求婚
僕達は座り、運ばれてくる料理を待つ。
運ばれてきたのは長芋と豆腐、卵料理だった。前菜は胃に負担がかかりにくい料理でとても美味しかった。スッポンのスープ、鰻のかば焼き、牡蠣の蒸し焼きなど、高級食材が並び、食べるたびに体が元気になっていくのを感じる。
「ほんと、ここの料理は食べるだけで元気が出てくるよね。すごいよなー」
「ほ、ほんとね……。だ、大丈夫かしら……」
「シトラさん。今日は体力をつけておかないとやばい気がするので、しっかりと食べておきましょう! ぼくの勘がそう言っています!」
ミルはしっかりと噛み締めながら食べる。
「そうね。体力を付けないと本当に明日動けなくなっちゃうかもしれない」
前菜の後に軽くお腹を満たしたあと、主菜が来た。高級霜降り肉のステーキが置かれる。
僕達は肉を噛み締め、心の底から美味しさを得た。言葉にならない美味さで、貴族が来たがるのもわかる。主菜の後、デザートが配られた。今日はミルの誕生日と言うことで大きなケーキを用意してもらった。短い時間だったのに急いで用意してくれたらしい。
「じゃあ、今からちょっとした晩酌にでもしようか」
僕はアイクさんから貰った葡萄酒を取り出す。
「お酒がやっと飲めるんですね!」
ミルは尻尾を振りながら嬉しそうにしていた。
「飲めると言っても無理して飲んだら駄目だよ。飲める者と飲めない者がいるんだ」
僕はグラスを用意してもらい、葡萄酒を三センチほど注ぐ。そのあと大きなケーキを四等分に分けた。
「じゃあ、ミル。誕生日おめでとう!」
「誕生日おめでとう!」
シトラとアルブも大きな声で言う。
僕達はミルの誕生日を祝い、グラスを軽く当てあい、人生初めてのお酒を飲む。
僕はお酒を口に踏んだ。すると舌に乗る渋みと鼻から抜ける揮発性の液体、葡萄の良い香りが広がるのを感じる。
「ふぅ……。昔、アイクさんのお店で飲ませてもらった疑似葡萄酒の味がする……」
「ほんとですね。でも、揮発性の液体がふわっとなるので匂いがとてもいいです」
「うん。私の鼻でも全然嫌な臭いを感じない。すごくいい香り」
僕達は葡萄酒を飲み、ケーキを食す。渋みと甘みが口の中に混ざり合い、飽きない美味しさになっている。ケーキは果実たっぷりで、ミカンやマンゴーなどの橙色の果物が多かった。
「じゃあ、ミル。僕からの誕生日プレゼントを送るよ」
僕はずっと隠していたリングケースを手に取った。
「え、ええ、えええ……。な、なんですか、なんですか!」
ミルは僕が持つ小さな箱を見るや否や声を荒げる。
「ミル、誕生日おめでとう。これをなんて言って渡したらいいか迷ったけど、もう言っていいのかな」
僕はミルの前で立ち膝になる。そのまま箱を開け、イエローダイアモンドが付けられた指輪を見せる。
「ミル、僕と家族になってください」
「………………」
ミルは僕の発言を聞き、正座の状態から後方に倒れた。
「ミ、ミル、大丈夫?」
僕はミルを抱き起こす。
「は、はわわ……、はわわわわ……。えっと、それってつまるところそう言うことですか?」
「うん。そう言うことだよ。僕と結婚してほしい」
「う、ううううううぅぅ……。はいっ!」
ミルは僕に抱き着きながら尻尾を振る。
「はあー、ミルちゃんに先を越されちゃったなー」
シトラはブツブツと言い始めた。
「シトラ、結婚しよう」
僕はシトラの方を向き、声を出す。
「…………バカ。いきなり二人に求愛するってどういうつもり……」
「どうもこうも僕は初めからこうするつもりだったよ。ミルの成人の日と決めていたんだ」
「はぁ……、私にも綺麗な品があるのかしらー」
シトラは少々泣きながら言う。
僕はミルの頭を撫でる。その後、シトラの方に向かい、リングケースを開けた。すると赤みが強いレッドダイアモンドが付けられた品が露になる。
「こ、これ……。二カ月くらい前に取ったダイアモンド……」
「うん。ミルの方も実際は貴重な品だったんだ。まあ、シトラにはバレてたけど、これを加工してもらって作ったんだよ」
僕はシトラの左手の薬指に指輪をはめる。すると、指輪の大きさが全然違った。
「もう、何してるのよ。カッコ付かないわね……。あれ?」
シトラが手を握ると指輪が縮み、指の太さに丁度合うようになった。
「す、すごい、指輪がちゃんと合うようになった」
「キースさん、キースさん! ぼくの指にも嵌めてください」
「今行くよ」
僕はミルの左手の薬指にイエローダイアモンドがついた指輪を嵌める。やはり指の太さがあっていなかった。ぎゅっと握ると指輪の大きさが縮まり丁度合うようになる。
「ぼく、お嫁さんになっちゃいました……。うわーいっ!」
ミルは僕に飛びついてきた。尻尾をブンブンと揺らし、耳がピコピコと動いている。そのまま僕の唇を眺めていた。
「キースさん、今、キスしてください……」
「……わかった」
僕はミルの顎に人差し指を置き、軽く口づけをする。
「ああ……、ぼくは世界一の幸せ者ですぅ……」
ミルは僕にぎゅっと抱き着いて言う。
「主、私にはないんですかー。私だっていっぱしの乙女なんですよー」
アルブは尻尾を振りながら言った。まだ、生後二か月足らずなのに……。
「アルブはまだゼロ歳なんだから、何も無いよ」
「うえーん、主、酷いー」
アルブは駄々をこねた。珍しい。
「じゃあ、撫でてあげるから、これで我慢してね」
僕はアルブの頭を撫でる。すると用意に大人しくなり、テーブルの上で寝そべった。
「僕からの贈り物は終わったけど、シトラからはあるの?」
「私はこれよ」
シトラはミルに髪留めを渡した。
「可愛い! ありがとうございますっ!」
ミルは前髪を止めている紐をほどき、シトラから貰った髪留めを使って止めた。
「うん、良く似合ってる。すごく可愛いよ」
「えへへー、ありがとうございます」
僕達は贈物を送り、ケーキと葡萄酒をたしなんでいたのだが、思考がぼんやりして来た。
「う、ううん……。何か、眠たくなってきた……」
僕は視界がしゃばしゃばする。
「キースさん、キースさん、ちゅっちゅー、もう我慢できませーん」
ミルは僕の頬にキツツキみたくキスしていた。
「はあ、二人共酔っちゃってるわね。まあ、私も酔っちゃってるんだけど……」
シトラは素面のようだが、頬がほんわりと赤くなっている。
「すぴーすぴー」
アルブは疲れたのか眠りこくっていた。
「キース、今日はするの? しないの? 私達は準備万端だけど……、あなたが決めて……」
シトラは浴衣を少々着崩す。黒色の肌が透けた厭らしい胸当てを僕に見せながら聞いてくる。
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