知られたら怒られそうなこと
「あれ、キース君。寝ないの?」
イリスちゃんは僕の姿を見て目を丸くする。
「うん、今日はイリスちゃんの護衛をすることにしたんだ。何があるかわからないからね。イリスちゃんは安心して眠って良いよ。僕は橙色の勇者と戦えるくらいの力があるから大概の相手に引けを取らない」
「ええ……。キース君、いつの間に強くなっちゃったの……」
「まあ、色々あったんだよ。シトラとミルも安心して眠って良いから」
「まあ、キースがそう言うなら寝させてもらうわよ」
「うう……。せっかくいい気持ちで酔っていたのに……」
シトラとミルは耳と尻尾をヘたらせながら呟く。三名は寝室に向かい午後一二時に眠った。
僕は庭で鍛錬をしながら、不審者が現れないか見張る。家の中に王族本家の三女がいるんだ。何が起こってもおかしくない。
まあ、イリスちゃんが王都からクサントス領に来る間に無事たどり着けているのを考えると誘拐犯が追ってきている可能性は低いと思われる。
「油断はしない方が良い。何をされるかわかったもんじゃない」
僕は夜から朝まで体をずっと鍛え続け、汗だくになりながら朝日を迎える。
「ふぅ。朝か。今日はリーフさんのところに行ってミルの発情止めを定期的にもらえないか頼みに行かないとな」
僕はお風呂に入り、汗を流す。
「キースさん、やっと一緒にいられますっ!」
ミルは僕に抱き着いてきてそのまま、熱い熱いキスを交わした。窒息するかと思ったが性欲が強いミルを宥めるのに効果的なので仕方がない。
「ぷはっ。はぁ、はぁ、はぁ。キースさん、もう、我慢できません」
ミルは僕の正面から抱き着いてきて来た。
「ちょっ! ミルちゃん、抜け駆けは駄目っ!」
シトラまでお風呂に入ってきて、お風呂の中がてんやわんや。ほんと、どうしようもないくらい、両者は盛っていた。すぐにお腹の魔力を吸い、気分を落ち着かせる。
「二人とも、落ちついて。寝起きから元気過ぎるよ」
「ご、ごめんなさい。昨日、やる気満々だったので無償にムラムラしてまして……」
ミルは頬に手を置きながら尻尾をうねらせる。
「ミルちゃん、そんなことはっきり言ったらはしたないよ……」
シトラは両手で顔を隠しながら言う。
「イリスちゃんがいるし、大っぴらにそんなことはできない。我慢してもらわないといけないね。僕はそこまで辛い思いはしていないけど、シトラとミルは普通に辛そうだよね」
「そりゃあ、超強い雄がいて、結婚しちゃってるとなったら子供が欲しくなっちゃうのが獣族の性と言うものですよ。もう、薬を早く飲まないと頭が本当におかしくなっちゃいます……。キースさんを見ていたらむらむらが止まりません……、体が溶けちゃいそうなくらい熱いんです……」
ミルは薬を切らしているらしく、発情しっぱなしだった。
僕とミル、シトラはお風呂を出て服を着替える。僕とミルは朝食を抜き、シトラにイリスちゃんを任せ、リーフさんの薬屋さんに向かった。
「すみません、リーフさん。発情止めをください」
「ああ、少年と嬢ちゃん。まあ、見たら何となく状況がわかった。すぐ作ろう」
森の民のリーフさんは振子椅子に座っていたが立ち上がり、薬草を混ぜ合わせ、丸薬を作った。ミルは一粒の丸薬を飲むと気分が納まったのか、腹式呼吸をして心を静めていた。
「ふぅ……。すみません、治まってきました……」
ミルの発情は止まり、呼吸が安定する。
「よかった。えっと、リーフさん。今、ミルの発情止めは何粒作れますか? 作れるだけ作ってほしいんですけど」
「そうだな。今、今作れる個数は八〇個が限界だな。だが、そんなに買ってどうするつもりなんだい?」
「僕達、これから王都に行こうと思っているんです。その後はウィリディス領に向かう予定なので、クサントス領に当分戻ってこれないんです。なので、なるべく多くの発情止めを買いたいんですよ。あと、他の領土から発注するかもしれないので、その都度、対応してもらっても構いませんか?」
「そう言うことなら、構わない。私も儲けられるからな。美味い話だ」
リーフさんは発情止めを八〇粒作り、革袋の中に入れた後、差し出してきた。僕とミルは金貨四〇枚ずつ支払った。
「じゃあ、リーフさん。もしかしたら王城でまたお会いするかもしれないので、その時はよろしくお願いします」
僕はリーフさんに頭を下げた。
「はぁ……。なぜ少年が私が王城に行くと知っているんだい?」
「べニアさんに提案したのは僕ですから」
僕が微笑むと、リーフさんは苦笑いを浮かべた。
僕達は家にいったん帰る。イリスちゃんは今も寝ているらしく、起こさないよう、静かに移動する。僕とミルはシトラが作った朝食を得て、活力を補充した。
僕はしたいことが残っていたので、王都に行く前に行っておくことにした。
寝室に保管してあるトランクを開け、虹硬貨一〇枚が入っている革袋を手に取り、クサントスギルドに向かった。シトラとミルに言うと怒られそうなので、お忍びで向かう。
「ふわーあ。おや、キース君じゃないか。いったいどうしたんだい?」
眠そうにあくびをしていたべニアさんは僕の顔を見ながら聞いてきた。
「お金を寄付しに来ました。このお金でクサントス領に住んでいる孤児や放浪者の腹の足しになる品を与えてください」
僕は虹硬貨が一〇枚入っている革袋をべニアさんに渡す。べニアさんは革袋の中身を見て、目を丸くした。
「ほ、本当に良いのかい? 賞金を全て寄付するなんて……前代未聞だ」
「僕が使うよりも、子供達に使ってあげた方がお金も喜ぶと思ったんです」
「はは……。お金に感情など無いと思うがね……」
べニアさんはありがたいと言わんばかりに両手で革袋を包み、感謝してきた。
「ギルドカードを貸してくれないか」
べニアさんは僕に手を差し伸ばした。
僕はギルドカードを胸もとから取り出し、差し出す。
「なにをするんですか?」
「なにって、冒険者ギルドに寄付したらその分、特典が付くんだよ。見たところ、ルフス領にも多額の寄付をしているようだし、ほんと君は聖人なんだな」
「まあ、出来ることをしているだけですよ。そんな大金が家の中に置いてあっても怖いだけなので、寄付しに来ただけです。ルフス領だと満額寄付すると魔物の報酬が三割増しになると言う特典ですけど、クサントス領だとどうなるんですか?」
「ギルド関連の商品が三割引きになる」
「へえ、良いですね。ありがとうございます」
僕はべニアさんに感謝し、特典を付けてもらったギルドカードを返してもらった。
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