中にフルーファ、左腰にアダマスを掛け、アイクさんから貰った冒険者服を着ている。肩にアルブが乗っており、尻尾を振っていた。
シトラはドレスと衣服が入ったトランクを持ち、いつものメイド服姿で走っていた。
ミルはドレスと着替えが入ったトランクを持ち、太ももが丸見えの冒険者服を着ながらローブを羽織り、走っている。
イリスちゃんはクサントス領の服屋で買った村娘風の衣装を着ており、トランクの中に高級なドレスが入っている。
駅に到着したのは午前七時四五分ごろ。王都行きの列車は八番の窓口に止まっており、多くの人々が後方車両に乗り込んでいく。僕たちは前方車両の最も高い車両に向かった。
「おお、キース。遅かったな」
周りの目を引くほど全身橙色の男、ライアンが腰に手を当てながら待っていた。
「ライアン。どうしてここに?」
僕はライアンに聞く。
「どうしてって……。親友を見送りに来るのが親友ってもんだろ」
ライアンは僕に右拳を突き出した。
僕は泣きそうになり、微笑みながら右拳をライアンの右拳に当てる。
「王都になにしに行くか知らねえが、一月八日まで王都にいるようなら、王城闘技場に勇者順位戦を見に来いよな。今年こそ、藍色の勇者をぶっ倒す。なんなら、去年負けた赤色の勇者もぶっ倒す!」
ライアンはやる気に満ちていた。王都はどの勇者もおらず、先日のような超勇者状態になることがない。そのため、勇者が互角の戦いを繰り広げられる場所、王都で順位戦が行われる。
見に行きたいのはやまやまだが……、王都にあまり長いもしたくない。まあ、話し合いが長引けば、見れるかもしれない。
「わかった。僕はライアンを応援するよ。頑張って」
「おう、任せておけ」
きっとやる気に満ちた勇者すぎるライアンだからビオレータは彼が嫌いなのだろう。あの王女は捻くれているからな……。
「じゃあ、また会おう」
ライアンは僕に微笑みかけた。
「ああ。また会おう」
僕はライアンと言う友人が出来た。それだけでこの領土に来たかいがある。
僕達は車両に乗り込んだ。午前八時になり、列車は汽笛を鳴らし動き出す。
ライアンは手を振りながら、僕たちを見送った。
「キースにも親友が出来たみたいね」
シトラはにやにやした顔を浮かべながら言う。
「うん。まさか親友にまで株が上がっているとは思わなかったけどね」
「勇者の友達ができるなんて、さすがキースさんです」
ミルはにこにこ笑顔で僕にくっ付いてきた。
「はは……、まあ、クサントス領内でも色々あったし……」
「まさか、キース君とライアンがあそこまで仲が良かったなんて意外だったよ」
イリスちゃんは列車の中に置かれているベッドに寝ころびながら言う。
「じゃあ、今から一〇日間は列車の中だからね。運動をしないと体が細くなっちゃうから出来るだけ体を動かそう」
「夜に沢山動いても良いですよ」
ミルは僕の方を見ながら体をくねらせている。
僕は無視して頭を撫でる。ミルは頬を膨らませ、怒ってきた。
にしても……。今日から一〇日間、僕はこの美女たちと同じ部屋で過ごさないといけないわけか。大丈夫かな……。
高い車両はそれなりの値段と言うか、お金を払う価値がしっかりとあった。
広々とした空間に美味しい食事、お風呂やトイレも完備されている。以前よりも確実に良い旅だ。ただ、過去のトラウマはどれだけ強くなっても克服できないもので、今でも脚が震えている気がする。
「キースさん。びっくりするくらい暇です! もう、こうなったら一日中、こう……」
ミルはシトラに取り押さえられ、近接格闘術の関節技を食らっていた。さすがに一〇日間同じ場所にい続けるのは流石に堪える。僕とシトラは構わないが、他の二名は動きたがりなので、ただ泊まっているだけでも疲れるらしい。
僕は自重鍛錬や瞑想などで今出来る鍛錬を繰り返す。今以上に強くなれるよう、移動時間も無駄にしない。
僕たちは一〇日間、列車に揺られながら移動した。いつの間にか王都の高い建物が立ち並び、僕たちを出迎えていた。
「……来てしまった」
僕達は王都に到着してしまった。本当に帰りたくない。
「シトラ、大丈夫? お腹とか痛くない?」
僕はシトラの腰に手を回し、言う。
「頭痛と吐き気がして来た……。でも、怒りの方が大きいから最悪ぶん殴っちゃうかも」
シトラは拳を握りしめ、言う。
「そんなことをしたら、シトラは捕まっちゃうよ。えっと、イリスちゃん。スージア兄さんとテリアさんが今どこにいるかわかる?」
「二人は小さめの一軒家で生活してるの。公爵家と王家なのに凄いでしょ」
イリスちゃんは微笑む。
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