結婚の話し
「強引でも何でもいいの。まずは本題を話すね。えっとスージアさんとテリア姉様が結婚するの」
イリスちゃんは耳を疑うような発言をした。
「えっ! そうなの!」
僕とシトラは同時に大声をだした。スージアと言うのは僕の二番目の兄だ。
実家で僕に珍しく優しくしてくれた人でスージア兄さんとは縁を切りたくないと思っているほど慕っている。
テリアさんはプルウィウス王国第二王女テリア・プルウィウス様のことだ。
スージア兄さんとテリアさんは昔から好き合っており、結婚を約束された者達だ。両者とも優しく、良い方達なのは知っている。
でもイリスちゃんがわざわざ結婚の報告をしに来てくれるとはいったいどいう要件なんだろう。
「おめでたいんだけど、なんでイリスちゃんが来てくれたの?」
「それが……。ドロウ公爵とドロウ家長男のリュウズさんがスージアさんとテリア姉様の結婚を大反対していて、私が来た理由は王都の記事に白髪の青年がクサントス領の由緒正しき橙色武術祭で優勝したと言う記事を読んで普通にキース君に会いたかったのと今回の話しを一緒に考えてもらおうと思って列車で超急いで来ちゃった」
イリスちゃんは指を突きながら呟く。
「護衛は……?」
「護衛? あ、着けるの忘れてたー」
イリスちゃんは舌を出しながら失敗しちゃったと言わんばかりの頭に拳骨を乗せ、コツンと叩く。変わってないなと思いながら、護衛無しでよくここまで来れたなと思うばかりだ。
「よく、人攫いに合いませんでしたね」
シトラは呆れを通り越し、逆に冷静になっていた。
「何度もあったけど、全部返り討ちにしてきたよ」
イリスちゃんは胸を張り、鼻高々な表情を浮かべた。
「はは……。ほんと、イリスちゃんは昔のままおてんばで可愛らしい」
「…………ぐはっ!」
イリスちゃんは鼻血を出しながら倒れた。
「ちょっ! キース、何したの! 死刑になりたいの!」
シトラはイリスちゃんの頭を持ち、下を向かせながら布で鼻を押さえる。
「ええ……、僕は何もしてないよ。イリスちゃんが独りでに鼻血を出しただけで……」
「六年前のキース君しか見た覚えが無かったら、ここまでカッコよくなってると思わなくて、可愛いなんて言われて頭に血が上っちゃった」
イリスちゃんは鼻をつまみながら言う。
「ほら、キースのせいじゃない。謝りなさいよ」
シトラは何があってもイリスちゃんの味方らしい。僕は言われた通り、イリスちゃんに謝る。
「ごめん、イリスちゃん。何を謝ったらいいかわからないけど、謝っておくよ」
「じゃあ、イケメンになりすぎてごめんなさいと言って」
「な……。うう……、イ、イケメンになりすぎてごめんなさい……」
「ぐはっ!」
イリスちゃんはまた倒れた。何なのこの子……。
「か、可愛い……。律儀にやっちゃうところとか、ものすごく萌える……」
「い、イリス様。大丈夫ですか! しっかりしてください!」
シトラはイリスちゃんを揺さぶり、声をかける。
「ん、んんっ。取り乱しちゃった。ごめんごめん。えっと、キース君はスージアさんとテリア姉様の結婚に反対しないよね?」
イリスちゃんは少々強制かのように言う。
「反対しないけど……。なんで、反対されているの? 普通に喜んでいいと思うんだけど」
「それが……。ドロウ公爵は次男よりも長男の方がテリア姉様に相応しいって言うの」
「……まあ、次男よりも長男の方が家を継ぐから、王家と言う繋がりが欲しいのはわかる。でも、次男でも家を継げることに変わりないんじゃ」
「違うの。スージアさんはドロウ家からプルウィウス家に養子に入るんだよ」
「へ? つ、つまり、スージア兄さんは王家に入るってこと……」
「うん。お父さんがスージアさんを養子にとって王様にしようと考えてるらしくてビオレータ姉様は自分が女王になるって大反対。大臣たちはスージアさんの凄さを知っているから渋々承諾している感じ。私とテリア姉様は大大歓迎なんだけど……」
「テリアさんをリュウズ兄さんに嫁入りさせて王家とのつながりを強くするか、リュウズ兄さんを王様にのし上げたいと言う糞野郎の悪だくみが見え見えなんだよな……」
「うん……。キース君もこの話に参加してほしいし、二組の喧嘩を止めてほしいの」
「ええ……。僕はもうドロウ家じゃないんだよ。頭首に勘当されたんだ」
「家族の縁は切ったかもしれないけど、スージアさんに何度も助けられたんでしょ。手紙にも書いてたじゃん。そのスージアさんが困ってるんだよ」
「うぐぐ……。確かにスージア兄さんには本当にお世話になった。僕が生きているのは兄さんのおかげと言ってもいいくらいだ。シトラもでしょ」
「キースとお母さんの次に一緒にお風呂に入った人ですからね。キースより誠実で大好きです。スージア様に襲われてたら喜んでお受けしたくらいですよ」
「ちょっ! シトラ! そこまで仲良しだったの!」
僕は初耳の話しを聞き、スージア兄さんに負けた気になる。まあ、あの人に勝てる人なんてほぼ存在しないのだけど……。
「そのスージアさんが困ってるんだよ。ドロウ家の使用人たちはドロウ公爵に逆らえないし、無断で結婚しようとしたら貴族の規則に反するとかなんとか……。しっかりと了承を得ないと結婚させてもらえないんだよ」
「えっと僕が何か言ったところで状況が変わるの?」
「キース君は大金を持ってるんだよね。金貨一〇〇〇〇枚の賞金が貰えたって記事に書いてあった。縁を切ってもらうためにお金を差し出すって言う方法があって……」
「まあ、確かにお金は持ってるけど、王家からは出せないの?」
「今、ビオレータ姉様が政権を握っちゃってるから、お金を銅貨一枚も出してくれないの。スージアさんは今まで魔法大学まで通ってたし、お金が貯まってなくて。テリア姉様もいつも質素な服を着てるから、売れる物もないし。私はすぐ美味しい食べ物食べちゃうし、お金を落としちゃうし、宝石も取れちゃうしで、お金ないんだよねー」
イリスちゃんは苦笑いしながら言う。あまりにもドジすぎる。
「僕がスージア兄さんの勘当金を支払えば、結婚出来るのか。そう考えたら、悪くないね。今まで金貨一〇〇〇〇枚以上の恩は確実に受けてる。困っているいるのなら助けてあげたい」
「はわわ、ありがとう、キース君。会いに来てよかったよ!」
イリスちゃんは僕に抱き着き、喜んだ。シトラやミルとは違ったいい匂いがする……。
「じゃあ、明日、列車に乗って王都に返ろう!」
「え? 列車は八日以上帰ってこないよ」
僕は飛び跳ねているイリスちゃんに言う。
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