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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第二章 シトラの為に……

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午前三時五五分起床

「帰ってきたか……。今日は帰ってこられないと思っていたんだがな。六時間か、まずまずだな。その怪我に加えて炎天下でのビラ配り。その間、水分補給は無し。食事もろくに取っていないだろうに。さっきの発言は嘘ではないらしいな」


 ――僕、怒られてないみたいだ……。よかった。


「おいおい、大丈夫なのかあの少年」


「でも、アイクさんと同じ服着てるわよ」


「新しい従業員か? でも、アイクさんの所で働ける奴なんているのかよ」


 僕がお店の中で倒れたので、お客さんを動揺させてしまった。


「すまない。店の新人が、今、研修しているんだ。気にせず食事してくれ」


「いや……気にするなと言われましても」


「まぁ、そうだな。ちょっと待っててくれ。こいつを移動させる」


 もう一歩も動けない僕はアイクさんに首根っこを掴まれ、持ち上げられる。

 そのまま肩に担がれ、どこかに連れていかれた。


「ここで寝ていろ。休憩して起きてこれたら調理場まで来い。夕食を出してやる」


 僕はどこかの部屋にあるベッドにおろされたらしい。

 アイクさんの声は微かに聞こえたが、少し休憩したくらいでは立ち上がれる気がしない。


「起きてこられないのなら、朝まで眠っていろ。だが、明日の仕事は午前四時からだ。遅れないようにな」


「は、はい……」


 僕は声にならない掠れた息をはきながら返事する。


 ――午前四時から仕事か。今、あり得ないくらい疲労困憊なのに、そんな朝早くから起きられるかな……。


 僕は瞼を完全に閉じた瞬間、死ぬように眠った。


 ☆☆☆☆


「う……、痛い……。筋肉痛が全身に出てるぞ……」


 僕は全身に走る痛みで目が覚めた。

 体を起こそうにも硬くなってしまった筋肉が僕の言うことを聞かず、全く動けない。

 眼だけは動かせたので、窓の方に視線を向ける。カーテンが閉められているが、日の光は見えない。未だ真っ暗だった。


「外が明るくない……。どこかに時計はないかな。今の時間を知りたいんだけど」


 僕は眼を動かして時計を探す。壁に振り子時計が取り付けられていた。


 ――え……、まだ午後一一時。嘘でしょ。僕、一時間しか寝ていないの。それにしては頭の痛さは無くなったし、思考も出来るようになった。体が動かないだけで他の部分は六時間前と大差ないな。


「これなら、夕食が得られるかもしれないぞ。体を動かせ……」


 僕はまず指先を動かした。

 次に手首や足先、足首、などを少しずつ動かし、筋肉をほぐしていく。

 膝が曲がるようになったので、ベッドから足を出して足裏を床に付けようとする。

 その時の力を使い、体を置き上がらせようと考えたのだ。


 僕は足裏を床に近づけ、上体を起こすために腹に力を入れる。


「ふぐぐ……。勢いよく上体を起こせ」


 僕は体を震わせながら、上半身を起こした。

 絶対に起き上がれないと思っていたので、結構嬉しい。


「これで、立ち上がれさえすれば……。あれ、足に力が入らない。六時間走って足が棒になってしまったのか。でも、せっかく起きたんだ。お腹も空いてるし、何か食べないと明日の活力が足りなくなる。こうなったら、地面を這ってでも……」


 動き出そうとした時だった。


「あ……。なんでだ……。また……意識が遠くなっていく」


 僕は横に倒れ、ベッドに埋もれる。

 後ろの方で何かが一瞬光ったような気がしたが、僕には光ったものを調べる余力すら残っておらず、深い深い眠りに落ちる。


 ☆☆☆☆


「う……。うぅん……、は! い、今何時だ!」


 僕は部屋に立て掛けられた時計を見る。

 時刻は午前三時五五


「あれ、体が凄い楽だ。昨日の夜はあんなにつらかったのになんでだろう。僕の体ってこんなに体力の回復が速かったかな」


 体の軽さが、筋肉痛を感じさせない。傷の痛みもない。


「腕はまだ治っていないけど痛みはない。この前、フレイと戦って得た傷よりも格段に治りがいいぞ。って! そんなことを考えてる場合じゃない。早くアイクさんの所に行かないと!」


 僕は革袋の紐を持って部屋を飛び出す。

 辺りを見渡してもどこがどこだか全く分からない。

 ただ、光が漏れている部屋があったのでその方向に向って走る。扉の取っ手を握り、下にずらして押し込んだ。


「アイクさんはいますか……」


「お、何だ。起きてこれたのか。昨日、気絶するほど走ったのにこの時間に起きられるとは……。変わった体質だな、お前」


 僕が入った部屋はアイクさんの書斎だった。

 本棚には数多くの本が並んでいる。


「昨日は三時間も遅れてしまったので、朝は早く起きようとずっと考えていたから何とか起きれたのかもしれません」


「そうか。丁度いい、俺も今から仕込みの時間だ。キースも調理場に来い」


「はい」


 ――二回も遅れたらさすがに見放されると思ってたから、遅れないで済んで本当によかった。と言うか、アイクさんこんな朝早くから書斎で何か書いていたよな。いつ寝たんだ。


 いつ寝たのか全く分からないアイクさんの顔は眠気など一切感じさせず、昨日見た凛々しい顏そのままだった。


「あの、アイクさんはいつ寝たんですか? 午後一一時まで起きてたんですよね。さっきも何か書いていましたし」


「ああ、寝たぞ。ゼロ時から午前三時までな。昨日は疲れてたからな、三時間も寝てしまった。本来は一時間ほどで大丈夫なんだがな」


「さ、三時間……しか寝ていないんですか。それでそんなにすっきりした顔で起きていられるなんて、凄いですね」


「冒険者時代の癖がまだ抜けていないんだ。あの頃は夜も危険だったからな。寝ている暇などなかった」


「でも、エルツさんとパーティーを組んでたんですよね。見張りを二分すればもっと楽ができたんじゃ……」


「あいつに見張りができると思うか?」


 僕はエルツさんのガサツさを思い出す。


「で、できないかもしれませんね」


「そうだろ。エルツは、初めは丁寧にやるくせに、最後は適当に済ませるんだ。その癖が抜けなくてな。見張り中、居眠りをされて何度死にかけたか……」


 アイクさんは苦笑いを浮かべ、過去を思い出したかのように溜息をついた。


「あいつには戦闘だけを任せて、あとの仕事は俺がすることで調節していた。それでのし上がるんだから、相性は良かったんだろうな」


「そうだったんですか」


 それ以外会話が続かず、僕たちは広い料理場に移動した。


 入ってそうそうに料理場を見回すと銀色の大きな食卓に魔石を使ったコンロや冷蔵庫などが設備されていた。

 食器や調理道具なども綺麗に整頓されており、昨日の緊張していたときには気づけなかったアイクさんの几帳面な性格がにじみ出ている料理場だった。

 アイクさんはいつの間にかエプロンを身に着け、すぐに包丁を手に取った。


「すぐに朝飯を作ってやる。それを食べたら、昨日とは違う方向にビラを配ってこい。枚数は全く同じだ。午前四時過ぎから三時間で帰ってこい」


「は、はい! 頑張ります!」


「ほう……。弱音は吐かないんだな」


「昨日は情けない姿を見せたので、今日こそは成し遂げてみせます!」


「そうか、やる気はあるみたいだな」


 アイクさんは小さく笑っていた。

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